マリアと久方ぶりの再会をしてから撃沈ばかりのロイが、呟く様に過去話をはじめた。
「……『私が民主制に移行する未来の大総統夫人に相応しいと認められるようになります。だから、ただ死を安易に選択する方を選ぶ気はありません。ですから、あきらめないでください。その為なら、私は貴方の隣を選び、支え続ける事も約束します』か」
そうロイは、逆プロポーズされた時の言葉を繰り返した為に、マリアはただ首を傾げた。
その様なマリアに対し、撃沈したままのロイはただ苦笑いながらも再確認を求めた。
「いや、今でも君からプロポーズの返事として、逆プロポーズをされた事が信じられなくてね」
「私の言動が信じられない、と?」
「ただ、君があまりに変わらない上に、俺を好きになってくれた時の事を秘密にしているだろう?」
とロイに問われたマリアは、想いを疑われている事への苛立ちを隠さずに問い返した。
「……その話をしないのは、マスタング将軍を思ってだとしても、ですか?」
「どういう意味だね?」
そうロイが、真剣な表情で問い返した為、マリアも誠実に答えようとした。
「いえ、私が想いに気付いた時から、想いを隠す必要性があった所為だと思いますから」
「理由を聞いても?」
「ノックス先生がマリア・ロス少尉の偽死体を断定した時ですから……その時、アームストロング少佐と同じ確信と自分の想いに気付いたんです。でも、あの時はマスタング将軍と私達兄弟の間でも距離を置くべきだと思ったので」
「そうか。あの時からとは……」
というロイは、撃沈していた時よりも重い何かを背負っている様にマリアは感じた。
それ故に、マリアは言葉を挿む事なく、ただ無言でロイの言葉の続きを待った。
そして、その様なマリアの様子に気付かないロイは、ただ真剣な表情でただ確認をした。
「……その頃は君も16歳になっていたな」
「ええ、そうだと思いますけど……?」
「ならば君からの返事を待たずに行動を起こしていても問題がなかったのに!」
そうロイが力説すると、マリアは出逢った時以上のあきらかな嫌悪と拒絶を言葉にした。
「あの頃にそんな言動があったら、それこそ百年の恋も冷めたと思います」
というマリアのはっきりとした否定を聞いたロイは、再び真剣な顔で問い返した。
「何故、恥じらうように頬を紅く染めるとか、そういった乙女な反応は無いのかね」
「その様な女性がお好みなら、たくさんあるという縁談から選んでください」
そうロイに答えるマリアの笑顔は、大輪の薔薇の様に美しい笑みだった。
だが、その笑みには薔薇の様な棘があり、その棘をエルリック兄弟は恐れていた。
そして、ロイもその恐ろしさも知っていたが、あえてマリアの問いに言葉で問い返した。
「……私が君以外の女性に興味も好意も無いと知っていて、そう言うのか?」
「ええ。でも、私はマスタング将軍以外の男性は選びませんから」
とロイに答えるマリアの笑みは変わらず、それ故にロイはマリアの笑みが怖いと思った。
そして、違う意味で怖い笑みを浮かべる親友を思い出したロイはマリアに確認をした。
「……氷炎のに似てきた、とも言われていないかね?」
「そうですね……あ、ホークアイ中尉に似てきたとブラッドレイ夫人に言われました」
そうマリアに問い返されたロイは、再び撃沈させられて、今にも再起不能だと思われた。
だが、マリアはロイを撃沈させる事も、落ち込ませる事も、意図的ではなかった。
それ故に、マリアはロイに対し、今更な確認をする様に問い掛けた。
「百年の恋も冷めましたか?」
とマリアに問われたロイは、撃沈していたのが嘘の様な余裕ある表情となった。
いや、先程までの撃沈が偽りの様に感じたマリアは、少しだけ目を見開いた。
そして、その様なマリアに対し、ロイは女性受けする笑みを浮かべてから問い返した。
「いや、そんなクールな君を堕とすのが楽しみだ、と言ったらどうするつもりだい?」
「ぜひ、堕としてくださいと答えますよ、私は」
そうマリアに答えられたロイは、瞬時に返す言葉が無い様子で再び撃沈した。
そして、今回の撃沈の衝撃が凄いのか、ロイは何分も俯いたままだった。
だが、その様なロイに慣れてしまったマリアは、ただアイスティーを飲んでいた。
それから、少しだけ自力で復活したロイは、マリアに敗北を宣言する様に告げた。
「……私の完敗だな」
「でも、私の勝ち、でもなさそうですね?」
「ああ、これから逆転も可能だろう?」
というロイの問い返しを聞かされたマリアは、その問い返しの真意と想いに気付いた。
それ故に、これからを想像したマリアは、艶やかに笑いはじめたロイがこわいと思った。
「護衛付きの状況で女を堕とそうだなんて本当に貴方はコワイひとですね」
「知っていただろう?」
そうマリアに答えるロイは、先程までマリアの言動で撃沈したロイとは違うと思った。
それくらい、野望を持つに足るだけの器と強さを持っている、ともマリアは思った。
だから、マリアは艶やかに笑うロイもこわいと思いつつも、正直で率直な思いで答えた。
「……いえ、今更ながらに知りました」
このSSの冒頭のセリフは最終決戦の後日、エルリック兄弟が故郷に帰る前に
ロイがエドの双子の妹へ挨拶の様に告げているプロポーズへ応える逆プロポーズでした。
ただ、エドの双子の妹がロイへの恋心に気付いたのは巻数ではかなりはじめの方です。
そのきっかけやロイがエドの双子の妹への恋情が変化していく状況も
回想的な連続更新中のこれからのSSでもUPしていく予定です。
使用お題「微エロ10題1」お題配布サイト「疾風迅雷」