「カゴの鳥」孔花

士元からの要望、否、強要により、孔明の補佐ではなくなった花が書簡の催促役となった。

だが、士元は書簡を整理する姿勢を見せながらも、花の注意を逸らす様に問い掛けた。

「花殿、聞きたい事があるんだが……」

そう士元が花に問い掛けると、花は微笑みながら士元の問いの途中で問いを返した。

「まずは書簡を処理して頂けますか?」

「……孔明から告白されて付き合ったらしいが、その時『故郷に帰るまででもかまわないから』と言ったというのは本当なのか?」

という士元の問いに対し、花は否定も肯定もせず、ただ微笑んでいた。

それが明確な否定ではなく、書簡を整理する為ならば、という譲歩でもあると察した。

それ故に、士元は書簡に目を通しながらも花に問い続けた。

「どんな理由があるかは知らないが、花殿は帰郷よりも孔明の側に居たいと思っている事を知ってなお言ったなら、あいつも相当な……」

「けしかけるなっていった事は忘れたの?」

そう孔明が急に士元の執務室に現れると、花への質問、否、けしかける行為を止めた。

だが、士元がその様な制止で止まる事はなく、質問を続ける為に話の矛先を変えた。

「……俺は噂の真相を確かめようとしただけだ」

「それで、花をけしかけたんだ?」

「それをおまえが邪魔したんだから未遂だぞ」

と応える士元と孔明のやり取りで書簡を確認する手が止まった事を花は指摘した。

「……師匠、今は書簡の整理が先だと思います」

「花は士元をかばうつもり?」

「師匠はこれから休憩ですか?」

そう花に問われた孔明は、士元の執務室に訪れたもう一つの理由、否、誘いを言葉にする為、士元に確認という名の強い主張を込めた無言の視線を孔明は向けた。

「わかったよ。おまえの休憩が終わるまでに仕上げる」

と士元は孔明の要求へ応えるように再び書簡の確認作業に戻った。

それ故に、孔明は常に見せる装った笑みではない、素の笑みを花に対してみせた。

「なら、『師匠』もお休みだ」

そう孔明に笑顔で告げられた花も満面の笑みで応えると共に執務室から出た。

その様な仲睦まじさをみせられた士元は、孔明の過去を知るが故に二人の幸せを願った。

「……幸せになれよ、孔明」

 

 

 

休憩をする際によく使っている東屋に着くと、孔明は花に直球で問い掛けた。

「で、ボクに聞きたい事でもあるの?」

「……私達って恋人なのですか?」

と花に問われた孔明は酷く心外でも諦めの境地といった表情で問い返した。

「……花は誰にでもくちづけをさせるの?」

「孔明さんは……好きだって言ってくれる事が少ないので、不安になったんです。今でも『君が帰りたいなら帰っていいよ』って言われそうで」

「確かに君の足枷にはなりたくない、と今でも思っているのは事実だね。でも、君はわかっていない」

そう言われた花は、言葉の意味と孔明の告げた言葉の意図が全く分からなかった。

否、孔明の態度から不安に陥っていた花には気付けなかった。

それ故に、孔明は不安を解消するのではなく、ただ事実を言葉とした問いを続けた。

「ボク達は恋人ではなく婚約者だろ?」

「!」

「確かに想いを言葉にする機会は少なかったけど、花も認識が甘かったんだから……」

という孔明の言葉をあえて遮った花は以前からの不満、否、願いを言葉にした。

「じゃあ、私が認識を改めれば、孔明さんも想いを言葉にしてくれますか?」

「……譲歩の余地は?」

「無いです」

「……わかったよ。仙女の羽衣を返さずに済むよう、頑張るとするよ」

そう花に応えた孔明はこれからを憂う様な表情で苦笑った。

それを聞いた花は、先程よりも更に不安な表情となって、孔明に対する願いを言葉にした。

「今も昔も私はただの普通の女の子です。仙女なんかじゃないです。だから……傍に居させてください」

「そんなに不安だったか……じゃあ、これで許してくれる?」

と花に問いかけた孔明は互いの唇をそっと重ね合わせた。

重なった唇から伝わる孔明の想いと体温が、花の不安と願いを同時に満たした。

だが、花は恋する乙女としても譲れない願いを孔明に対して更に主張をした。

「……行動だけじゃなくて、言葉も欲しいです」

「……でも、あまり言動にし過ぎると飽きられると思うんだけど?」

「孔明さんの場合はし過ぎるくらいが良いです!」

そう断言をされた孔明は、花の無自覚で天然な言動の結果を説明する言葉に困った。

否、花の言動があからさまな誘惑である事を、孔明は指摘すべきかを悩んだ。

「……孔明さん?」

「その言葉、後で後悔しても知らないよ?」

という孔明の問い返しの意味に気付けない花はただ首を傾げた。

その様な可愛らしい花の仕草で更に煽られつつも、孔明はただ自重する事を選んだ。

否、花の無自覚さにつけ込んで色々と満たしている事を考慮し、孔明は指摘をしなかった。

「本当に君の無自覚もコワイよね」

「どういう意味ですか?」

そう花が問うても、指摘しない事を選んだ孔明はのらりくらりと答えようとしなかった。

また、孔明が指摘しなかった事を結婚後に知った花は色々な意味で後悔する事になった。

 

 

 

 

 

師匠もネタを思いつくまでは難産でした。

ただ、師匠の話に絡ませるのは芙蓉姫よりも士元さんの方が面白いかな、と思ってからはスラスラと書く事が出来ました。

また、明日は孟花のSSを更新する予定です。