「カゴの鳥」翼花

翼徳と花が結婚してからまだ新婚な時期に、その当事者達の雰囲気が険悪だった。

それを周囲の親しい者達は痴話喧嘩の類だと楽観していた。

しかし、勘が鋭い面々は騒動を予感し、色恋沙汰に鈍い面々でも気付いた時には……

すでに収拾が不可能な程に険悪で、周囲を拒絶する状態になった。

それでも、玄徳は翼徳と花の関係を憂い、あえて声をかけようとした。

だが、その様な玄徳に気付いた雲長がその行為を止めようと声をかけた。

「玄兄。今の翼徳は話を聞く事もしないと思います」

「……なら、俺の勘違いじゃないんだな?」

「花の様子も考えると、痴話喧嘩の類でしょうが……」

そう玄徳と雲長が状況を確認していると、問題の当事者である翼徳が二人に気付いた。

「あ、兄いに雲長兄い!」

と翼徳から声をかけられた為、玄徳は苦笑いを、雲長は詮索を避ける様に仕事の話をした。

「翼徳、書簡整理は終わったのか?」

「えっと……手伝ってもらえる?」

「今回の書簡はそう難しくない。もし手伝いが必要なら妻に頼め。孔明殿の補佐をしているんだから……」

そう雲長が提案をすると、急に翼徳は今にも命を絶つかの様な暗い雰囲気で俯いた。

それ故に、雲長は提案を途中で止め、玄徳はただ会話の経緯を見守った。

「花の意欲も皆が必要としている事もわかってる……でも、独り占めしたいって俺が思うのは、おかしい?」

「……その想いは当然だろう。だが、おまえ達は夫婦となったんだ。だから、夫婦の問題は夫婦で話し合って解決しろ。それとも、おまえは自分が勝つとわかってる『力』で解決する気か?」

「花を傷つけるのは嫌だよ!」

という翼徳の花への深い愛情を再確認した玄徳は、日常会話の様に命令を言葉にした。

「じゃあ、仕事は俺が何とかするから、おまえは花と一緒に帰れ。孔明も気を使ってくれたようだしな」

「え……皆さん、どうかしたんですか?」

そう三人に問うた花に対し、玄徳が先程と変わらぬ様子で再び命令を言葉にした。

「おまえが孔明に言われた事を俺達が翼徳に話しただけだ。今日は翼徳と一緒に帰れ。これは命令だぞ?」

「ありがとうございます、玄徳さん。じゃあ、雲長さんも後はよろしくお願いします」

「……翼徳を頼んだ」

「はい。頼まれました」

と雲長に応えた花に対し、ただオロオロとしている翼徳は名で状況確認を求めた。

「……花?」

「帰りましょう、翼徳さん」

「うん!」

そう花に答えた翼徳は、力を充分に加減してから差し出された片手をしっかりと掴んだ。

その様子を見守っていた玄徳は、鷹揚な仕草で何度も頷きながら微笑んでいた。

それを一歩下がった位置に移動した雲長がその様な言動の意図を探る様に問い掛けた。

「……玄兄?」

「……いや、結婚というのも良いものだと思ってな」

という玄徳の言葉を聞いた雲長は、あえて機を逃さぬよう結婚を勧めようとした。

「玄兄なら相手に困らないでしょう?」

「そういう問題じゃないだろ」

「いえ、そういう問題かと」

そう雲長に断言された玄徳は、話の矛先を変えるように意図的な提案を言葉にした。

「とりあえず、花はもうしばらく休めるように頼むか」

「その提案は孔明殿の方が先かと」

「なら、まずは執務室へ戻るか。書簡ではなく本人が待っているかもしれないからな」

という玄徳がすり替えた話へ同意をする様に、雲長も結婚に関する話を止めた。

否、本気で結婚を勧める気がなかった雲長はただ玄徳の意を確かめただけだった。

「では、翼徳の書簡を処理次第、俺も玄兄の執務室へ行きます」

「ああ、頼む」

そう答えた玄徳は自身の執務室へ少しだけ早い歩調で向かった。

 

 

 

二人が暮らす邸に戻った翼徳は花に対して直球な疑問と意志表示を言葉にした。

「……やっぱり俺が間違ってる?」

「……翼徳さんの独占欲は嬉しいです。でも、私は翼徳さんの為にも出仕は続けたいので、師匠に相談したんです。翼徳さんの書簡整理も手伝えるように」

「え?」

「翼徳さんの書簡整理も手伝いますから、お仕事も一緒に頑張りましょう?」

という花の答えを聞いた翼徳は、大きな期待と欲求に満ちた視線で更に問うた。

「じゃ、じゃあ、夜も……」

「休日の前夜は大丈夫ですよ?」

そう花に答えられた翼徳は、期待と欲求に出来る限りの自制をした言葉で応えた。

「……出来るだけ我慢する」

「はい。私も我慢しますから」

「え、花も我慢してるの?」

という翼徳の直球な問いに対し、花は少しだけ躊躇ながらも素直な想いを言葉にした。

「……翼徳さんに触れられる事も、私は嬉しいですから」

「うん! 俺も頑張る!!」

 

 

 

 

 

ネタを小説にするまでは難産でしたが、書きはじめるとスラスラと書けました。

というか、このSSは比較的ですが可愛い仕上がりに出来たかと。

今回の問題は全年齢向けとは言い難いモノですが(遠い目)

また、明日は子花のSSになる予定です。