誘惑~信じてください!~孔明編

玄徳の提案により、玄徳に古くから仕える近臣達との宴に孔明と花は参加する事になった。

孔明と夫婦となってから、花は夫の『お願い』により宴に参加する事がほぼなくなった。

そのような孔明の独占欲を玄徳をはじめ近臣達は苦笑いながらも容認していた。

しかし、玄徳は花の息抜きも兼ねて、近臣達の宴に花の参加を孔明に命じた。

それに対して孔明が激しく抵抗する事を玄徳は予想していたが、安易に鶴の一声となった。

結果、久方ぶりに宴へ参加した花は玄徳の近臣達に囲まれた。

だが、花の側には不気味な笑みを浮かべる芙蓉姫と雲長が居た為、安易には近寄れなかった。

そして、それを遠巻きに見ていた玄徳はその様子をじっと見る孔明を側に置いていた。

「気になる、か?」

そう玄徳から互いに答えがわかっている問いをされた孔明は不機嫌さを隠す事がなかった。

「……わが君の思いはわかりますが、二度目は有りませんから」

「確かに今回は強引だと思うが、こうでもしないと花はおまえを待つだけの夜を過ごし続ける事になるだろう?」

という玄徳の問いも先程と同じ問いだった為、孔明は言葉を返す事も無かった。

そして、その様な孔明の『男』らしさに玄徳はただ苦笑い、近づいてきた芙蓉はからかった。

「あら、天下の伏龍先生も、妻の事となるとただの『男』になるんですね?」

「芙蓉姫こそ、花の隣を離れて大丈夫ですか?」

「そろそろあなたの出番だと思ったのだけど?」

そう芙蓉に問い返された孔明は、白旗をあげる様に苦笑う表情を羽扇で隠した。

「……本当に芙蓉姫は恋戦がお上手ですね」

「では玄徳様、そろそろ孔明殿と花を退席させますね?」

「……それは確認ではなく脅迫だろ、芙蓉?」

という玄徳の芙蓉への問い返しを聞いた孔明は、すぐに退席の言葉を口にした。

それほど、孔明は納得できない情況を容認せざる得ない現実へあからさまに苛立っていた。

「では、ボクはこれで失礼します」

 

 

 

芙蓉姫という強力な守護が無くなった花に対し、近臣達は少しずつ距離を近づけた。

それでも、雲長という助力と壁があった為、花も何とか対応する事が出来た。

そして、それを察した様に、花が無理に勧められた酒を奪う様に飲んだ孔明が声をかけた。

「そろそろ退席するよ、花」

「え?」

「これ以上、ボクを嫉妬で狂わせる気なら、明日の保証はしないよ?」

そう孔明に言われた花は、単純にその言葉の意味に驚き、周囲は揶揄と容認を言葉にした。

「これは大胆な宣言ですな、孔明殿」

「ええ。花はボクの妻ですから……それとも、花もボクと夜を明かすより、彼らと過ごす方が良いの?」

「孔明さん!」

「ははははは、孔明殿にこうもあからさまな悋気をさせる花殿は偉大ですなぁ」

「そうですね。ボクは花が居なければ、生きていけないくらいですから」

という今宵の孔明が口にする言葉は、あからさま過ぎて、花は驚き以外の思いを感じた。

そして、その様な花の変化に素早く気付いた孔明は、新妻を気遣う様な気安さで問い掛けた。

「花?」

「おや、花殿も孔明殿の独占欲にあてられましたか?」

そう玄徳の近臣達も花の様子が気になったが、その問いに花は答える事が無かった。

また、それが孔明にとっても最善だったから、あえて退席の言葉を口にした。

「では、皆様方をあてないよう、我々は先に退席します」

 

 

 

