失敗しました(ロイ×氷炎の錬金術師)

 

ヒューズを失った。

戦友とも、悪友とも呼んだ存在の死は、とてつもない喪失感を私にもたらした。

だがその時、私を支えてくれる人がいた。

ヒューズと同じ様に語り合い、支えあった人が。

そして、ヒューズの死を認められるようになった時、俺は気付いた。

その人を失えない、と。

今までその人を女性と思わないようにしていた。

その人は女性でありながら、己の『性』と『感情』を封じていたから。

だから、俺は気付かなかった。

ヒューズが家族を愛した様に、その人も誰かを愛するかもしれない事を。

その人への想いが恋愛感情なのかはわからない。

だが、俺にはその人が必要だ。

だから、俺は手に入れる。

アグニ・カーチスのすべてを。

 

 

 

ロイは付き合っていた女性達と出来るだけキレイに別れた。

それは、その女性達への配慮ではない。

アグニがその女性達から下手な手出しをされない為に。

そして、アグニとの時間を増やす為に、ロイはサボることもやめた。

アグニに執務をサボって会いに行けば、氷付けで強制送還をされるからだ。

アグニは氷を瞬時に練成できる『氷炎の錬金術師』。

サボりに関して、アグニはホークアイ中尉よりも容赦がない。

そして、ロイはアグニを本気で口説くことはなかった。

東方一の大富豪の一人娘であるアグニに、目的を持って近付く者は多かった。

そして、その様な輩には、アグニは必要以上に女性らしく振舞って拒絶した。

だから、ヒューズにアグニを紹介してもらう時にロイは言われた。

『いつもみたいな女性扱いするなら、紹介は出来ない』と。

だから、ロイは口説く事によって、アグニに逃げられては困ると思った。

そして、アグニを口説く前に、逃げられない所まで追い詰めようとロイは考えた。

だから、アグニとの関係を誤解させる事から始めた。

誤解される様な会話をアグニとする事は出来なかったが。

それでも、アグニを一緒にいるだけで満たされる事をロイは知っていた。

 

 

 

ロイは今日も真面目に執務をこなしてアグニを食事に誘った。

その時、ロイはアグニから入隊の理由を聞いた。

それを聞いたロイは想いが一緒かと喜んだが、あえてそれを隠すように軽く言った。

「まるで恋の告白のようだな」

「そう? まあ、私の全てをかけた願いだから」

「そんなに私が愛しいのかな、カーチス少佐?」

そうロイは、仕事の時にしか呼ばない階級でアグニに確認をした。

だが、アグニはそれをかわす様に軽く笑いながら言った。

「命令はナシ。今はプライベート」

「俺が欲しいんだろ?」

どうしてもアグニの想いが知りたいロイは答えを強要した。

アグニがロイの押しに弱いと知った上で。

だが、執拗な問いに対するアグニの答えは、ロイの望んだ答えではなかった。

「……私はロイを守りたいだけで、恋人になりたいわけじゃない」

「……そうか、それは残念だな」

「私を口説くなんて……マースが居たら酒の肴にされるわよ?」

「ヒューズの家族自慢よりはマシだ」

アグニが気遣っていたのに、ロイはあっさりとヒューズの名を口にした。

それが嬉しかったアグニは、満面の笑みを浮かべながらヒューズの事を話題にした。

「私は好きだった。マースの幸せって顔が」

「アグニがそんな事を言うから、あいつは図に乗ってたんだ」

「私の所為だけではないと思うけど?」

暗に、アグニはロイの女性関係を指摘した。

それを聞いたロイは、アグニに想いを再確認するチャンスだと思った。

「いや。そういう相手は見つかった」

「もしかして、今はデートじゃなくて身辺整理中?」

ロイの本気を知ったアグニはただ驚きから目を見開いた。

そして、それが友人としての反応だと思ったロイは、軽い失望を隠しながら答えた。

「当たりだ。もう他の女性には興味がなくなった」

「本気の上、結婚まで考えたんだ。どういう心境の変化?」

「逃したくないだけさ。俺のモノにしたいんだが……アグニは重いと思うか?」

「ロイなら幸せに出来るだろうから、応援する」

そうアグニに言われたロイは苦笑った。

アグニがロイの想いを邪魔に思う事はなくとも、恋愛対象ではないといえたから。

それ故に、これ以上の確認も口説きも意味がないと思ったロイは話題を変えた。

 

 

 

ある日、ロイは招待された大総統主催のパーティーにアグニを連れて行った。

護衛だと思っていたアグニに対し、ロイは上官命令と言ってドレスを着せた。

しかもロイは、パートナーである事を示すようにアグニの腰に手を回した。

そして、ロイは混乱するアグニと共に、上層部と談笑していた大総統に声を掛けた。

「今日はお招き頂き有り難う御座います」

「マスタング大佐、久しぶりだね。しかし、君がこの様なパーティーにパートナーを連れてくるとは」

会話に割り込んできたロイに対し、大総統は微笑を向けた。

そして、ロイも機嫌の悪そうな上層部達を無視して微笑みながら応えた。

「この機会に紹介をさせて頂こうと思いまして」

「君達がそういう仲だったとは……先が楽しみだ」

「その様な過分な期待に応えられるか……」

「なに、焔と氷炎の錬金術師を両親に持つ者なら期待するなと言う方が無理だよ」

「有り難う御座います」

ロイと大総統のやりとりを聞いたアグニはただ瞳を大きく見開いた。

それに気付いたロイはにっこりと微笑んでから、アグニの耳元で囁いた。

「私に恥をかかせるつもりかい、カーチス少佐?」

その一言で、アグニは何も言えなくなった。

アグニがロイの言った事を否定すれば、ロイが上層部達の笑いの種になるだろう。

とんでもない冗談を大総統に言った者として。

だが、ロイが笑われるのを見たくはなかったアグニは適当に相槌を打ってしまった。

 

