ろいやる・ろらぶる 第2話

あてずっぽうの糾弾と暴漢の毒刃に倒れて死ぬ事を願った私を、ディアーナが否定した。

「駄目ですわ、お兄様!」

そう言われた私は驚く事しか出来なかった。

「えっ……」

「……お兄様が死んだら、誰がこの国を導きますの? いままでこの国を引っ張っていたのは、あなたですわ。わたくしのお兄様はあなたですわ。すみれ色の瞳をした、自慢のお兄様は……あなただけですわ」

と、ディアーナに断言をされた私は、天国と地獄を一度に味わった。

今、『彼女』が望めば、全てを捨てることが出来るかもしれなかったから。

『私を男として見られる』と言われたら……

だが、全てを知った『ディアーナ』が私を兄と呼んでくれた。

それだけで私は満たされていくのを実感した。

「……私を兄と呼んでくれるのですか?」

「……それ以外の呼び方なんて無いですわ」

少しだけ照れながら応えるディアーナに、私も出来るだけ綺麗に笑って応えた。

「……ありがとう」

 

 

 

今から思えば『あの時』に全てを捨てられただろうか?

そんな思いだけは今でもわからない。

だが、『セイリオス』として生きるのも『ディアーナ』の言葉があったから苦ではない。

大切な『姫君』に求められた結果なのだから。

だから、現状が好転しない限り、『ディアーナ』を『帰す』つもりは無い。

私にとって『ディアーナ』以上の存在など無いのだから……

 

 

 

ろいやる・ろらぶる 第2話

 

 

 

シオンの執務室から、珍しくシリアスな声が部屋から洩れていた。

「陛下!」

「断る!」

そう断言するセイルに、シオンは不審を込めた視線で問い掛けた。

「本当に姫さんを帰すつもりが無いのか!?」

「私に魔法をかけた自慢の妹を『手放す』つもりはない」

と、セイルが応えた為、シオンは常からは想像できない真剣な瞳で問い続けた。

「……本気か、セイル?」

「私の全ては民のモノだとしても……『ディアーナ』は守りたいんだ」

そうセイルが言う意図を理解したシオンは小さな安堵のため息をついてから応えた。

「……でも、ダリスの王様は無実だぞ?」

そう言われたセイルは驚きから目を見開いた。

「本当か、シオン?」

驚くセイルとは対照的に、シオンはいつもの調子に戻って軽く応えた。

「姫さんにバカな事を吹き込んだダリスの臣下に頼まれた未亡人からの証言は取れてる」

「……この数日で他国の事をそこまで……流石だな、シオン。だが、ディアーナは納得できないだろうな」

「それはお前さんもだろう?」

そうシオンは、簡単にだが、鋭い問い返しをした。

そんなシオンに対して、セイルは沈黙を返す事しか出来なかった。

「……」

「まあ、こんな事を再び起こす気はねぇから、覚悟しておけ、セイル」

今度はセイルがシオンの意図を確認するかのように問いかけた。

「シオン?」

そう問われたシオンは応えずに、ただ事実を答えた。

「ちょうど良い具合に事情通がクラインに戻ってきたみたいだからな」

 

 

 

「よ、アイシュ!」

そう言って、シオンは宮廷の執務室に入った。

そして、目当ての人物は見かけによらない鋭い問いを返した。

「あ、シオン様~。今日は~どんな難題を~お持ちで~?」

「お前、何気にツッコミがきつくなってきたな。根性が曲がるのは弟だけで十分だぞ」

そう言われたアイシュは彼にしては珍しく怒りを込めた応えを返した。

「キールは~いい子です~! それに~無茶を言われる事が多いのは~事実ですよ~」

「でも今回は手紙を書いてもらいたいだけなんだぜ?」

と言うシオンの常にない慎重かつ真面目な口調に対して、アイシュも慎重に答えた。

「え~と、キールに~ですか?」

「そうだ。イーリスって言う吟遊詩人がクラインに来てるだろ? そいつをキールに信用させてほしいんだよ」

そう言われたアイシュは、シオンの意図に気付き、慌てて答えた。

「……まさか~姫さまが~出戻られた事に~係われ~と言われるんですか~!」

「お、さすがは天才と誉れ高いアイシュ様だな。その調子で今回もよろしくな」

そう言って、シオンはアイシュの肩を叩いた。

しかし、簡単に頷けないアイシュは反論を返した。

「駄目ですよ~。僕が~係わったら~さらに~キールの機嫌が~悪くなるだけですよ~」

「だから、イーリスって言う人物が信用に値するっていう一文だけ頼んでるんだよ」

そう言うシオンの強い口調から、断れないと思ったアイシュは渋々応えた。

「……わかりました~。姫様の為ですから~」

「サンキュー。助かるぜ、アイシュ」

 