城から屋敷に帰った花に対し、孔明は使用人達をさがらせてから問い掛けた。

「今夜は楽しかった?」

という孔明の問いに対し、なぜか花は沈黙していた。

いや、意図的ともいえる沈黙に対し、孔明はあえて言葉を返させようとした。

「ボクに遠慮しなくてもいいよ。花が宴に参加したいなら……」

「何が不安なんですか?」

「え……」

「それとも何かの策なんですか?」

そう花に問い続けられた孔明は、再び白旗をあげずにはいられなかった。

「……本当にボクのお師匠様はすごいな」

「私の質問に答えてください!」

という花の真剣な問いと叫びに対し、孔明も自然と厳しい表情で問い返した。

「いや、ボクの答えは君もわかっているんだろ?」

「質問に質問で答えないでください」

「あえて言葉が欲しいなら、僕も遠慮はしないよ?」

そう孔明に確認される事も予想していた花はただ沈黙で言葉を促した。

そして、孔明も花の固い態度へ応える様に、真剣な表情で言葉を口にした。

「君は戦いの無い世を望み、天下三分の計という形で成し遂げた。これは英雄と言われる偉業だ」

「……私が女だから、やましいとでも言うのですか?」

「そうだね。実際、三国の君主達も魅了させている君の魅力の影響力もあるだろう?」

という孔明の問いに対し、花は劣等感を抱いている容姿に対する自身の評価を言葉にした。

「私は文若さんに十人並み、仲謀さんには貧相といわれた程度の容色です」

「そうかな? 君はボクに人生の全てを捧げさせた『仙女』だったんだよ」

そう孔明に切り返された花は、返す言葉が無かった。

いや、孔明の言葉の真意に気付いた花は、言葉を返す事の無意味さに気付いた。

そして、花が孔明の意図に気付いたと知っても、孔明はあえて言葉を続けた。

「そうそう。光栄な事に献帝にもお気に召して頂き、名前も憶えられているよね」

「……言いたい事はそれだけですか?」

と花が、孔明の言葉をあえて遮った。

その意図にも気づいた孔明は、ただ花に確認だけを言葉にした。

「いや、君が『言葉』を望むなら、まだまだあるよ」

「私が欲しいのは孔明さんだけです」

そう花に告げられた孔明は、ただ単純な疑念と思惑を込めて、短くもただ問い返した。

「……戦いの無い世をつくる、ではなく?」

「それは私だけの願いではないから、叶う事も叶える事も出来るんです。でも、私個人が必要で欲しい人は孔明さんです」

と孔明に告げた花は、自分から孔明を強く抱きしめると互いの唇を重ねた。

それだけで、孔明の苛立っていた感情が落ち着き、花の想いに触れた心地良さだけとなった。

それくらい、花が孔明を深く想う愛情と身を委ねたくなる程の包容力にただ癒された。

そして、それにも気づいている花は、ただ孔明に素直な想いと決意を言葉にして告げた。

「たとえ、私に男性を虜にする魅力があっても、それは孔明さん以外に気付かせる事もみせる事もしません。私が欲しいと思う男性は孔明さん以外にいませんから」

「……」

「……孔明さん?」

そう花に問われた孔明は、孔明を抱きしめる花の身体を抱き返しながら再び白旗をあげた。

「ボクの完敗だよ。でも、ボクが負けず嫌いなのは知ってるよね?」

「……もちろん知っています。私の大好きな人の事ですから」

「じゃあ、明日は仕事を……」

という孔明の言葉を予想していた花は、あえて玄徳達から秘密だと言われた言葉を告げた。

「私は明後日まで休暇だと玄徳さんが言ってました。その為の宴だとも」

「……」

「負けず嫌いの孔明さんはどうしますか?」

そう花に問われた孔明は、少しだけ肩の力を落とし、悔しそうな表情となった。

その様な表情を時々見せられるようになった花は、亮と重なる幼さを可愛いと思った。

だが、その様な花の想いに気付いたのか、孔明はすぐに意味深で読み難い笑いみを浮かべた。

「……ねえ、大好物が目の前に有ったら、どんな状況でも欲しいと思わない?」

「私はお菓子でも食べ物でもありません」

「君の大好物はボクじゃなくて食べ物なんだ」

という孔明の口調は、いつもと変わらぬ飄々とした口調で、花でも真意がわかりかねた。

それ故に、花は孔明への想いと想われている事を再確認する様に、過去の言葉を口にした。

「……告白する前は『いない人』で、結婚するまでは『きまり』と言って私との距離を置いていた人とは思えぬ独占欲ですね」

「うん。君はボクにとって何よりも大切な人だからね」

そう花に答える孔明は、やはりつかみどころがなく、飄々とした態度だった。

そして、その態度の意図がわからない花でも、それが『諸葛亮孔明』だと思った。

だが、それ故に、花は自分の想いと存在を主張する様に、まっすぐな視線で孔明に問うた。

「じゃあ、『亮君』はやめましょう?」

という花の問いは、孔明にとって想定外で返答に困るものだった。

いや、花の想いも存在も、孔明にとっては必要不可欠で認めている事だった。

しかし、『亮』が『師匠』と呼ばれるに至った経緯を思い返した孔明は花の意図に気付いた。

否、花が居たからこそ孔明が存在し、孔明が存在するからこそ花が居る。

それに気付いた孔明は、自身が独りではなく、花が伴にいる現実を再確認した。

そして、その様な孔明の思考を予想していた花は、抱きしめている腕の力を更に強くした。

「私は孔明さんの奥さんです。だから、孔明さんが望む方法で確かめてください。私はそれを拒むつもりはありません。だって、私は孔明さんの唯一なんですよね?」

「……」

「もちろん、私にとっても孔明さんが唯一です」

そう花に告げられた孔明は、互いの想いを再確認したが故の欲からただ孔明は花を求めた。

「……もう限界。だから、花。ボクが望むままに応えてくれる?」

「はい。愛しています、孔明さん」

という花の声は孔明の荒れ狂う深くも重い想いまで包み込むように心を満たした。

しかし、それだけでは足りない、否、更に欲深くなる事を互いに知っていた。

それ故に、孔明は花を求める欲に抵抗する事なく、孔明は花への愛情と欲を隠さなかった。

「……うん。ボクも愛しているよ、花」

 

 

 

 

 

今回の孔明編はとあるアニメのOP『WILL』という曲から思いつきました。

正確に言えば、孔明さんより亮君の方が似合う曲ですが、それはうまく生かせませんでした。

なので、亮君が絡むストーリーは次回に、で。

 

また、今回は「ドSな師匠に花ちゃんが泣かされる」という裏テーマがあったのですが……

孔明さんのドS発言に対する花ちゃんの言動が『対立モード』となりました。

なので、今回の裏テーマも次回に持ち越し、でしょうか?

ですが、ドSなキャラに対して泣く前に泣かす勢いで立場を逆転させるのが好きで、

裏テーマ的な可愛いヒロインの反応を描くのが苦手だった事にも気付いた為、

書きたい!という思いだけで未達成となる可能性は高いですが……(遠い目)