 

 

パーティーが終わると、ロイはアグニを自宅に誘った。

そして、ロイの真意を聞きたかったアグニはその誘いに乗った。

また、ロイが家にアグニを招き入れると、アグニはロイに練成した氷の剣を突き付けた。

「マスタング大佐、どういうおつもりですか」

戸が閉まったと同時に玄関で剣を突き付けられたロイはただ極上の笑みを返した。

「コーヒーを淹れる時間くらいは貰えるかな?」

「ロイが答えをくれるなら」

「では、リビングで待っていてくれ」

そう言ったロイはキッチンへ、氷の剣をしまったアグニはいつもの席に腰を下ろした。

その時、テーブルの上にロイが記入すべき所を全て記入されている婚姻届を見つけた。

驚きから再び硬直したアグニに対し、ロイはコーヒーを差し出しながら言った。

「残りを記入してくれないか?」

「……どういう冗談?」

硬直状態から脱したアグニは冷ややかな瞳でロイを見据えた。

その瞳へ応える様に、ロイは策士めいた意図が読めない笑みを返した。

そして、アグニの顎に手を掛けて上向かせながらロイは言った。

「君が必要だ、アグニ」

「私はロイの女になるつもりはない」

「俺とデートしろなどと言うつもりはないし、アグニを無理に抱く気もない」

「だから、何の冗談?」

ロイの真意がわからないアグニは、ただ問い直す事しか出来なかった。

そして、ロイもただ同じ言葉を繰り返した。

「君が必要だといっている」

「それはわかってる。だから、私はロイの部下にいるのよ?」

「そういう意味じゃない。東方一の富豪の一人娘でもなく、氷炎の錬金術師でもなく……アグニ・カーチスが必要なんだ」

と言うロイの瞳の中に、アグニは恋情と欲望が秘められている事に気付いた。

故に、アグニはそれを確かめる様にロイへ問いかけた。

「ロイの『そういう相手』が、私なの?」

「あの日から、君以外の女性とは積極的にデートはしていない」

「どうして今まで本気で口説かなかったの?」

「アグニが男と認識してない俺が本気で口説いたら、逃げられると思ったからだ」

確かに、下衆な目的から口説いてくる男に、アグニは容赦がなかった。

それを間近で見てきたロイは慎重になったのだろう。

そして、それだけアグニを大切に想っているのだろう。

それがわかったアグニは覚悟を決め、ペンをとった。

「アグニ?」

「私が欲しいのでしょう?」

そう言いながら、アグニはロイを挑発する様に艶やかに微笑んだ。

その様な女を感じさせるアグニを初めて見たロイは耳まで赤くした。

また、動揺を隠す様にそっぽを向いたロイは、アグニの顎に掛けていた手をはずした。

それを見たアグニは、初めてロイを男として愛おしく感じた。

そして、そんなロイをもっと見たい、感じたいとアグニは思った。

だから、アグニはすぐに記入し、まだ顔が赤いロイに微笑みながら告げた。

「私はロイと出会う前からロイのもの。だから教えて。ロイが私をどれだけ必要としているのかを」

「アグニ?」

近寄ってくるアグニの行動が読めないロイは再び名前を呼んだ。

そして、アグニはまだ赤いロイのほほに両手を添えると互いの唇を合わせた。

唐突なキスにロイは驚いたが、すぐにアグニの腰と頭に手を回して深く求めた。

しかし、アグニは初めてなので、深く求められるとすぐに苦しくなった。

それに気付いたロイは名残惜しそうにアグニを解放した。

だが、解放をされたアグニの息は荒く、一人では立てない状態だった。

その原因であり、体を抱くことで支えているロイをアグニはあからさまに睨んだ。

「初めての相手に手加減するって事も知らないの?」

「君から仕掛けきたんだろう?」

「……セックスレス夫婦になってもかまわない?」

暗に身を任せられないと、アグニはロイを脅した。

故に、ロイは機嫌を取る様に、アグニの片手にキスしながら言った。

「君を愛おしく思うあまりのことなんだ、許してくれないか?」

それを聞いたアグニはクスクスと笑った。

そして、許すという意味も兼ねてロイを誘うように言った。

「なら、証明して?」

「君が望むままに、アグニ」

そう言ったロイは、アグニを抱きかかえると寝室に連れて行った。

 

 

 

 

 

もし氷炎の錬金術師がロイにプロポーズをされたら、というIF小説です。

そして、初めて書いたドリー夢小説「ほしい」の改訂版でもあります。

「ほしい」は何度か改訂してUPもしましたし、反響も想像以上に良かった小説でした。

ただ、このIF小説はあくまでもIF小説です。

いえ、ここまで囲い込んだ氷炎にあのように裏切られたら……ロイでも大変かな、と。

というか、氷炎の設定では『裏切り』は避けられないので……書きたくはないです。このIF小説後にある『裏切り』は。

なので、氷炎にとってもロイからプロポーズをされるのは失敗といえるかと。

また、明日は三国恋戦記の玄花の小説を予定しています。