嵐の前の……

ACー197 January

 

前年末、マリーメイアによる蜂起で戦乱の世へと移ろうとした流れを、ガンダムのパイロット達は阻止しようと足掻いた。

そして、その足掻きは民衆の『平和』への意識を高め、蜂起は革命には至らなかった。

だが、蜂起が終わった時、ガンダムのパイロットでもあったヒイロ・ユイは意識を失った。

そして、倒れようとするヒイロを寸前で受け止めたリリーナはその身の保護も申し出た。

また、リリーナ自身も休息が必要な体調であった事を理由に休職し、ヒイロが目覚めるまで付き添った。

そして、ウイングガンダム0を廃棄した連絡をリリーナが受けた時、ヒイロは目覚めた。

「……リリーナ?」

「はい。それに、安心してください、ヒイロ」

そうリリーナは、まだ回復しきっていないヒイロに対し、的確かつ短い言葉で応えた。

その言葉を即座に理解したヒイロは、リリーナが語りきっていない疑問点を短くも指摘した。

「……安心とは、どういう意味だ?」

「あなたの任務は終わり、あなたのガンダムの廃棄も済みました。だから、あなたに必要な事は、傷ついた心身を休める事です」

とリリーナに言われたヒイロは、起こそうとしていた身を再びベッドに戻した。

そして、そのようなヒイロの意志表示を見守っていたリリーナは、満面の笑みを添えながら言葉を続けた。

「私にもあなたの手伝いをさせてください。看病やリハビリには慣れていませんが、私は無職になる予定なので、時間はたっぷりとありますから」

「……外務次官を辞めてまで為すべき事あると言う事か?」

「はい。ヒイロを看病したかったのです」

そうリリーナは、冗談か、本気かがわからない言葉を、満面の笑顔と共に告げた。

すると、ヒイロは無言のまま、いや、彼らしい否定も肯定もない無言の眼差しを向けた。

そのようなヒイロとリリーナの対話は、第三者には完全に理解しきれないだろう。

しかし、そのような対話だけで、ヒイロとリリーナの会話は成立していた。

実際、ヒイロの眼差しに含まれた意味を理解したリリーナは、ただ苦笑いと共に応えた。

「……半分くらいは冗談です。やっぱり、ヒイロは騙せませんね。パーガンは喜んでくれたのですが」

と、リリーナが答えたのを聞いたヒイロは、再び短くも的確な要求を言葉にした。

「……そうか。では状況を教えてくれ」

「はい、わかっています。でも、私からの説明だけでは足りないと思いますから、プリペンダーやカトル君にも、ヒイロが目覚めた時の為の準備を整えてもらいました」

「その設備が整っている場所はどこだ?」

そうリリーナに問い続けたヒイロは、今にも部屋から出そうだった。

しかし、そのようなヒイロに対し、リリーナは短くも否定を許さない強さで答えた。

「それはお医者様の許可が下りてからです」

「……」

「私は安心してください、とも、あなたの任務が終わった、とも言ったでしょう?」

というリリーナの強い説得、いや、体調への配慮を受け入れたヒイロは譲歩を口にした。

「……医者の許可はいつ下りる?」

「今から手配をしますから、問題がなければ明日にでも部屋の案内をします」

「……了解した」

「ありがとう、ヒイロ」

そうヒイロに答えたリリーナは、室内に用意した通信機で、パーガンに手配を頼んだ。

それを見ていたヒイロは、側で読書を始めたリリーナの言動に疑念を感じて問い掛けた。

「……今日もおまえはどうする気だ?」

「今日もヒイロの側にいます」

「……なすべき事はどうする気だ?」

「今日の予定も読書でしたから、大丈夫です」

とリリーナに答えられたヒイロは、再び無言の視線を向けた。

無表情なヒイロの無言の視線に対し、リリーナは一般的な怯えではなく、ただ苦笑いを返した。

「そんなに怒らないで、ヒイロ。ただ、ヒイロに意地悪をしたかっただけです」

「……」

「私、次期大統領選挙に立候補するつもりなのです」

そうリリーナに告げられたヒイロは、再び短くも深い意味を伴う問いを返した。

「……リリーナ・ドーリアンとして、か?」

「……私は、ドーリアン姓からピースクラフト姓に、戻る気は有りませんが?」

と答えたリリーナは、ヒイロの意図を完全に理解出来なかった。

いや、リリーナであっても、ヒイロの深意の全てを理解は出来なかった。

だが、リリーナの直観はヒイロの言葉を肯定的に受け入れた。

それを理解したヒイロは、短くもリリーナの意志を確認するように問い返した。

「ならば、その本を読んでいるのは意図的か?」

「ええ。まずは基本から政治と経済を学ぼうと思ったので」

「……この屋敷に図書室か、政治と経済の蔵書がある部屋はどこだ?」

そうヒイロに問い返されたリリーナは、その問いが含む意味を理解したが故に驚いた。

「……ヒイロが教えてくれるの?」

「基本から学ぶならば違う本が良いと思っただけだ」

「ありがとう、ヒイロ。では、お言葉に甘えて案内します」

とリリーナに応えられたヒイロは、ベッドから身を起こすと無言で案内を求めた。

それ故に、リリーナも無言でヒイロを支えるように横に立つと、図書室へと向かった。