「カゴの鳥」公花

「帰ります」

唐突に公瑾の執務室へ現れた花の言葉で室内の空気まで凍りついた。

正確に言えば、新妻である花の言葉によって、公瑾が周囲の空気も凍らせた。

だが、常に見せる笑顔や冷静ともいえる公瑾の口調も変わる事なく、ただ花に問い返した。

「……どのような不満への抗議ですか?」

「妻を蔑ろにする夫に告げる言葉があると思われますか?」

「貴女だけを想い、貴女だけを求め、貴女だけが大切だという一途な夫に対して、酷い答えですね」

そう答える公瑾は無意識な苛立ちを隠さなかったが、花の態度は全く変わらなかった。

否、公瑾が感情的になればなる程、花の態度は空気よりも冷め続けた。

「私は過誤の鳥じゃありません」

「私と一緒に仕事もしているでしょう。籠に囲っているなど心外です」

「籠ではなく過誤という意味です」

という花の言葉が全く理解できず、心当たりもないが故に、公瑾は率直に理由を訊ねた。

「……どういう意味かは説明をして頂けるのですか?」

「これ以上の説明が必要なのですか?」

「貴女が離れる事を許容できるほど私は寛容ではないので……」

「なら、これは命令だ」

そういった仲謀が、執務室に現れたと同時に公瑾の言葉も奪った。

それ故に、公瑾は現れた仲謀の言葉と来訪の理由を訊ねようとした。

「……仲謀様、どのようなご用件でしょうか?」

「だから、命令だと言っただろう、公瑾」

「いいえ、これは夫婦の問題です」

「そうじゃねぇから、俺様が来たんだ。行くぞ、花」

と告げた仲謀は花を連れて公瑾の執務室から去って行った。

それ故に、公瑾は花を引き留めようとしたが、声を出せずに見送る事しか出来なかった。

 

 

 

「!」

「……公瑾さん?」

そう問いかけてきた花は、公瑾と同じ寝台の隣で眠っていた。

否、公瑾の異様な態度を心配そうに見る花も今起きたばかりなのだろう。

今まで熟睡していたが故に寝乱れた花の髪に触れた公瑾は優しい仕草で寝癖を直した。

そして、それを嬉しそうに受け入れる花の態度から、公瑾は先程の事は夢だと判じた。

「……夢、ですか」

「……悪い夢でも見たんですか?」

「そうですね。現実になったら……」

と花に答えた公瑾が沈黙した為、花は公瑾の言葉の続きになるだろう思いも確認した。

「伯符さんに逢いたくなりますか?」

「いいえ、伯符にも爆笑されるかと」

「でも、会いに逝くんですよね?」

そう花が言葉の続きを求めた為、公瑾は髪に触れていた手を頬に添えてから上向かせた。

「それは貴女が止めてくださるんでしょう?」

「……私が止められるんですか?」

と花から躊躇いがちに問い続けられた公瑾は常と違う素ともいえる笑顔で問い返した。

「ええ。貴女ならいつでも私を止めて下さるでしょう?」

「当然です。公瑾さんには生きて居て欲しいですから」

「それだけで満足するんですか?」

そう花に問い返した公瑾は、今にもくちづけられるくらい互いの顔を近づけた。

すると、近距離にも慣れた花は、己の意思を強く表示する様に強気な口調で公瑾に答えた。

「もちろん公瑾さんの隣も譲りません」

「……本当に貴女は男の言葉を奪いすぎる」

「私が公瑾さんが好きで、公瑾さんが意地悪だから私がいつも言っているだけです」

という花の告白はまだ朝日が昇らぬ時間に深酒よりも強い酔いを公瑾に感じさせた。

そう。いまだに色恋沙汰には鈍すぎる新妻である花の無自覚な誘いに公瑾が応えた。

「では、まだ朝までには時間がありますから、もっと有意義に過ごしませんか?」

そう艶やかな瞳と甘い声音で囁かれた花は、ただ公瑾を気遣う様に問い返した。

「……また、悪夢になりそうですか?」

「いいえ。私達は夫婦ですから、愛を交わしたいと願ってもおかしくないでしょう?」

と花に問い返した公瑾に対し、花も拒む意思も示さずにただ公瑾に身を任せた。

それ故に、公瑾はいつもよりも優しくも執拗な仕草で花に触れながら囁き続けた。

 

 

 

 

 

ネタを小説にしたら……想定外な仕上がりになりました。

いえ、もっとダークな展開を想定していたのですが……甘い展開となりました(当サイト比)

ただ……ラストの描写は全年齢小説としてはギリギリでしょうか?

今回の公花も書き上げるには色々と紆余曲折があり難産でしたが、書きはじめるとスラスラとかけたのは……都督の罠でしょうか?

あと、明日の更新は早花のSSとなります。