珍しくも土方の担当する古典の個人補習に沖田が応じた。
そして、更に珍しい事に、沖田が土方の質疑にも答えた。
しかし、唐突に沖田は土方の質問を遮るように、不要かつ不謹慎な問いを言葉にした。
「……『土方先生』ってストーカー行為が好きなんですか?」
「……その問いが、今回は補習に来た理由か?」
「土方さんはいかがわしい個人授業とかも好きだと思っていたんですけど?」
という沖田の口調は、生徒というより昔に近いと思った土方は、あえて昔の口調で答えた。
「……俺を変態扱いする気か、総司?」
「じゃあ、素直な想いを千鶴ちゃんに告白します?」
「……補習を再開するぞ」
「……答えは『こひ』でしょ?」
そう沖田が土方の補習での答えを口にした時、土方は沖田の二重の意図にも気づいた。
だが、昔の気安い口調と違い、昔から変わらぬ想いを口にする気はない土方は無言だった。
そして、その様な想いを知っている沖田は、昔の笑みを浮かべながら生徒として答えた。
「赤点の常連でも、授業内容は理解してますよ?」
「だったら、テストでもその言葉に見合う解答を書きやがれ!」
と土方が昔と変わらぬ、否、本気で鬼の形相となったのに、沖田は再び昔の口調で答えた。
「いやだなぁ、僕は今も昔も、近藤さんの命令と役に立つ事しかしないつもりですから」
「……なら、千鶴への配慮は恋心だというつもりか?」
「本当に昔も今も、千鶴ちゃんが絡むと、土方さんもただの男ですね」
そう沖田に言われた土方は、鬼の形相から深い想いを隠す苦渋を感じる表情となった。
その様な土方の想いも見抜いている沖田は、あえて飄々とした昔からの口調で答えた。
「……昔、僕たちは土方さんと千鶴ちゃんに託す事か出来ませんでしたから、今は『幸せ』を願っているだけですよ?」
「……俺も『千鶴の幸せ』を願っている」
という土方の苦渋に満ちた表情と深い想いは、沖田の飄々とした態度を崩させた。
しかし、それを感じさせようとは思わない沖田は、再び土方を逆なでる様に問い返した。
「土方さん視点の『幸せ』なんて、不幸の元でしかないと思いますけど?」
「……総司」
「僕を睨んだって無駄ですよ。山南さんだって同意しているんですから」
「……近藤さんまで巻き込む気か?」
そう土方は鬼の様な形相で沖田を再び睨んだが、沖田は生徒として土方に問い返した。
「それは、土方先生次第ですよ?」
「……」
「じゃあ、補習は終わりですね。用意されたテキストの問題は全て正解を書いていますから」
「……確かに全問正解だな」
という土方がテキストを確認する間に、退室の準備を終えた沖田は退室の挨拶をした。
「あと、『次』を楽しみにしていますから」
「……『次』で終わりだ」
そう土方が素直に答えると、沖田は大仰な溜め息と共にあからさまに呆れた。
「本当に土方さんは今も昔も馬鹿ですね」
「生徒が教師にいう言葉じゃねぇぞ」
「馬鹿な行為をする人の事をそう素直に評するのに、立場なんて関係ないですよ」
「……止めさせる気も、止める気もねぇぞ、俺は」
という土方の企みの存在に沖田は気付いたが、その詳細には気付けなかった。
否、沖田は詳細を自身で見つけるよりも、山南に企みの存在を話す事を選んだ。
「そうですね。僕も無駄な事はしませんから、安心してください」
「おまえがそう言うと、ロクな事は起きそうな気がしねぇな?」
「酷い言い草ですね、土方先生。今も昔も『鬼』と呼ばれるだけはありますよ」
「てめぇこそ、もっと自重しやがれ!」
今回は甘くないどころか、千鶴嬢の出番がありませんでした。
ですが、次回は千鶴嬢の出番も有りますが、甘さは……(遠い目)
ただ、次回では甘い展開へと至る道筋が出来るかと。
ですが、土方先生と千鶴嬢の甘い会話は……最終話まで持ち越しです。