風間の婚約宣言から一週間後。
土方からの風紀委員室への呼び出しを聞いた斉藤はすぐに応じた。
「失礼します」
そう斉藤が風紀委員室の戸外から告げてから室内に入ると、土方が苦笑いながら応えた。
「急に呼び出してすまねぇな」
「いいえ。風紀委員に関する連絡でしたら、南雲も呼んだ方が宜しいのでは?」
「……相変わらず色恋沙汰には鈍すぎるな、おまえも」
という土方の言葉から、千鶴との両片想いに関する話だと斉藤は理解した。
だが、千鶴の想いと思いも理解していたが故に、斉藤は土方に対して無言だった。
しかし、斉藤の無言を予測していた土方は、意図的に話題を変えずに淡々と確認をした。
「千鶴を守ると言っていたのは偽りか?」
「……千鶴が選んだ事ですから、俺はただ見守るだけです」
「あの千鶴にお家騒動とか、本家の跡取り、なんてしがらみが似合う訳ねぇだろ」
そう土方が問い掛けても、斉藤は再び無言で応えた。
否、それしか出来ない斉藤の不器用さと深い想いを察したが故に、土方は最終確認をした。
「まさか、あの風間が男の『見守り』を許すとも思っているのか?」
「千鶴が不要だと告げれば……」
という予想通りな答えを聞いた土方は、斉藤の本音を確かめようと気持ちを切り替えた。
そして、土方は今でも『鬼』と呼ばれる激しい怒気を込めて斉藤の真意を短く問うた。
「本心を言え、斉藤一」
「!」
「斉藤!」
そう土方から問い続けられた斉藤は、無言で瞳を閉じてから深呼吸をした。
そして、瞳を開いたと同時に口も開き、自身の偽りなき『おもい』を言葉にした。
「千鶴への想いも、守りたいと思い続けている思いにも、偽りは有りません。ですが、このような『おもい』は俺だけの……」
と斉藤が自己完結と誤魔化しを言葉にすると、土方は再び鋭い視線で止めた。
否、土方に見抜かれている事も、誤魔化しも出来ないとも、斉藤も気付いていた。
それでも、斉藤にとって現状は自己完結するしかない状況だと思っていた。
それ故に、斉藤は土方も理解しているだろう事実と現実をあえて言葉にした。
「千鶴も同じ想いである事は風間の婚約宣言で気づきました。ですが、千鶴は互いの想いに気付いても、婚約を受け入れたんです。ですから、俺だけの問題だと思っています」
そう斉藤に言われた、否、現状を淡々と告げられた土方は頭を抱えながら溜め息を吐いた。
「……本当に頭がいてぇな」
「すみません……」
「あのなぁ、おまえ達の想いじゃねぇよ、風間の勘違いに、だ」
という土方の言葉は、斉藤にとって予想も想定も出来なかった、無理解な言葉だった。
そして、現実を理解していないと言える斉藤に対し、土方は現実の補足を言葉にした。
「あの風間が、本気で千鶴の想いを踏みにじると思うか? あいつはただおまえと千鶴の想いを甘くみてるだけだ。そんな男に千鶴を託していいと思っていやがるのか?」
「……」
「本気で千鶴を守りてぇなら、千鶴に想いを伝えろ。それも出来ねぇなら、おまえの想いはその程度だっただけだ」
そう土方から強くも厳しい言葉を告げられた斉藤は全てを理解した上でただ感謝をした。
「ご指導、有り難うございます!」
「本当におまえは変わらねぇな……なら、告げるな?」
と土方から問われた斉藤は、芯の強さを秘めた瞳と意志の強さ感じる答えを言葉にした。
「はい。千鶴の想いを踏みにじる事は俺には出来ません」
「ああ、おまえはそれで良い。後は任せろ」
そう斉藤に告げた土方はニヤリというような不穏ともいえる笑みを見せた。
その笑みと不穏になったと言える状況に対し、斉藤は説明を求める様に土方を見た。
だが、風間との浅からぬ因縁を告げる気が無い土方はただ簡易な説明を言葉にした。
「なに、あんな馬鹿でもクラスメイトだったからな。フォローくらいはしてやるか」
「ねぇ、本気であんな男の嫁になる気なの、千鶴ちゃん?」
そう沖田からあからさまなからかいを込めた問い掛けをされても千鶴は淡々と答えた。
「……風間さんは養父が認めた方ですから」
「でも、嫁に二心が有る事にも気付ないボンクラでしょ?」
「二心、ですか?」
と千鶴から誘導した問い返しを得られた沖田はあえてからかう事を優先した。
「あ、ボンクラなのは認めるんだ?」
「……私は風間さんに反意は持っていません」
「でも、想いも無い、でしょ?」
そう沖田から急に鋭い言葉という刃を首元に突き付けられた千鶴は言葉を返せなかった。
否、千鶴は沖田がからかう為に声をかけてきたと勘違いをしていた為にただ驚いた。
そして、斉藤と千鶴の両片想いを知るが故に沖田はお節介とも言える言葉を口にした。
「だって、今も千鶴ちゃんは一君を想ってる。なのに、あのボンクラな生徒会長サマは君達の想いを甘く考え、結婚すれば解決すると思い込んでる。あ、解決すると思い込んでるのは千鶴ちゃんも同じか」
「……」
「でも、一君の本気は君でも覆させられないと思うよ」
「でも、私にも譲れない事が……」
という千鶴は、沖田の配慮と気遣いに感謝しつつも、ただ思いを理解してもらおうとした。
しかし、千鶴のあからさま過ぎる頑なな思いと、斉藤への深い想いを沖田は知っていた。
それ故に、沖田は千鶴の言葉を意図的に遮りながら更なるお節介を言葉にもした。
「うん。一君への想いは偽りも出来ないくらい本気だよね。そして、君も一君の本気に気付いても、偽ろうと、偽れると思い込んでるだけだよね?」
「……」
「でも、もう気付いたでしょ、君達の想いに」
「でも、私は……」
そう千鶴の思いへ過ぎる固執を理解した沖田は意味深で意図が読めない笑みを見せた。
「じゃあ、千鶴ちゃんは両片想いを解消する覚悟が有る?」
「え?」
「だから、一君から告白されて断れる自信があるの?」
と沖田に問われた千鶴は告白を想像したが故に動揺したが、すぐに硬い表情で答えた。
「……斉藤先輩には理解して頂けると思っていますし、無理強いをなさるような方ではありませんから」
「なら……ずいぶんとタイミグ良く現れたようだね、一君?」
そう沖田が千鶴から視線を逸らすと、その視線を受けた斉藤は鋭い視線を返した。
その視線に込められた妬心と決意を察した沖田は、千鶴に笑みを見せてから立ち去った。
「じゃあ、君の覚悟を楽しみにしているよ、千鶴ちゃん」
という沖田の言葉の意味を斉藤は視線で問うたが、沖田は斉藤に答えなかった。
故に、斉藤は千鶴に説明を求めたが、千鶴も斉藤に答えなかった。
否、沖田が告げた『覚悟』と『告白』を理解した上で想像したが故に、千鶴は沈黙した。
そして、沖田の言動よりも優先すべき事があると考えた斉藤はただ『告白』を優先した。
さいちづ?な会話のみでしたが、この連載はあくまでもメインは斉藤さんと千鶴嬢です!
そして、次回更新では斉藤さんと千鶴嬢と風間さんがメインです(え?)
なので、斉藤さんと千鶴嬢の会話が有っても甘さは……微糖以下かと。
まあ、当サイトらしい展開といえば間違いではないのですが(遠い目)