ロイとアグニが名で呼び合い、ヒューズと三人でいる事が定着した頃。
いつものように授業が終わり、放課後になるとヒューズが惚気話をはじめた。
それ故に、察しの良い面々はヒューズから離れ、ロイはそれを阻止しようとした。
だが、隣にいるアグニが珍しい笑顔だった為、ロイは不審者を見る様に問い掛けた。
「アグニ、この口は閉ざそうとは思わないのか?」
「あら、私はマースの自慢話、好きよ?」
そうアグニは不審な瞳を向けるロイに対し、ニッコリという文字が見える笑みで答えた。
それを見たロイはあからさまに驚き、アグニの正気さを確かめようとした。
しかし、それを阻止する様に、ヒューズはアグニを抱き締める勢いで喜んだ。
「そう言ってくれるのは、おまえだけだよ、アグニ!」
「アグニが異常なんだ。おまえの自慢話はしつこい上に長い!」
「その自慢話が奥さんからお子さんにもなる事を私は楽しみにしているんだけど?」
とアグニがロイに問い返すと、ロイはアグニの正気を疑う様に大げさに驚いた。
そして、これ以上の被害を食い止める為に、ヒューズの惚気への嫌悪をあらわにした。
「冗談はよせ! これ以上延々と聞かされる俺の負担も考えろ!!」
「なんだなんだ、ロイは恋人がいないからってオレに嫉妬して……」
そうヒューズは、ロイの嫌悪を自分の都合の良い様に理解しようとした。
しかし、それを察したロイは、ヒューズの思惑を真っ向から否定した。
「ふざけるな! 俺にだって……!」
とロイはヒューズの思惑を否定しようとしたが、アグニの冷たい視線に気付いた。
いや、殺気以上の怖さを感じさせた為に、ロイは続きを口にするのを躊躇った。
そして、その様な冷たい視線をロイに向けたアグニは、ただ冷静に続きを求めた。
「俺にだって……の先は教えてくれないの?」
「……いや、間違っても俺は女性を誑かしている訳じゃないぞ?」
「でも、マースの様に未来を考えた交際じゃないでしょ?」
そうアグニから突っ込まれたロイは返す言葉がなかった。
そして、その様な二人の会話を聞いたヒューズは、ロイへ忠告する様な提案を口にした。
「……ロイ、アグニと付き合った方が健全じゃねぇか?」
「冗談はやめてよマース! ロイの家族にはなりたいけど、奥さんなんていやよ!!」
「……本気でロイの母親になりたいなんて言う気か、アグニ?」
「それは本気よ、マース」
とヒューズに答えるアグニは真剣で、それ故に事情を知らないロイは問いを口にした。
「……その理由が俺は知りたいんだが?」
「ロイの恋人や女になりたくないだけで……深い意味は無いわ」
そうロイに答えるアグニの表情は頑なだった為、事情を知るヒューズは横槍を入れた。
「ロイー。やっぱり付き合う女は一人だけにしておくべきだぞー」
「俺だって本気ならばそうなるに決まって……」
「じゃあ、今、付き合っている子達は本気じゃないのね?」
そうアグニは、再びロイの言葉の続きを制し、意図を問う様に問い返した。
その上、アグニが整った美貌で微笑んだ為、ロイとヒューズは絶対零度を体感した。
それ程に、アグニの笑みは死の恐怖に満ちていた為、ロイとヒューズはそろって逃げた。
だが、あえて逃げ道をつくっていたアグニは、二人の後を冷静に追い詰めた。
その光景を見た者は君子の様に危うきに近づこうとせず、ただアグニへの評価を変えた。
氷炎の紹介小説では初の続きがあるSSとなっています。
まあ、今回のSSも続きのSSも単独でも読めると思われる仕様ですが。
というか……氷炎の性格が少し危険かな?と思われるのですが、これもアリ、でしょうか?
使用お題「親友お題1」お題配布サイト「疾風迅雷」