ロイとマースとアグニは士官学校を卒業してから軍に入った。
軍での配置の関係等でそれぞれの勤務先はわかれ、3人が再会したのは戦場だった。
そして、ロイとマースが戦場であるイシュヴァールで再会してから1ヶ月後。
ロイの護衛任務を拝命する為に国家錬金術師となったアグニとも再会した。
それ故に、ロイは『氷炎の錬金術師』の銘を持ったアグニの護衛を拒否した。
だが、アグニの『氷炎の錬金術師』としての覚悟と思いを知ったロイは護衛を承諾した。
そして、マースはアグニとの再会もただ喜んで受け入れた。
また、3人だけの時は士官学校の時の様な軽口も叩けるようになった。
それからも、ロイとマースの瞳は更に変化したが、アグニの瞳は変わる事がなかった。
だが、その理由をロイは追求せず、マースは知っていたが故に知らないふりをした。
「マスタング少佐は居るか?」
そう言ったヒューズは、イシュヴァールで再会したロイのテント内に入ってきた。
しかし、目的の人物は女性の膝枕で寝ていた。
今日の全作戦は終了し、夕食の時間も過ぎた時刻なので、寝ているのは不思議ではない。
だがロイの性格上、戦地で熟睡している事は想定外だとヒューズは思った。
例えその女性が、ロイとヒューズの親友であるアグニだったとしても。
そんなヒューズの戸惑いに気付きながらも、アグニは淡々とした口調で問い返した。
「あら、マースじゃない。『戦争の時間』が変更になった?」
「いや、オレも今日は終わったから、ロイにグレイシアの写真を見せてやろうと思ってな」
と答えるヒューズは、アグニとロイの状態に対する疑念を隠そうとしなかった。
それに対し、アグニはあえてその疑念に答える事なく会話を続けた。
「私はダメかしら?」
「いや、アグニの方が喜んでくれるからオレには良いんだが……睡眠薬を使ったのか?」
そうヒューズは、アグニの問い掛けに対して答えながらも、的確に疑念を問い返した。
まっすぐで直球な問いに対し、アグニはロイの髪に触れながら顔を伏せてから答えた。
「ここ数日、ロイは睡眠時間をあえて減らす行動が多かったから」
「さすがは氷炎の錬金術師殿。その『目』を少女時代からしているだけはあるな」
とヒューズに言われたアグニは、先程までの態度が嘘の様な真っ直ぐな視線を返した。
「……私が自ら選んだ結果だから否定も肯定もしない」
「いや、オレも『目』は変わってしまったからな。おまえにどうこう言える立場じゃない」
「……ロイも変わってしまったのかしら」
と、独り言のように呟いたアグニに対し、ヒューズも素直な思いを吐露した。
「……なぁ、オレも変わってしまったって、おまえも思うか?」
「……グレイシアさんにそう思われないかが心配?」
「オレはグレイシアを幸せにしてやりたい。いや、幸せになって欲しいんだ、オレの側で」
そうヒューズは呟くように、だが、強い意志と決意を含めた想いを言葉にした。
それを聞いたアグニはあえて言葉を口にする事なく、ヒューズの言葉を聞いていた。
そして、そんなアグニに対してヒューズも答えを求めずに言葉を続けた。
「だが、オレが変わってしまったら……」
「……私はマースなら大丈夫だと思う」
と、短くも断言されたヒューズは、アグニに対して続きの言葉を無言で求めた。
この戦場で知った極上の幸せを実現する為に、生き抜いた先にある未来を得る為に。
「確かに私達は人殺しよ。それに、私の手はロイやマースよりも血に塗れている。でも、その過去があるから私はロイを護る『権利』を得られた」
そうアグニが、自らの血塗られた過去と決意を、真っ直ぐで清い視線と共に言葉にした。
その言葉と相反する視線に対し、ヒューズはただ苦笑いながら問い返した。
「……おまえは本当にロイ至上主義だな。なんでロイの嫁さんになろうと思わない?」
「私はロイを護りたいだけ。私に『生』を与えてくれたロイを。ただそれだけ」
「オレには納得は出来ない思いだが、理解はできそうだな。オレもグレイシアを守れるなら、幸せにする事が出来るなら、同じ気持ちになれるかもしれん」
