定めと抗い 第5話「現実にも抗える強き想い」

千鶴の様子が常と違う事に気付いた薫の追及により、斉藤から告白された事が知られた。

また、斉藤からの告白に対し、千鶴が思いを貫くと答えた事も知られた。

それ故に、現状と斉藤の想いと千鶴の思いも知る薫はただ大きな溜め息を吐いた。

「馬鹿な子ほど可愛いと言っても、限度があると思わない?」

「……ごめん、薫」

「俺に謝罪するって事は自覚があるって事?」

「私も薫みたいになれば……」

そう千鶴は選ぶべきではない、否、千鶴を知る者達が選んでほしくない事を選ぼうとした。

それ故に、薫は千鶴の言葉も遮る様に、ただ名を強い口調で叫んだ。

「千鶴!」

という薫の声の大きさと、強い意志を込められた叫びに対し、千鶴はただ驚いた。

そして、その様に驚く様子を確認した薫は、落ち着いた態度で千鶴の選択を正そうとした。

「千鶴は変わる必要はないし、俺は二人も要らないし、千鶴は千鶴のままで良いから」

「でも……」

そう千鶴は薫の言葉、否、思いを貫きたい意志を伝えようとした。

だが、千鶴の想いも知る薫はただ現状と互いの思いを確認する様に問いかけた。

「俺が雪村の姓に戻れなくても家族だと言ったのはお前だろう、千鶴?」

「うん。でも、私が薫の様に出来れば……」

「それは必要ない」

と薫に断言されても、千鶴は納得が出来ない、否、思いを貫く意志を変えなかった。

それを察した薫は、千鶴の思いではなく、想いを確認する様な問い掛けをした。

「じゃあ、千鶴は何が欲しい?」

「え?」

「言い方を変えようか。千鶴は斉藤と一緒にいる事を望まないのか?」

そう薫から問い続けられた千鶴はただ困惑する様な表情で沈黙した。

否、千鶴の想いと望みを薫も理解していると察したが故に、答える言葉が浮かばなかった。

そして、千鶴の沈黙の意味も理解している薫は、ただ互いの思いと望む未来を再確認した。

「俺は斉藤の事は認めてる。千鶴の夫にするにはまだ足りないけど、将来的には有り得る可能性は高いと思ってるし、一緒にいると楽しいとも思う。千鶴は違うのか?」

「……違わない」

「じゃあ、なんで斉藤を選ばない?」

と薫に問われた千鶴はまた口を閉ざした、否、想いと願いを否定できずに沈黙した。

その様な千鶴の戸惑いと想いを理解している薫は、ただ互いの変わらぬ現実も告げた。

「一応、言っておくけど、斉藤との未来を選んでも、俺の立場は一生変わらないよ。むしろ跡取りとして生きていくなら、千鶴と俺の距離は遠ざかるし、家族でもいられなくなる筈だ」

そう薫が告げた現実は、千鶴にとって想定外で、思いを貫く意志を揺るがせる事実だった。

それ故に、薫が告げた現実と千鶴が想定していた現実の違いを確かめる様に追及した。

「どうして? 薫は家族に戻ったんだよね?」

「……詳細は省くけど、俺はあくまでも南雲家の跡取りで、千鶴が雪村家の跡取りである事実は変わらない。そして、千鶴が跡取りとして子を産む以外の務めも果たすなら、分家達から求められる事は多くなる。そうなれば、俺は南雲家へ戻る事になる」

「……」

「だから、俺が望むのは千鶴の家族である事と、千鶴が幸せである事だけだ」

という薫の思いは、千鶴が殺そうとしていた想いを支えた上に後押しをする思いだった。

それ故に、薫の思いと現実の再確認と、千鶴自身の想いを肯定したい思いを言葉にした。

「……本当に、良いの?」

「……俺が嘘を言う理由は無いだろ?」

「本当に、私が斉藤先輩を選ぶ事が、薫にとっても幸せになるの?」

そう千鶴から問い続けられた薫は、苦虫を噛みつぶした表情でも肯定をした。

「……本来なら、斉藤でも足りないくらいだけど、千鶴の想いと幸せを考えればベターだとは思うよ」

「ありがとう、薫」

「明日の夕食で応えてくれればいいよ」

と薫が軽口の様に、常と変わらぬ口調でリクエストをした為、千鶴は満面の笑みで応えた。

「うん。明日は薫の好きな料理にするね」

「ああ、楽しみにしてる」

 

