火星連邦の大統領となったリリーナは、大統領就任を祝うパレードで養母と再会した。
そして、その再会を演出したカトリーヌをその日の夕食に招待した。
その夕食の際、カトリーヌはリリーナの『完全平和主義』の危険性を指摘した。
だが、それを理解していたリリーナは、ただカトリーヌにも表舞台へ戻る事を勧めた。
その誘いへの答えはなかったが、カトリーヌとミルの感動的な二重奏で夕食は終わった。
そして、その翌朝、ミルが朝食の準備をしていると、リリーナがダイニングに現れた。
「おはようございます、ナイナにミル」
そう挨拶したリリーナに対し、ナイナは満面の笑みで挨拶を返した。
「おはようございます、リリーナ様」
「……おはようございます、リリーナ様」
というミルの挨拶は、何かを躊躇っているように、リリーナは感じた。
何か問題が発生したのかと思ったリリーナは、ミルの意図を確かめるように問い掛けた。
「……ミル、何かあったの?」
「え、体調でも悪くなったの、ミル?」
「いえ……リリーナ様は迷われているのですか?」
そう言葉少なくも、ミルはリリーナの疑問とナイナの配慮に応えた。
しかし、無口といえるくらい言葉が少ないミルの意図に、2人は気付けなかった。
「え?」
「ミル、どういういう意味?」
「昨夜、彼女が言われていた事を気にされているのかと……」
という、ミルの答えを聞いたリリーナは、ただ苦笑う事しか出来なかった。
いや、ミルの深慮ともいえる言動が、リリーナ自身の迷いを的確に指摘したから。
しかし、それでもミルに話した事がない過去があった為に少しだけ誤解があった。
だから、それを訂正するように、ミルの深慮への感謝を言葉にした。
「……違う、といえば嘘になるわ。でも、原因は昨夜ではあるけど、彼女ではないの」
「どういう意味ですか、リリーナ様?」
「……私は、もっと過去を知る必要がある、と思っただけよ」
「完全平和主義を貫くお気持ちに変化があった、と?」
そうミルは、知らされていないリリーナの過去があったが故の疑惑を言葉にした。
そして、同じような思いに至ったナイナは、ミルの言葉を強く非難するように叫んだ。
「ミル!」
「ナイナ、ミルの言葉は当然だわ。私も言葉が足りなかったのだから」
とリリーナは、ナイナを抑えるように、穏やかな口調でなだめるような言葉を口にした。
その穏やかさはミルの誤解を否定する強さがあったが、ナイナの疑惑は晴れなかった。
だから、ナイナはリリーナの真意を問うように、『答え』を求めた。
「私達では、リリーナ様の支えにもなりませんか?」
「いいえ、不足があるのはあなた達ではなく、私の方だわ」
「お話をお聞かせ頂けますか、リリーナ様?」
そう問い返すミルも、リリーナに『答え』を求めた。
そんなナイナとミルの思いへ応えるよう、リリーナは語っていない過去を言葉にした。
「ええ。二人には知っておいてもらいたいの。過去の私が完全平和主義を唱えた理由を」
「「……」」
「私が完全平和主義に至った理由は一人の少年の存在との出逢いなの」
と、リリーナが短くも的確に一人の少年の事を語り出した。
その少年のコードネームに思い当たったミルは、短くも的確な言葉で問い返した。
「……ヒイロ・ユイ、ですか?」
「ええ。コロニーの指導者として名を広めた人の名をコードネームに持った少年よ」
「ガンダムのパイロットであった少年が完全平和を唱えろと言ったのですか?」
そうナイナは、リリーナ言葉の素直に受け取り、正直で素直な質問を返した。
そんな真っ直ぐさは、リリーナに小さな笑みを浮かべさせた。
「いいえ。違うわ、ナイナ。ヒイロとの出逢いがあったから、私は『私』でいられたの」
という、リリーナの答えは、ナイナとミルの想像を超えていた。
いや、ナイナとミルの両親で、兄夫婦のゼクスとノインならばわかったかもしれない。
だから、リリーナもすぐに理解はされないと思い、言葉をあえて区切った。
その言葉の間に気付いたミルは、当然ともいえる質問を言葉にした。
「……世代を超えて託されたピースクラフトの名や時代の所為ではないと?」
「完全平和主義に至る道は、サンクキングダムや流転した時代の所為ではないと言えば嘘になるわ。実際、ヒイロと出逢ってから、私は数奇ともいえる運命を辿ったから」
