加護の鳥に触れて穢してはならない。
なぜなら、加護の鳥は、花は、この地には無い国へと帰るのだから。
だから、俺は花が帰るまで『兄』であり続けて『幸せ』を願い続ける。
花。
どうか、帰る日まで『兄』としては守らせてくれ。
そして、おまえの『幸せ』を願わせてくれ……
玄徳と尚香が並んで歩いている姿を花は複雑な表情で見つめていた。
そして、その様な花の様子を芙蓉は苛々しながらも背後から見守っていた。
故に、休憩が終わっても戻ってこない弟子を探しに来た孔明は普段通りに声をかけた。
「こんな処に居たのか、休憩は終わりだよ」
そう言う孔明の状況をわきまえていないと思える言動に対して芙蓉はただ怒った。
「孔明殿!」
「……泣くほど恋しいなら、告白する事も考えた方が良いよ」
という孔明の言葉に対し、花は何も答えようとはせず、芙蓉は状況の変化を察した。
「……孔明殿、花を執務室に連れて行って頂けますか?」
「……ええ、では後を頼みますよ、芙蓉殿」
そういう芙蓉の問いと孔明の答えの意味が分からない花はただ首を傾げた。
だが、花に答えるつもりがない芙蓉は沈黙し、孔明は花を強引に執務室へと向かわせた。
「ほら、行くよ、花」
「はい……」
と孔明に答えた花の姿を見守っていた芙蓉は、背後に近づいてきた玄徳に問いかけた。
「……そんなにやせ我慢をする必要があるのですか、玄徳様?」
そう芙蓉から棘のある口調で問われた玄徳は、質問に答える事無く、ただ状況を確認した。
「……花には気づかれなかったか」
「花は気配にも聡くないですから」
「……俺は花には幸せになって欲しいんだ」
「でしたら……!」
と芙蓉から真剣な口調で問い詰められた玄徳は言われる言葉を察した上で否定した。
否、玄徳が何度も自問自答していたが故に、そう答える事しか出来なかった。
「俺には……この地では、花の望みも幸せも無いんだ」
そう玄徳の言う言葉が理解できない芙蓉は理解する為の説明が欲しいと思った。
「……どういう意味ですか?」
「……花の事は頼んだ」
「どういう意味ですか、玄徳様!」
と芙蓉が玄徳に再度説明を求めたが、玄徳はただ芙蓉の頭を撫でる為に近寄った。
そして、意図的に芙蓉に近づいた玄徳は周囲には聞こえないような小声で強く願った。
「……『尚香』に気をつけてくれ」
「……え?」
そう芙蓉が更なる疑問を解消しようと玄徳を見たが、すぐに玄徳は尚香の隣に戻った。
その様な玄徳の言動から、現状を少しだけ理解した芙蓉は時期ではないと判断した。
それ故に、芙蓉はあえて孔明と共に執務室へ向かった花を追った。
玄徳の言葉は理解できないが、文官の孔明だけでなく武人の芙蓉も必要だと思ったから。
もちろん、仕事場が一緒の孔明よりも側に居られる時間は少ないし限られている。
それでも、芙蓉は花と玄徳の想いを守りたいと思った為に。
玄徳さんルートの終盤を土台に、『思いでがえし』での『ひとひらの思いで』の『自縄自縛』に絡めた捏造をしてみました。
『自縄自縛』での玄徳さんは最萌えだった為、その萌えを元に思いっきり趣味満載で書きました!
ただ……芙蓉姫の出番が多い上に、玄徳さんと花ちゃんの会話は無く、すれ違っている両片想いですが、玄徳さんルートでの捏造小説なので、玄花というCP表記にさせて頂きました。
そして、今までの三国恋戦記のSSよりはビターだったと思いますが……今回の更新はビター傾向かもしれません。
また、明日は雲花のSSを予定しています。