誘惑~誤解しないでください!~公瑾編

公瑾と花が結婚してから半年後。

都督として屋敷を留守にし、共に過ごせない日も多かったが、花は不満を口にしなかった。

しかし、公瑾はその不満をあからさまに見せながらも隙は見せなかった。

だが、長期の任務を命じる仲謀や花を独占する大喬と小喬への牽制は日々酷くなった。

その様な公瑾の態度をなだめる役目も担う花は、名実ともに妻と思えるようになった。

 

だが、一つだけだったが、誰にも言えない不安が花にはあった。

そして、その不安の片鱗を一人で呟いた花の言葉を、大喬と小喬が盗み聞いた。

常ならば、その様な花を揶揄する大喬と小喬は、公瑾と話す事を勧めた。

それ故に、恥じる気持ちを隠せない花は二人と共に仕事を終えた公瑾に話かけた。

「公瑾さん……体力をつける為にもお仕事や武芸の稽古をしたいのです」

そう花に告げられた公瑾は、2人の時間を邪魔する大喬と小喬の存在に苛立っていた。

それ故に、公瑾はその感情を隠す事なく、冷たい口調で花の希望を却下した。

「……その様な事をする必要性も意味も分かりません」

という答えは想定内だった花は、頼る様な視線で大喬と小喬を見た。

その様な花の態度で公瑾は更に機嫌を悪くし、大喬と小喬は呆れた。主に公瑾の態度に。

「だから公瑾は駄目なんだよねぇ」

「そうそう。乙女属性なのに乙女心がわかってないよねぇ」

「……その乙女属性とは私の事ですか?」

そう問い返す公瑾と大喬と小喬の会話で論点がずれるのを花は止めようとした。

そして、その様な花の言動もしっかり把握していた公瑾は先を制する様に問い掛けた。

「では、貴女が説明をするんですか?」

「ですから、こちらの世界に慣れる為の一環として……」

と花があえて表向きかつ上っ面な答えを返そうとした為、公瑾は再び言葉で制した。

「……その様な偽りを口にしてでも体力を向上させたい理由があるのですか?」

そう公瑾に問われた花は返す言葉を失って沈黙した。

だが、大喬と小喬はニヤリと笑ってから、公瑾の言動を揶揄する様に指摘をした。

「あ、自分が乙女属性だってわかってたんだぁ」

「公瑾の事だから、絶対に認めないと思ってたのにぃ」

という指摘が公瑾の許容範囲を超えた事に気付いた大喬と小喬はすぐに撤退を言葉にした。

「そろそろお邪魔虫になりそうだから、たいさーん」

「花ちゃんの緊張も解けたから、たいさーん」

「……で、偽りや緊張までして私に頼みたい真の理由はなんですか?」

そう問うた公瑾は花をまっすぐに見ながら、先程とは違う優しさを感じる声だった。

その様な公瑾の優しさに背を押された花は、正直かつ素直な想いを言葉にした。

「……公瑾さんに満足してほしくて」

という花の言葉は、公瑾の思考と想定を大きく上回り、言葉の意味が全く分からなかった。

それ故に、公瑾は返す言葉を失ってしまったが、その様な反応の意図を花は曲解した。

「……やっぱり女性からこういうことを言うのは駄目なんでしょうか?」

「……申し訳ありません。きちんと説明をして頂けますか?」

そう公瑾は問い返す事しか出来なかった。

否、花の言葉の意味も意図もわからないどころか、公瑾でも察する事が出来なかった。

しかし、意図を曲解する事しか出来ず、恥ずかしがっている花は公瑾に答えられなかった。

そして、この様な態度となった花を軟化させる為、公瑾は妥協案を言葉にした。

「理由が明確で、納得も出来れば、協力はしますよ?」

という公瑾の妥協案に対し、花もこれ以上の沈黙は得策ではないと思って再び口を開いた。

「……いつも夜、私の方が先に寝てしまいますよね?」

「ええ。ですが、慣れていない貴女に……!」

そう公瑾は花に答えようとした時、公瑾は花の相談内容と意図の片鱗に気付いた。

だが、公瑾も花が色恋沙汰に鈍いと知っているが故に、あえて率直な確認を言葉にした。

「……つまり、少しでも共に長く夜を過ごしたい、という意味ですか?」

「……やっぱりこういう事は女性から言う事じゃなかったでしょか?」

「そうですね。私以外の異性にこのような話をする事は許容できませんね」

と言われた花は、自身を貶めるような勢いで恥じ入りながらもただ謝罪だけを言葉にした。

「すみません」