と言うヒューズも、先程までの迷いを感じさせない強い決意を言葉にした。
それを聞いたアグニは、戦場には似合わない、母性とあたたかさに満ちた笑みで答えた。
「……だから、マースなら大丈夫」
「……ありがとな。おまえさんにそう言われると、少しだが自信が持てた」
「ふふふ。マースが親馬鹿になった時には、ぜひ自慢を聞かせてね?」
「まずは恋人自慢からどうだ?」
と、戦場とは思えないくらい穏やかなヒューズとアグニの会話を冷たい声が遮った。
「……私に一服を盛ったのはこんな話をする為なのか、氷炎の?」
そう眠りから覚めたロイに問い掛けられたアグニは、あえて言葉を返さなかった。
そして、周囲の空気が凍るのを止めるように、ヒューズは軽い口調でロイに問い掛けた。
「お、アグニの膝枕は心地よかったか、ロイ?」
と、ヒューズに問われたロイはあえて聞き流し、アグニに対して答えを強要した。
「ただの睡眠薬とはいえ、副作用による悪影響がまったく無いというつもりか?」
「私に謝らせたいなら、睡眠時間を削る真似はやめてくれる?」
「おまえは私の主治医か、氷炎の?」
「あら、ロイ公認の『母親』でしょ、私は」
そうアグニに答えられたロイは、一瞬だけ返す言葉を失った。
いや、ヒューズやアグニと共に過ごした士官学校時代の思い出を懐かしんでしまった。
しかし、今は戦場に居る事をすぐに自覚したロイは、冷たい口調でアグニに応えた。
「……そんな冗談を本気にする奴が何処に居るんだ」
「ロイ、こいつにその手の冗談は通じないぞ」
とヒューズにも突っ込まれたロイは再び言葉に詰まった。
ロイもヒューズ並にアグニの事を知っていたが故に、自身の失言に気付いた。
だから、ロイは短くも『正しい答え』を言葉にした。
「……ここ数日、人使いの荒い上官が多かっただけだ」
「じゃあ、今日はゆっくりと眠ってくれる?」
「……それを確認するおまえは、どうやって監視と睡眠を両立するつもりだ?」
「ロイの気配には寝ていても反応は出来るわよ?」
そうアグニが応えた後、ロイは冷たい視線だけを返し、言葉では応えなかった。
そんなロイに対し、アグニも言葉を返さず、ただ真っ直ぐな視線だけを向けた。
その為、ロイに与えられたテント内は、夜である以上の冷たい空気に満ちていった。
しかし、そんな雰囲気を破るかのように、ヒューズは中心人物の名を口にした。
「……ロイ」
「何だ、ヒューズ?」
「なあ、おまえ達ってお互いを異性として好きなんじゃねぇか?」
「……は?」
「……マース。私はロイの母親にはなりたいけど、それ以外は嫌よ」
「何だよ、アグニはロイを護る為だけに軍人になったんだろ? そんな事、恋の告白以外じゃあり得ないし、ロイだってアグニは特別な女なんだろ?」
「俺はそこまでの節操無しではない!」
「そうね……ロイの女になるくらいなら『死』を選ぶわよ、真っ先に」
「……それはそれで、かなり傷つくのだが?」
「これからも特定の女性と付き合う気がない人のセリフとは思えないわよ?」
「……あーオレが悪かったから、痴話喧嘩はやめてくれ」
「「痴話喧嘩なんてしていない!」」
「そうだな……俺達は親友で戦友だからな」
「その言葉には全面賛成よ、マース」
「……含む意味には同意しかねるが、賛成はしよう」
以前更新した氷炎の錬金術師がメインだった小説の改訂版です。
あえて今回はしめに改訂版を再UPとしました。
このお題を使用すると決めた時は全て書きおろしと思っていましたが、
この小説は改訂版としてでもサイトに残しておきたかったのです。
また、氷炎の錬金術師(オリキャラ)がメインの紹介小説の連続更新は完了となります。
完了までお付き合い頂き、有り難うございました。
次の更新はロイとエドの双子の妹(オリキャラ)の恋愛事情を
原作後の捏造設定で紹介をしてく小説も連続更新をしていく予定です。
その後は氷炎の錬金術師がメインでエドの双子の妹も登場する
原作沿い小説を連続で更新していく予定です。
なので、まだしばらく続く鋼の連続更新にもお付き合い頂ければ幸いです。
使用お題「親友お題1」お題配布サイト「疾風迅雷」