 

 

告白した千鶴から想いを殺してでも思いを貫くと宣言された斉藤は意気消沈していた。

そして、斉藤の状態とその原因を察している沖田はからかう様な軽口で問い掛けた。

「落ち込む一君は珍しいから面白いけど、からかい甲斐が無いからつまらないよ?」

「……俺も千鶴もあんたの玩具ではない」

「一君は千鶴ちゃんへの想いは諦めるの?」

そう沖田から問い続けられた斉藤は、譲れぬ、否、貫きたい想いをただ主張した。

「千鶴の想いを踏みにじる事は俺には出来ん」

「じゃあ、千鶴ちゃんもそう思う事が無いって思ってるの?」

という沖田の指摘と意図は、斉藤には想定外で想像もした事が無い『おもい』だった。

それ故に、斉藤は沖田の問いの意図を確かめる様に、鋭い視線と共に問い返した。

「……どういう意味だ?」

「雪村家のお家事情は呆れるだけだけど、千鶴ちゃんが跡取りとして選択するのは家族の為だと思うけど?」

「……あんたの言う事は遠まわし過ぎて理解できん」

「つまり、南雲薫がキーポイントで、千鶴ちゃんがこだわる理由だと思うけど?」

そう軽口めいた問いを続けられた斉藤は、ようやくに沖田の言葉とその意図に気付いた。

「……風間を選べば南雲は雪村姓を名乗れるのか?」

「それは逆だと思う」

「?」

「千鶴ちゃんが跡取りとして子を残す務め以外を果たす気なら、分家達から南雲との家族ごっこも止められるだろうし、幸せとは縁遠い人生となるだろうね」

という沖田の答えはわかりかけていた斉藤の思考を更に混乱させた。

否、沖田が告げる言葉の意図と、千鶴が思いを貫く意味が、斉藤には理解できなかった。

「……だが、千鶴は選んだのだろう?」

「南雲の件は誤解だけだと思うけど、千鶴ちゃんは自身を軽んじて幸せを遠ざけ、周囲から嘆かれる選択をする子じゃないと僕は思うよ?」

「つまり、千鶴は間違った思いから選択をしているというのか?」

そう問い返した斉藤の言葉は、沖田が答えとして問い続けていた言葉だった。

そして、意図的に遠まわしな説明をした沖田は、意味深な笑みと共に斉藤へ問い返した。

「間違いは南雲が説明すると思うけど、千鶴ちゃんの幸せは一君次第だと思うよ?」

「……そうだな。助力を頂いた土方さんの思いに報いる事も必要だな」

「土方さんより、僕の助力の方が有益だと思うけど?」

「あんたはからかう相手が減るのが面白くないのだろう?」

という斉藤の、常であった冷静で鋭い問い返しに対し、沖田は意味深な笑みで応えた。

「さすがは一君だね。さっきまで落ち込んでいたとは思えない鋭い指摘だよ」

「あんたにはそう応えた方が良いのだろう?」

「なら、千鶴ちゃんが僕達の側でいられるように頑張ってね」

そう沖田に告げられた斉藤は、先程までの消沈が幻の様な冷静沈着な態度で否定をした。

「千鶴をあんたの玩具にする気は無い」

「話題を提供してくれるだけでも良いよ?」

「その様な事も有り得ん」

「そう? じゃあ、頑張ってね」

と沖田に問い続けられた、否、からかう様な軽口に対し、斉藤は沈黙したまま立ち去った。

そして、斉藤の背が見えなくなり、気配も感じられない遠くに行った後でポツリと呟いた。

「……近藤さんに関わる事でもないのにこれだけ頑張ったんだから、一君には色々と返してもらうよ?」

 

 

 

 

 

今回もさいちづ?といえる展開となりましたが、会話のベースはさいちづだと力説します!

ただ、来週は土方先生と風間さんの出番も多くなりそうですが(遠い目)

ですが、次回もさいちづがベースなので、最終話までお付き合頂ければ、と思っています。