リリーナがヒイロに告白をした式典から数カ月後。
リリーナはドロシーの強制的な誘いによって、と共に休暇を過ごす事となった。
そして、そのきっかけとなったヒイロへの怒りを、ドロシーは大袈裟に露わにしていた。
「リリーナ様はいつまでヒイロ・ユイの理解者でいるつもりですの?」
と、ヒイロに対して敵対心を持つドロシーは、語調を強めてリリーナに問いかけた。
そんなドロシーに対して、リリーナは苦笑いにも似た、穏やかな笑みを添えて答えた。
「……私はヒイロに理解して欲しかっただけです」
「そんなお優しい言葉ばかりだから、ヒイロ・ユイが付け上がるのですわ! その上、リリーナ様がお疲れなのはヒイロ・ユイに原因があるのではありませんか?」
「そうですね。確かにヒイロへの想いを隠すのは、護衛される機会が多くなった現状では難しいです。でも、それはヒイロも同じですから」
そう答えるリリーナは、疲れを感じさせる陰りを見せながらも、ドロシーに微笑んだ。
そんな笑みを向けられたドロシーは、その笑みよりも答えに対して驚きを口にした。
「あの鉄面皮に疲れるなんて神経があるのですか?」
「確かにヒイロの変化は微かですけど、無自覚な優しさは最近、元に戻りつつあるのよ」
「流石はリリーナ様ですわね。ヒイロ・ユイに揺さぶりと見分ける目をお持ちなんて」
「そんな事はありません。私の力なんて……」
と答えたリリーナは陰りを通り越した陰鬱な表情でうつむいた。
その変化が理解できなかったドロシーは、機嫌を伺うように名前で問い返した。
「リリーナ様?」
「私に力が足りないから、ヒイロ達を手助けする事も止める事も出来ないのですから」
「……リリーナ様」
リリーナの常にある悩みを打ち明けられたドロシーは言葉を失った。
そして、リリーナはただ常に思っている贖罪の意識を言葉にする事しか出来なかった。
「私は無力です。なのに、私は多くを望み、言葉にして、大勢の人々を巻き込んでいる。私の咎と業は彼らよりも深く、一生を費やしても償えないと思っています」
「……リリーナ様は後悔しているのですか?」
そうドロシーはリリーナに問い返す事しか出来なかった。
だが、リリーナは先程までの陰を感じさせない、強い口調でドロシーの懸念を否定した。
「……いいえ。今の道は私自身が選んで歩んできた道です。後悔はしていません」
「では、ヒイロ・ユイに逢いたいと思いませんか? 私とカトルの情報網を使えば、ヒイロ・ユイの居所なんて簡単に掴めますわ」
とドロシーはリリーナに提案を口にした。
今のリリーナには自分との休息よりも効果があると思ったから。
しかし、リリーナは静かに、だが強い表情で、ドロシーの提案を否定した。
「……いいえ、今はまだ」
「今は?」
「ええ、今は」
「わかりましたわ。リリーナ様がそうおっしゃられるなら」
そう答えたドロシーは、リリーナの陰りが消えている事に気付き、答えを受け容れた。
そして、リリーナもドロシーの心遣いへ感謝する様に穏やかな笑みを返した。
「有り難う、ドロシー」
切ない恋愛お題(2)お題配布元:疾風迅雷