アルムレディンは戸惑っていた。
愛妻であるディアーナが泣いているのを止められなかったから。
ディアーナはかなしかった。
幼い頃からの『おもい』を互いに成就させたアルムレディンに伝わらなかったから。
お互いにすれ違う思いを抱いたきっかけは、些細なコトからはじまった。
そう。それは数日前の夜から始まった。
ディアーナと初夜から、アルムレディンは朝方まで抱き、睡眠不足を訴えられていた。
しかし、数日前の夜から、アルムレディンはディアーナを抱かなかった。
それは喧嘩をしたわけではなく、原因らしい理由もなく、ただ、突然だった。
それ故に、ディアーナは不審に思いつつも、久方ぶりの睡眠を満喫した。
しかし、それが数日も続くとディアーナはあからさまに不安に陥っていた。
それを察したアルムレディンは、二人っきりとなった寝室でディアーナに尋ねた。
「……何か悩み事ですか?」
「それはアルムの方だと思いますわ?」
「……貴女を相手に、腹の探り合いはしたくないのですが」
そうアルムが素直な思いを告げた為、ディアーナも正面から応えた。
「私もですわ。だから、数日前からアルムが先に眠る理由を白状してくださいまし!」
という、ディアーナの強気さに対し、アルムレディンはすぐに降参したかの様に応えた。
「……貴女からの言葉が欲しかっただけです」
というアルムの答えはディアーナには衝撃だった。
それ故に、アルムは苦笑い、ディアーナはただ驚く事しか出来なかった。
「夜の貴女はいつも大人しくて、僕が想いを告げても戸惑うだけだから……貴女から求められたかったのです」
そうアルムに告げられたディアーナは静かに泣きだした。
そして、泣かれる事が想定外だったアルムはただ戸惑った。
それ故に、ディアーナは泣きながらも自分の想いを言葉でも伝えようとした。
「……ごめんなさい、アルム。私、共に夜を過ごす時はまだ恥ずかしくて、ただアルムを受け入れるだけで精一杯だったんですの」
「……それはそれで嬉しいのですが」
という、アルムの呟きを聞いたディアーナは首を傾げた。
その仕草の愛らしさ故に、アルムは再び苦笑いながら答えた。
「いえ、僕の愛情を一身に受け入れてくれる貴女の姿こそ、雄弁な答えなのに、それを疑う様な事を……」
そうアルムが泣いているディアーナに謝罪を言葉にしようとした。
しかし、泣いていたディアーナはすぐに泣き泣き止み、アルムレディンの言葉を遮った。
「そんな事は無いですわ!」
「……やっと泣き止んでくださいましたね」
とアルムに言われたディアーナは、涙が止まった事に気付いた。
それ故に、アルムは強引にディアーナを抱き寄せると耳元で囁いた。
「今夜からも睡眠不足となりますが、覚悟は良いですか?」
「望むところですわ!」
そう応えたディアーナは、譲れない想いも込めて強く抱き返した。
直参したラブコレのペーパーに載せたSSをUPしました。
タイトルの「かなしき」は「哀し」と「愛し」(愛しいの古語)という両方の漢字で脳内変換をして頂ければ、と。
また、このSSはペーパーよりも長めとなっています。
ですが、加筆というよりは、ペーパーの方がスペースに合わせた、短縮バージョンといえるかと。
なので、サイトではあえて短縮していないSSをUPしました。
アルムディアの更新予定は……当分ないのですが、SSはネタが浮かんだ時にUPしたいと思っています。