 

 

シオンとアイシュの会話から数時間後、まだキールのラボは閉まっていた。

アルムがクラインに滞在している間、安全策としてラボの看板を下ろしていた。

しかし、緊急の客やお得意様には対応するように入り口のドアは開いていた。

そのドアが開いたので、シルフィスは窓口に向かった。

「お店を閉められているようですが、失礼しますよ」

そう言って入って来た珍客に、シルフィスは驚いた。

「あ、あなたは……」

「はい、お久しぶりですね、シルフィス」

そう言って微笑む人物をシルフィスの背後から問いただす様にアルムが問い掛けた。

「君は?」

「申し遅れました。吟遊詩人のイーリスと申します。アルムレディン陛下」

事情を知っているという答えを聞かされたアルムは無言で応えた。

そして、イーリスも言葉を重ねること無く、無言で応えた。

そんな沈黙を破る様に、シルフィスは几帳面な口調で口を挟んだ。

「あ、イーリスは怪しい者じゃないですよ、陛下」

「そうですね。ただの貴族嫌いな流れ者ですから」

そう淡々とイーリスは言葉を繋げた。

それを聞いたアルムも淡々と問い続けた。

「貴族を厭う者が王族に何の用だろう?」

「私も係わりたいとは思っていないのですが、悪友に言われましたのでね」

そう言われたアルムは緊張をしながらも、口調を緩めて問い続けた。

「悪友……シオンの事かな?」

「はい。今回は王家の問題ではなく、兄妹間の問題だ、と」

と言う、イーリスの口調と態度に信頼感を抱いたアルムは笑顔を返した。

「確かに、今回の騒動はクライン王家の絆の強さが仇になったと言えるね」

「あの兄妹には、少々因縁がありますが、シオンの様に王家に縛られるのは御免ですから」

と、ある意味では、分かりやすいイーリスの今回の事件への介入理由を簡潔に答えた。

それを聞かされたアルムは軽口を叩くように応えた。

「なるほど、今回の手助けで、過去を無かった事に出来る、とでも言われたのかな?」

「ええ、そうです。少しは信用して頂けたでしょうか?」

「ああ。君の事はディアーナから聞いた事があるしね。手助けをお願いするよ」

そうアルムが緊張を緩めて答えたので、イーリスも微笑みながら応えた。

「それを聞いて安心しました。私も金銭が絡む依頼を蹴るのは少々躊躇いましてね」

「……あの、手助けって?」

そうシルフィスが口を挟んだ時、イーリスが真剣な眼差しで応えた。

「キールに筆頭の宮廷魔導師から命令が下されました。王宮に出向くように、と」

「……今回の件に、キールは係わるつもりが無いと断言していたのですが」

「いえ、この手紙を読んでも、係わらないと言われた場合は命令らしいです」

イーリスの強い口調から、シオンの意図を感じたシルフィスは躊躇いながらも応えた。

「……では、手紙をキールに渡してきます」

そう言って、シルフィスはラボの奥にあるキールが居る研究室に向かった。

そして、シルフィスが見えなくなった時、アルムは軽い口調でイーリスに問い掛けた。

「……本当は命令など無いのだろう?」

「はい。ですが、嫉妬から頑なになった堅物にはそういった理由が必要でしょう」

キールの事も詳しいと思わせる答えに対して、アルムは確認する様に問い続けた。

「キールとも親しいのかい?」

「いえ、お得意様の旦那様程度ですよ。ただ、キールは色々と有名ですから」

そう二人が言葉を交わしていると、シルフィスが戻って来た。

「これから王宮に出向くそうです……あの手紙にはなんて書いてあったんですか?」

キールの態度が変わった理由がわからないシルフィスは単純に問いかけた。

しかし、アルムとイーリスは微笑みながらも答えは口にしなかった。

「それは秘密ですよ。男のプライドに係わる事ですから」

「はあ、そうなのですか?」

「そういうモノだよ、シルフィス。旦那様の為にも追及は勘弁してもらえるかい?」

「……はい、わかりました」