失敗しました(玄花)

三国が成立してからも日が浅い頃、玄徳をはじめに多くの者の徹夜が続いていた。

故に、玄徳が睡眠不足以外でも仕事に支障がある事態を孔明は軽い口調で指摘をした。

「本当に我が君と我が弟子は相思相愛ですね」

「……どういう意味だ、孔明?」

そう孔明に答える玄徳からは覇気が感じられず、それが深刻な事態を物語っていた。

だが、玄徳に必要な事、否、必要な存在も見抜いている孔明はただ意味深に微笑んだ。

「いえ、ただの率直な呟きです。ただ、相思相愛を正しく深めたいのでしたら、策はありますよ?」

「……だが、今夜も徹夜だろう?」

という玄徳が隠そうとしない、否、隠す余裕もなくなっている事に孔明は既視感を抱いた。

正確に言えば、亮として過ごした日々と、その後の苦悩も感慨深いものだと自嘲しながら。

だが、孔明はそれを言葉にせず、ただ主君の問いに答える進言、否、策を言葉にした。

「ええ。なので、今夜の夜食は婚約者殿に頂く事にしても良いかと」

「……花もおまえの仕事を手伝っているんだろう?」

「ボクは主君の未来の奥方に徹夜仕事させるほど仕事の鬼ではありませんよ」

「……なら、頼む」

そういう玄徳に応える孔明は『玄徳さん』への思いを込めた様な笑みを見せた。

それは孔明が見せなかった、否、玄徳に見せられなかった笑みだと察して鷹揚に微笑んだ。

その様な玄徳の思いも見抜いている孔明は、すぐに臣下の礼と共に軍師らしく答えた。

「はい。彼女にもそう伝えます」

 

 

 

孔明の言葉通り、深夜になる前に私室へ戻る事も指示された花は芙蓉につかまった。

否、玄徳の限界を乙女の勘で察していた芙蓉は、花が積極的になる事を求めた。

「やせ我慢のし過ぎよ、花!」

「でも、師匠も徹夜が続いているし、玄徳さんも休む暇もないみたいだし……」

「だからと言って、婚約者を放っておいて良い理由なんてないわよ!」

「……でも」

と芙蓉の勧めを、否、恋する乙女として正直になる事を、花は頑なに否定した。

それが芙蓉とは違う意味で玄徳を想うが故の行動であるが故に平行線となった。

だが、その様な乙女心から一番遠いといえる孔明がその状況を打破する様に問いかけた。

「なら、玄徳様のお願いも断るのかい?」

「師匠?!」

「我が君は未来の奥方からの夜食を所望されたのだけど、君は作らないのかな?」

そういう孔明の提案、否、策は、花にとって想定外だが、芙蓉には渡りに船だった。

「……孔明殿は会話の邪魔をしに来たわけではないのね?」

「ええ、芙蓉殿にとっても実りある行動の方をお勧めしようかと」

「なら、これから夜食をつくりましょう、花!」

「え、でも、玄徳さんはまだ仕事中じゃあ……」

という花の躊躇い、否、玄徳と仕事への気遣いに対し、孔明はただ微笑みながら答えた。

「夜食を食べるくらいの休憩は出来るし、主君の心の安寧を保つ事も支える者の務めだよ」

「師匠、ありがとうございます!」

「まだ玄徳様の徹夜は続く予定だから、君が癒してあげてね」

そう花に答える孔明が隠したモノに芙蓉は気付いたが、あえて気づかないフリをした。

 

 

 

また作った食事を食べて欲しいと思って練習していた花は手際よく夜食をつくれた。

そして、芙蓉の太鼓判ももらった花は、玄徳の執務室に夜食を持って訪れた。

「花です。夜食をつくってきましたが、入っても良いですか?」

「ああ、大丈夫だ」

と答えた玄徳の執務室に入室した花は、自作の夜食を手渡しながら控えめに微笑んだ。

「まだこちらの料理にも慣れていないので、上手には作れなくて……すみません」

「そんな事は無い。差し入れてくれるものはいつでも美味しいぞ。なにせ、花の想いがこもった温かな食事だからな」

そう満面の笑みを見せる玄徳の言葉に対し、急に花は目を見開いてからすぐに俯いた。

その様な花の言動が、否、予測も推測も出来ない反応故に、玄徳はただ名を口にした。

「花?」

「玄徳さんに喜んでもらう為に作ってきたのに、私の方が喜んでは意味がないのに……」

という花の恋する乙女な反応は、玄徳の男心を激しく揺さぶり、理性も総動員させた。

だが、愛おしいと想う心が溢れた玄徳は、激しい衝動を抑えながらも花を強く抱きしめた。

「いや、そうおまえが思ってくれるなら、俺も嬉しいぞ?」

「え?」

「俺もおまえをいつも想い、幸せにしたいとも思っている。だから、お前が喜んでくれるなら、俺も嬉しいと思うぞ?」

そう玄徳から問われた、否、告白をされた花は、自身の正直な想いも答えとした。

「はい。私も玄徳さんと同じです」

「なら、かまわないだろう?」

「……玄徳さん」

「花……」

と互いの名を口にしあう玄徳と花の唇が重なった直後、無遠慮な孔明が入室を求めた。

「失礼しても良いですか、我が君?」

この様な孔明を想像もしていなかった花はただ身を硬くし、玄徳は溜め息を吐いた。

「……これも予測済みか、孔明?」

「ええ、こういった事態に対応するのも軍師の仕事かと」

そう玄徳に答えながら、孔明は意味深な笑み共に執務室に入室した。

そして、傍若無人な孔明の存在を受け入れた、否、慣れていた花はただ玄徳に謝罪した。

「……すみません、玄徳さん」

「いや、孔明の横槍は正しいから、気にするな、花」

「横槍と言う時点で、邪魔だと認識されているんですね、玄徳様?」

と孔明が問うと、玄徳はその問いには答えず、ただ持参してきた書簡を確認しようとした。

「この書簡が続きの資料か、孔明?」

「はい。なので、食事はボクが退室してからにしてくださいね」

「……では、失礼します」

そう花が、玄徳と孔明の仕事の邪魔をしないように退室の意を言葉にした。

それ故に、玄徳はただ花への感謝と退室の許可を言葉にした。

「ああ、夜食をありがとう、花」

「はい! 今度はもっと頑張ります」

と玄徳に応えた花は満面の笑みを見せると、すぐに一礼をしてから静かに退室した。

それを緩んだ表情で見送った玄徳に対し、孔明は再び水を差す様に冷静な指摘をした。

「我が弟子は本当に献身的な妻にもなりそうですね?」

「……仕事の話をするのではないのか、孔明?」

「では、まずこの書簡に目を通してください」

「ああ……この件か」

 

 

 

 

 

玄徳さんと花ちゃんの恋模様では師匠が大暗躍するのが私の萌えのようです。

いえ、勘違い暴走嫉妬モノも大好物ですが、コミックス版の様な展開も萌えるので。

また、明日は雲長×花の予定です。