カトルを引き連れたドロシーが開口一番でリリーナに問い掛けた。
「リリーナ様、その馬鹿を少しだけ貸して頂けますか?」
「……」
リリーナとは違う意味で、唐突なドロシーの事も知るヒイロは表情を変えなかった。
そして、そんな突飛な言動に親近感があるリリーナは笑顔で応えた。
「私は構いません。スピーチまでの自由時間は余裕がありますから」
「ねえ、ヒイロ。少しでいいから、リリーナさんの警護はボクにまかせてくれないかな?」
と、ドロシーに連れたカトルが口を挿んだ。
なので、ようやくヒイロが確認という名の了承を口にした。
「……レディ・アンの許可は取ってあるのか?」
「うん、ボクの端末でね。ただ、盛大な苦笑い付きだったよ」
それを聞いたヒイロは再び口を閉ざして、抵抗しようとしなかった。
すると、ドロシーは高慢な笑みを浮かべながら、ヒイロと人気のない場所に移動した。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます、リリーナ様」
と言われたリリーナは、ドロシーを笑顔で見送った。
そんなリリーナに対して、カトルが意味深な表情で問い掛ける。
「……ヒイロに告白をしたのですか?」
「え?」
「先に気付いたのはドロシーです。彼女のリリーナさんへの想いは凄いですからね」
そう、情況を楽しんでいるような口調のカトルに対し、リリーナも軽い口調で応えた。
「……それでは、私はカトル君の嫉妬を身に受けないといけないのかしら?」
「そこまで狭量な男ではありませんよ、ボクは。でも、ヒイロほど割り切れませんが」
と答えたカトルは、急に表情を暗くした。
その理由がわかならいリリーナは無言で続きを求めた。
「ボクも資格があるかどうかわからないんです」
ヒイロと同じ『応え』を持っていると知ったリリーナは、カトルへ率直に問いかけた。
「……ヒイロを想うことも、愛して欲しいと思うことも、重荷なのでしょうか?」
「……ボクには、ウィナー家の当主として、妻と後継者が必要です。それでも時々、躊躇います。でも、そんなボクの背中をドロシーは蹴り飛ばすんです」
そう告げられたリリーナは本気で言葉を失った。
ドロシーならば、という思いと、それを甘受するカトルの情況を苦慮して。
だが、そんなリリーナの心境を読み切れなかったカトルは、慌てて言葉を付け加えた。
「あ、女性からそういう扱いをされて悦ぶ趣味は無いですよ?」
「いえ、余りにもドロシーらしくて……」
「そうですね。でも、ヒイロには逆効果かもしれませんけど」
と、カトルが急に意味深な笑みを浮かべながら、リリーナに問いかけた。
その真意が読み切れなかったリリーナは、疑念を問い返す事しか出来なかった。
「え?」
「ヒイロが必要としているのはリリーナさんですから。それはボクでもわかる事です」
「カトル君……」
「そして、ヒイロは『生きて』います。だから、リリーナさんが諦めなければきっと……」
そうカトルに告げられたリリーナは、その意図と思いへ素直な感謝を口にした。
「……有り難う、カトル君」
「いいえ。ボクもヒイロに救われ、ヒイロの幸せを願う一人ですから」
「私もそうですわ」
とリリーナは、ドロシーに対する親近感とは違う、共感をカトルに抱いた。
それはカトルも同じ思いだったから、軽い口調でリリーナに提案をした。
「では、お互い、共同戦線としますか?」
「ええ、是非」
切ない恋愛お題(1)お題配布元:疾風迅雷