哀惜

ヒューズ准将の葬儀後、ロイはヒューズの墓に向かった。

だが、アグニはロイではなくホークアイに声を掛けた。

「大佐の側に居て、ホークアイ中尉」

「私よりもカーチス少佐の方が……」

と言ったホークアイの言葉を、アグニは言葉で遮った。

「今は『大佐』でいてもらう。マースの死の真相を知る為にも」

「わかりました」

と、ホークアイはアグニの意図を察して短く了承をした。

だからアグニは小さな笑みをホークアイに返した。

「有り難う。『仮面』は私が責任を持ってはずしてから戻す」

そんなアグニの言動はホークアイに喜びではなく悲しみを与えた。

なぜならアグニは、ヒューズの死を知ってから、ロイの事ばかり口にしていた。

だからホークアイはアグニに訊ねた。

「セラブ少佐……」

しかし、ホークアイは途中で口を閉ざした。

アグニが突然顔を伏せたから。

アグニとヒューズの係りはロイ以上だとホークアイは思っていたから。

「私、マースが死んだというのに悲しみを感じれない。マースの死をロイが選んだ道の代価かもと考えてしまうし……錬金術師って嫌な生き物」

「……カーチス少佐」

ただ、ホークアイはアグニの名を口にする。

すると、アグニは場違いなほどに明るい笑みを向けて言った。

「私、ロイとは別のアプローチで探るから」

「了解しました。では、お気をつけください、カーチス少佐。今、貴女まで失ったら大佐は……」

「ロイにあんな顔をさせるつもりはない」

アグニはホークアイの心配を遮るように言い切ってから去っていった。

 

 

 

その夜、情報を収集したアグニはホテルに戻った。

そして、ロイの部屋のドアをアグニはノックをしたが返事がなかった。

だからアグニは、ホークアイの部屋へ行って情報を交換した。

そしてその時、ロイが部屋から出ていない事をアグニは知った。

だからアグニは、再びロイの部屋のドアをノックした。

しかし、何の反応もなかったので、アグニは錬金術を使って侵入した。

「ロイ?」

と、アグニは名を呼んだが、呼ばれた人物は何の反応もしなかった。

なので、アグニはいくつもの練成陣を室内に描き始めた。

そして、もっていたチョークをしまうとロイに声を掛けた。

「ロイが選んだのは『今以上の苦難と苦悩が待ち構えている道』では?」

全てを拒絶するように俯いていたロイが小さく反応した。

「軍上層部にかかわる組織と賢者の石が、マースの死にかかわっているとホークアイ中尉から聞いた」

そう言いったアグニは一呼吸ついた。

そして、ロイが反応しないとわかっていたアグニは話を続けた。

「マースが賢者の石にかかわったのはあの兄弟にロイがかかわったから」

と言ってから、アグニはロイの顎をつかんで互いの視線を合わせた。

「マースの性格と賢者の石を知っていると思ったのは私の勘違い?」

いつもと違うロイに対してため息をついた後でアグニはつぶやいた。

「こんなヤツの為にマースは代価と……」

とアグニが言った時、ロイは突然立ち上がった。

そして、アグニの言葉を遮るように首を絞めながら壁に押し付けた。

「ヒューズの死は代価などではない!」

そう言いながら、ロイは眉根をきつく顰めた。

感情的にアグニの首を絞めているロイは気付いていない。

首を絞められているアグニよりも険しい表情をしている事と、アグニの手が不自然に動いている事に。

そして、アグニが意識を失いかけた時、室内に光が満ちた。

その光が練成反応だとロイが気付いた時、アグニに押し倒された。

ロイをベッドに押し倒したアグニは胸倉をつかみながら言った。

「このザマで上層部にどうやって喰いつくつもり?」

そう言われたロイは反射的に身体を動かそうとした。

だが、ロイは身体を動かすことが出来なかった。

「上層部は少佐止まりの私以下?」

身体を動かせないロイは鋭い視線をアグニに向けた。

人も殺せるくらい鋭い視線を受けたアグニは微笑んだ。

「でも、マースと私がついていくといった人は大総統になれると信じている」

それを聞いたロイは目を見開いた。

そして、アグニの意図に気付いたロイは自嘲した。

「人が悪いぞ、氷炎の」

アグニも自嘲を返しながら、ロイの身体を解放した。

「そうね、私はロイのようにマースの死を悼むことが出来ないから」

「でも、俺の想いがわかるのだろう?」

「でなきゃ、こんな無茶はしない」

そう言って離れようとするアグニをロイは抱き寄せた。

「人の痛みを理解する事が出来るのはそれを知る者だけだ。おまえは自覚していないんだ、ヒューズの死に対する想いを」

そうロイに言われたアグニの瞳から一筋の涙が流れた。

それを見たロイは小さくつぶやいた。

「また、雨が降ってきたな」

「じゃあ、私がロイを守る。雨の中じゃロイは無能だから」

そう言いながら、アグニはロイに身を預けて涙を隠した。

そんなアグニをロイは強く抱きしめながら言った。

「ああ、これからも頼む」

 

 

 

 

 

『千夜一夜物語』という鋼の錬金術師のドリー夢小説の企画に参加した時の小説です。

10年位前の小説ですが、ドリー夢小説だった頃と違う氷炎の錬金術師(当サイトのオリキャラ)の名前と呼び方以外は当時のままです。

一応、私が氷炎の錬金術師というキャラを考えた時から、書きたかった対等な関係が書ききれたと勝手に思っています。

なので、紹介小説と同様に甘さも一般的な萌えポイントもないと思われますが、私のお気に入りといえるモノなので、少しでも気に入ってくださると嬉しいです。