そういうリリーナの言葉は、ナイナとミルに疑問と昔話として語られた過去を思わせた。
だから、ナイナは両親が語ったリリーナの過去を思い出しながら再び問いかけた。
「はい、それは聞き及んでいます。その運命を辿りながらも、リリーナ様は完全平和主義を唱え、実現させたのだと」
「そう言えるかもしれないけれども、ヒイロと出逢ったからこそ、私は『私』を失う事なく、『私』として運命を乗り越えてきた、と思っているの」
という、リリーナの言葉は、やはり、ナイナとミルの想像を超えていた。
だからこそ、リリーナは二人に対して微笑みを返しつつも、自身の迷いも言葉にした。
「でも……今の私は本当に『私』なのかしら?」
そういうリリーナの迷いは、すぐにミルとナイナには理解が出来た。
それ故に、先程までの誤解を払拭するように、ミルとナイナは強い口調で断言した。
「……過去の記憶が完全ではないとはいえ、リリーナ様はリリーナ様です」
「そうです! リリーナ様がリリーナ様だからこそ、私はリリーナ様の騎士となる事を望んだのです!!」
「……ありがとう。でも、その思いに応えられるだけのモノが今の私には……」
と、ナイナとミルに応えるリリーナは、微笑みを浮かべていたが、明らかに迷っていた。
それに気付いたミルは、提案する様な疑問を言葉にした。
「では、お逢いになりますか、ヒイロ・ユイに」
「え?」
「何を言っているの、ミル!」
そうナイナは、ミルの意図が不明な問いかけという名の提案を却下するように叫んだ。
しかし、意志を変える気がないミルはその叫びに応える事なく、リリーナに問い続けた。
「リリーナ様にとって、ヒイロ・ユイがそれだけの人物ならば、お逢いする事でわかるかもしれません」
「でも……」
「現状では、リリーナ様を殺せる人物はヒイロ・ユイだけのはず。ならば、対勢力も実行者として差し向けてくるのでは?」
「至近距離で殺すとは限らないでしょ?」
と、ナイナは更なる提案という名の問いを言葉にするミルの思考の穴を指摘した。
だが、その指摘には気付いていたミルはあえて言葉を返す事はなかった。
いや、ミルとナイナの会話によって気付いたリリーナの言葉がその場を一転させた。
「……そうだわ。私はヒイロに『さよなら』と言われない、言わせない世界を目指していたのに!」
「……リリーナ様?」
そうナイナは、リリーナの意図が不明な断言に対し、当然とも言える疑問を問いかけた。
しかし、自身の迷いが晴れた事に驚いていたリリーナはただ自身のおもいを言葉にした。
「私はヒイロに『さよなら』と言われて殺される状況と、『さよなら』という死別の言葉を言わせない世界を望んでいたのだわ」
という、リリーナの唐突な言動に、不慣れなナイナとミルは言葉を口に出来なかった。
そして、自分の世界から戻ってきたリリーナは感謝を言葉にした。
「ありがとう、ミル。あなたのお陰で、私はなすべき事を再確認する事が出来たわ」
「……身に余るお言葉です、リリーナ様」
「そうです、愚弟の言葉に対して、リリーナ様のお言葉は過ぎたものかと」
「そんなことはないわ。ナイナとミルが居るいから、『私』は『ここ』に居られるだから」
そう答えるリリーナは、ナイナとミルが敬愛し、支えようと思う強さを感じさせた。
それ故に、ナイナとミルは、ただリリーナに対して最敬礼を返した。
それを受け取ったリリーナは、ナイナとミルの思いへ応えるように強い言葉を口にした。
「これからも、完全平和を実現する為に協力してください」
「当然です、リリーナ様」
と、ナイナは強い視線と揺るぎない口調でリリーナに応えた。
そして、ミルも言葉よりも雄弁な最敬礼でリリーナに応えた。
ガンダムWの新作『フローズン・ティアドロップ』の3巻がベースとなっています。
上記の新作をご存知ではない方は……角川書店のHPで検索を。
説明をしようにも、新作も一人の視点だけでは語れない展開で、ヒイロとリリーナ嬢の再会?が4巻で実現という状態なので……
ヒイリリをお求めの方への説明が上手く出来る自信がないので、興味を持ってくださった方はネットでの検索と書籍購入をオススメします。
【主と護衛Ⅵ】5のお題 お題配布元:starry-tales