3抱きしめて早く安心したかった

地球圏が統一国家として歩み始めて1年後、トレーズの遺児を名乗るマリーメイアが武装蜂起した。

そして、養父の後を継いだリリーナもその戦禍に巻き込まれ、政権は簒奪された。

しかし、ゼクスとノインとガンダムパイロット達の『たたかい』を見たリリーナと民衆は『平和』を維持する為に『たたかう』ことを選んだ。

結果、マリーメイアによる騒動は終結し、現在の政府はその後始末でも多忙を極めた。

そして、リリーナもと通常の仕事と並行しての後始末にも忙殺されていた。

しかし、ようやく短くも休憩らしい休憩を得られたリリーナの元にドロシーが現れた。

「リリーナ様、相変わらずゴシップ誌を騒がせるのがお好きなのですね」

「ドロシー? 何故ここに」

そう、当然の疑問を口にしたリリーナに対し、ドロシーは意味深な笑みと答えを返した。

「民衆をブリュッセルに集めた事での情報提供を求められたから、出向いただけですわ」

「……貴女にも感謝します、ドロシー」

「……私はリリーナ様の親衛隊隊長ですもの。それよりもリリーナ様、これから私とお茶に付き合って頂けませんか?」

「ごめんなさい、ドロシー、今はここを離れるわけにはいかないの」

と、リリーナは本当に申し訳ないという表情でドロシーに応えた。

しかし、その答えを予想していたドロシーは、リリーナに素直な笑みと共に問い返した。

「執務室での『ティータイム』なんて野暮もたまにはよろしいのでしょう?」

「……そうですね。今は休憩時間でもあるから、急な仕事が入るまでなら」

そうリリーナは、ドロシーの提案を笑顔で受け入れた。

リリーナにとっても、ドロシーとのティータイムは嬉しい提案だったから。

そう思うリリーナは、先程までのかたい表情から、年相応な柔らかい笑みを浮かべた。

そんなリリーナの変化を同じように喜ぶドロシーも笑みを添えて応えた。

「ありがとうございます、リリーナ様」

「それにしてもドロシー、『ゴシップ誌を騒がせるのが好き』とはどういう意味?」

「完全封鎖された大統領府を半壊させただけでなく、侵入までしておきながらそこで気を失った馬鹿を、リリーナ様自らが介抱されたという事は、私でも知っていましてよ?」

というドロシーの言葉は、その現場に居たかのように詳細かつ的確だった。

それ故に、リリーナは少し言葉を失いながらも、素直な思いを吐露するように応えた。

「……あの時は、ヒイロが倒れるのを見た時は、とっさに身体が動いてしまったの」

「……まあ、あの馬鹿とリリーナ様らしいといえば、らしいのですけどね」

「でもドロシー、今度の事件に関わる事は瑣末でも緘口令が敷かれているのでは?」

「……人の口に戸は立てられませんわ。まして今回の事件に関わった者は多くいますもの」

そうドロシーに言われたリリーナは、忙しさで忘れかけていた今回の騒動を思い出した。

「そうですね……ある意味では終戦した時と同じように、地球圏の全ての民が関わった事件ですものね」

「そういう事ですわね。これでトレーズ様の志も……」

と応えたドロシーはあえて視線を逸らしながら、呟くように自身の思いを吐露した。

しかし、ドロシーはリリーナのこたえを聞く事なく、すぐに気持ちを切り替えた。

「ですが、リリーナ様。人の口に戸が立てられぬからこそ、言動には注意して頂かないと」

「……ええ。このような事件が起こる事がないよう、私も更なる努力するわ」

そうリリーナは、ドロシーの問いの意図に気付きながらも、見当違いな言葉で答えた。

しかし、そんなリリーナの拙い論点のずらし方に対し、ドロシーは不機嫌になった。

「……リリーナ様、論点をすり替えないでくださいな」

「ごめんなさい、ドロシー。でも、あの時も私はヒイロが心配で……」

「少しでも良いからヒイロ・ユイの存在を確認して休ませたいと思う、リリーナ様のお優しいお気持ちはわかりますわ。でも……」

「あなたの言葉は正しいかもしれない。でも、私は自分の行動に後悔していないの」

「リリーナ様……いえ、次期大統領」

と、ドロシーに言い切られたリリーナは、驚きから返す言葉を失った。

いや、ドロシーがリリーナの『今後』を知っている事は、想定も経緯も理解は出来た。

しかし、ヒイロと『今後』の事を聞かされたリリーナは、答える言葉がなかった。

ただ驚いているリリーナに対し、ドロシーは強硬ともいえる口調と態度を変えなかった。

「リリーナ様が次期大統領となられる事を、私は歓迎しますし、助力も惜しみません」

「……」

「それに、ヒイロ・ユイも同じ気持ちでしょうから、一時的なボディ・ガードにもなるでしょう。ならばその時こそ、ご自身の気持ちと関係をはっきりすべきですわ」

そう言われたリリーナは、ドロシーのおもいへ応えるように、自身の思いを吐露した。

「……確かにヒイロを一時的なボディ・ガードに、という事はプリペンダー経由で打診を受けています。でも、それはヒイロが表舞台に立つ為ではない事もわかっているでしょう?」

「……リリーナ様はお優し過ぎです! だからヒイロ・ユイがつけあがるんですわ!!」

「……いいえ。優しいのは私では無くヒイロの方だわ。その優しさに私は甘えているから」

と、リリーナがドロシーに応えた直後、緊急の仕事を持ち込む秘書が現れた。

「休憩時間中に申し訳ありません、ドーリアン外務次官。至急、見て頂きたい案件が」

「……ごめんなさいドロシー」

そう謝罪するリリーナに対し、ドロシーは不敵ともいえる笑みと共に約束を取り付けた。

「いいえ。今度は優雅なティータイムを楽しみましょう?」

「ええ。是非」

「では、失礼します、リリーナ様」

と、退室の挨拶を言葉にしたドロシーに対し、リリーナは微笑みながら見送った。

そして、ドロシーが去ったのを確認したリリーナは、気持ちを切り替えて仕事に戻った。

 

 

 

OAV(映画?)の『Endless Waltz』の後日談といえるSSかと。

リアルタイムでOAVもチェックしていた身の上としては、「あと、何人、殺せばいい?」というヒイロのセリフを元に、とも思いました。

いえ、このセリフは当時の広告でも使用されておりましたが、その字面だけで、私は珍しく泣いてしまいましたし。

基本、小説でもマンガでもアニメでも、涙を流す事は珍しい方なので、戸惑いの方が大きかったですが。

そんな「あと、何人、殺せばいい?」は次の機会に挑戦したいと思います!

 

 

 

 

 

【主と護衛Ⅵ】5のお題 お題配布元:starry-tales