「では、貴女は私以外に相談したのですか?」

「違います! いえ、大喬さんと小喬さんには少しだけ聞きましたけど」

「……では問題は有りません」

そう公瑾に断言された花は、驚きから目を見開きつつも、言葉の真意を確かめようとした。

その様な花の視線と思いに対し、公瑾は普段は見せない甘くも色香の漂う笑みを見せた。

「まだ新婚ですし、貴女も慣れていないと思っていたので、こういった話はしませんでしたが、私とならば問題は有りません。ですが、意外ですね」

「意外、ですか?」

「ええ。貴女から誘われるとは思っていませんでした」

「ち、違います!」

と強い口調で花が否定をした為、公瑾は先程の願いの真意も確かめる様に問い返した。

「違う?」

「えっと、公瑾さんと過ごす夜も好きですし、求められるのも嬉しいんです。でも……」

「でも?」

「……いつも私が先に寝てしまうので……公瑾さんが満足する事が出来ていないんじゃないかと」

その様な率直過ぎる答えを聞かされた公瑾は、花以上に動転した表情で状況確認をした。

「……その様な事を大喬殿と小喬殿に相談したのですか!」

「ち、違います! ただ、体力が欲しいと言ったら、お2人が『公瑾って気絶するまで抱きそうだよね』とか、『公瑾の執着に付き合う体力なんてつけない方が良いよ』と言われまして……」

という花の言葉は、その場に居なかった公瑾にもわかる程に現実味があった。

いや、今すぐその場を声音で再現しろと言われたら出来ると公瑾は思った。

そして、それを花は求めないだろうが、この事を知られたらと思うと、公瑾は憂鬱となった。

しかし、その様な公瑾の思いに気付かない、否、気付けない花はただ首を傾げた。

「公瑾さん?」

「では、貴女は私との夜の過ごし方に問題ある、というのですか?」

「で、ですから、私ではなくて、公瑾さんが満足していないかが知りたいんです!」

そう花に問い返された公瑾は、憂鬱だった気分だったが故に、大きな溜め息を吐いた。

その溜め息の意図にも気づけない花は、ただ公瑾の思いを再び曲解した。

「やっぱり私なんかじゃ……」

「ではお聞きしますが、私が貴女を抱く時に、不満や不足を言葉にしたことがありますか?」

「え?」

「私は貴女だから欲しくて抱きたくて求めているんです。まあ、慣れていない貴女に無理をさせている事は認めますが……」

と花に答える公瑾の頬は少しだけ紅く、あえて視線をそらしている様が可愛いと思った。

それ故に、花はその想いのままに公瑾に抱きつくと互いの視線を無理に合わせた。

「公瑾さん!」

急に花から抱きしめられ、そらしていた視線を合わせられた公瑾は明らかに動揺した。

それでも、公瑾は反射的に花を抱きしめ返し、和らいだ視線で愛おしさを隠さなかった。

その様に魅せられた花は、まっすぐなに公瑾を見つめながらも思いを遂げようとした。

「でも、やっぱり、体力はつけたいです!」

「……理由をお聞きしても?」

「公瑾さんとの夜も少しでも長く過ごしたいからに決まってます!」

と花に断言された公瑾は、先程まで動揺していたのが嘘の様な意味深な笑みで答えた。

「ならば協力いたしますよ?」

「本当ですか?」

「ええ。互いに夜を長く過ごすには慣れが一番ですからね」

そう公瑾に耳元で告げられた花は、想定外な甘い予感にただ驚いた。

そして、公瑾の行為に甘く応える花の艶やかさを思い出しながら、公瑾は花に触れた。

「今までは慣れない貴女を思って手加減していましたから、覚悟してくださいね?」

「……」

「愛していますよ、花」

と甘く囁く公瑾とのこれからを花は予想できなかったが、花はただ公瑾に身体を委ねた。

そして、その様な新妻の想いに応えるべく、公瑾は優しくも長く花を愛した。

この夜以降、花の不安はなくなったが、公瑾との『夜』に関して悩む事になった。

だが、それを見抜いている公瑾により、花の悩みは増える事も減る事も無くなった。

 

 

 

 

 

……あれ?乙女都督はどこに??

横槍までは想定通りでしたが、花ちゃんの告白に照れる乙女都督になる予定が……

すみません。三国恋戦記は想定外な仕上がりがデフォルトのようです。

ですが、思いっきり楽しく書く事は出来ました!

なので、乙女都督は次回に持ち越し、で。