1あなたという希望の名の下に

AC195年クリスマス・イブ。

地球とコロニーを巻き込んだ戦争が終わりを告げた。

いや。

地球圏に住む人々が、自ら平和を求め、そして手に入れたのだ。

その契機となる『完全平和主義』を唱えて貫いた少女の名はリリーナ・ピースクラフト。

戦時下でもヒロインとなった少女だが、平和を手に入れた人類にとても希望だった。

だが、その少女を支えたのは気高い理想や流転する時代に惑わない不屈の精神だけではなかった。

いや、少女を支えたのではなく、リリーナという少女に契機を与えたのかもしれない。

『完全平和主義』を初めに唱えた人物の名がコードネームの少年、ヒイロ・ユイが。

実際、地球とコロニーを巻き込んだ戦争を終結させる声明が発表された後、終わろうとしていた戦争の火種となりかねない障害を、少年は命懸けで消滅させた。

そう。

確かに人類が自ら平和を求め、手に入れる事が出来た。

その為にはこの少年のような兵士達の存在を無くしては語れないだろう。

だが、それはしばし忘れるべきかもしれない。

そうリリーナも思ったが、自身の強い想いを偽れず、終戦直後の少年を探した。

あくまでもリリーナにとって、ヒイロは恋しい少年でもあったから。

 

 

 

世界国家軍は資源衛星MO-Ⅱで自軍の兵員だけではなく、全ての人を収容していた。

その衛星内に用意された個室で、ヒイロは宇宙と地球を窓越しに見つめていた。

そんなヒイロに対し、静かに入室したリリーナはそっと声をかけた。

「ヒイロ……」

そう問われたヒイロは、視線だけをリリーナへと向けながら答えた。

「リリーナ」

と、ヒイロに名を口にされただけで、リリーナは万感の想いから涙を零しそうになった。

だが、そんなリリーナに対し、ヒイロは一瞥以上の言動を返さなかった。

そんなヒイロの言動に対し、リリーナは不満ではなく、更に想いを強くした。

それがヒイロの素であり、拒絶しているのではないと、リリーナは気付いていたから。

だが、リリーナはあえてそれには触れず、ヒイロに対して淡々とした口調で問い続けた。

「もう戦争は終わったのね」

「……ああ」

「ヒイロはもう誰も殺さなくていいのね」

と、リリーナはヒイロに確認したかった事を口にした。

そして、そう問われる事も予測していたのか、ヒイロも淡々とした口調で答えた。

「たぶんな」

「どうするの? これから」

「戦いのない世界というものを、俺は知らない。だが……生きてみようと思う」

そうヒイロは淡々とした口調で答えたが、それを聞いたリリーナは目を見開いた。

ヒイロという存在を知り、ヒイロへの『おもい』故に平和を実現させようとしていたリリーナにとって、その言葉は一番に聞きたかった言葉だったから。

そして、ヒイロもそんなリリーナの想いに応えるように再び視線を向けた。

「それだけだ。今わかるのは」

というヒイロの言葉を聞いたリリーナは、大きすぎる喜びを素直に告白しようとした。

「だったら私のところ……いえ、余計なことね」

そうリリーナは、自分の想いよりもヒイロの思いを優先した。

リリーナにとって、ヒイロという存在は常に希望であり、支えでもあったから。

そして、リリーナが人類の希望である事はヒイロにとっても事実だったから。

それ故に、ただ『生きよう』とするヒイロには、リリーナの近くは問題が有りすぎた。

それを無言で理解しあったヒイロとリリーナは、自然に視線を逸らした。

それがヒイロとリリーナにとっての暗黙の了解でもあったから。

「いいわ、ヒイロ。あなたがその手で導いた戦争のない世界を、あなた自身の目で見て」

と、リリーナは強がりでもなく、自然にヒイロの思いを酌み取ったかのように告げた。

それを聞いたヒイロは、やはりリリーナが人類の希望である事実を再確認した。

そして、その思いを改めて言葉にするように、ヒイロはリリーナの名を口にした。

「……リリーナ」

 

 

 

「よろしかったのですか?」

そうレディ・アンはリリーナに確認という名の進言を問いかけた。

そう問いかけた理由を聞かれれば、レディ・アンがガンダムパイロット達の行動をあえて見逃していたから。

そして、当然の帰結ようにガンダムパイロット達は姿を消していた。

だが、そう問われると思っていたリリーナは、ただ口調を改める言葉だけを口にした。

「……私に敬語は必要ありません」

「でも、貴女は地球の女王だわ。だから、ヒイロを止める事も出来たんじゃない?」

とサリィが言うように、リリーナと会話した後、ヒイロはこのMO-Ⅱから姿を消した。

それも想定内だった、リリーナは二人の配慮と思いやりに対し、熟慮した答えを返した。

「……例え、私にそのような強行が許されても、実行するつもりはありません」

そうリリーナが答えるのを聞いたレディ・アンは、驚きから軽く目を見開いた。

そのような驚きはサリィも同じだったらしく、返す言葉を失っていた。

それほどの動揺を2人に与えたリリーナは、淡々とした口調で強く断言した。

「私が平和の道標ならば、ヒイロは人々の希望です。だから、大丈夫です」

「どういう意味?」

と、サリィはリリーナ以外の人物が、疑惑に思う事を素直に聞いた。

すると、リリーナは二人を落ち着けるような、余裕がある笑みを浮かべながら答えた。

「ヒイロも気付くはずです、自分も人に希望を与え続けられる人だと」

そう、リリーナに答えらえたサリィは、再び返す言葉を失った。

それは驚きだけではなく、リリーナが『女王』であった理由を垣間見せられたから。

そして、それを想定していたリリーナは、ただ瞳を閉じると強い口調で言葉を続けた。

「その時まで……ヒイロに時間が有っても良いでしょう。そして、私はそれも守りたいと思います」

「そうですね……」

と、レディ・アンはリリーナに同意する事しか出来なかった。

いや、ヒイロとリリーナの絆の強さと、深く理解をしあう関係である事に敬意を表した。

また、サリィもリリーナの強い意志と想いを知り、これ以上の詮索は野暮だと思った。

だから、その意志を示すように、サリィは肩をすくめながら苦笑った。

「さすがは女王陛下、って事かしら」

 

 

 

1998年発行に発行されたガンダムWのコミックス『グランドゼロ』をベースにしています。

未読の方への説明には……TVシリーズ終了後から『Endless Waltz』の空白を埋めるオリジナルストーリー、という紹介になるかと。

ラジオドラマや、違う出版社のコミックスとは別の時間軸となっているようです。

また、このコミックスは少女マンガ風な雰囲気があり、ヒイロとリリーナ嬢の関係の描写や、リリーナ嬢がメインの短編もあります。

はじめは少女マンガ風な雰囲気に戸惑いましたが、ヒイロとリリーナ嬢の関係を公式で描かれるのは珍しかった為、今では貴重な萌えコミックスかと。

ここまでダラダラと『グランドゼロ』につて語りましたが、使用しているのは冒頭だけで、知っている方には説明が要るのか?とのツッコミを受けそうですが(苦笑)

また、今週から週一のペースでお題を利用したヒイリリを更新する予定なので、お付き合い頂ければ、幸いです。

 

 

 

 

 

【主と護衛Ⅵ】5のお題 お題配布元:starry-tales