ヒイロの心とリリーナの思い

ロームフェラ財団本部。

統一された地球の世界国家元首が存在する場所。

今ここで、戦力を必要としない戦いが起こる。

起こすは世界国家元首、クイーン・リリーナことリリーナ・ピースクラフト。

リリーナは地球が統一された今こそ、OZの解体をすべきと公言しようとしていた。

しかし、この公言には死のリスクが存在する。

それでも完全平和主義を掲げる平和の象徴、リリーナ・ピースクラフトはそのリスクに屈する事は無かった。

リリーナは自己犠牲的なまでの一途さを持って平和を実現させようとしていたから。

だが、今のリリーナの瞳にいつもの強さは無かった。

籠の中の鳥は輝く事が出来ないのだろうか……

しかし、部屋のドアをノックされた時、リリーナの瞳に強さが戻った。

「リリーナ様、お時間ですわ」

そうドロシーに言われたリリーナはすぐに返事をした。

「わかりました」

そう答えたリリーナは心の中で一人の少年の名を呟いた。

己の心を強く持つ為に。

『ヒイロ』

と。

 

 

 

 

 

ヒイロの心とリリーナの思い

 

 

 

 

 

「リリーナ?!」

と言ったヒイロは、無表情のまま立ち止まったが、すぐに自分が感じた感覚を否定した。

「……潜入中に何を考えているんだオレは。リリーナはもう議場に向かっているはず。俺の側に居る訳がない」

今、ヒイロはブレーメンにあるロームフェラ財団本部に潜入していた。

なぜならば、偽りの平和を生み出す傀儡のクイーン・リリーナを暗殺する為に。

いや、籠の中で飼い殺されそうになっている小鳥を助ける為かもしれない。

「……ならないのです」

ヒイロの耳に少女の声が聞こえてきた。

そう、暗殺すべき存在、クイーン・リリーナの声が。

ヒイロはリリーナを見下ろすことが出来る場所から拳銃で暗殺しようとした。

だが、ヒイロは拳銃の引き金を引けなかった。

なぜならば、クイーン・リリーナはただの傀儡ではなかったから。

リリーナは自分の意志を貫くためにクイーンの道を選んだから。

多くの人々に完全平和主義を理解してもらうためにクイーンとなり、また、平和を実現する為にOZを解体しようとしていた。

そして、地球の統一だけでなく、地球とコロニーの共存までも考えていたのだ。

しかし、ヒイロはリリーナの考えを否定した。

「思いを統一することなど出来はしない。誰もがそう考えることなど出来ない。そんな考えはただの理想だ」

だが、ヒイロはやはりう引き金を引く事ができずにいた。

まるでリリーナをウイングガンダムで守ってしまった時の様に。

そんなヒイロの迷いも知らずに、リリーナは演説を続けていた。

そしてその演説が終わった時、誰もが沈黙していた。何も起こらなかった。

『リリーナでもロームフェラ財団を変えることはできない』

そう思ったヒイロはリリーナを殺そうとした。

演説が終わった直後、リリーナはヒイロの姿を見つけ、自分を殺しても構わないと言う様に瞳を閉じたから。

だからヒイロも瞳を閉じて拳銃の引き金を引こうとした。

その時、大きな拍手が起こった。

ロームフェラ財団の人々がクイーン・リリーナの演説に賛同した為に。

それを見たヒイロはすぐにその場から立ち去った。

大きな拍手がしんじられなかったリリーナは少し驚いてからヒイロへと視線を戻したが見つけられなかった。

なのでリリーナはヒイロの姿を探そうとしたが、集まってきた賛同者たちに阻まれた。

それにより、リリーナは現実に引き戻された。

『私は世界国家元首クイーン・リリーナ。今、クイーン・リリーナは賛同者を得たのだから』

と思い、感情を抑えたリリーナは笑顔で賛同者に対応した。

『これが私の選んだ道です。ヒイロ、私は私なりに頑張ります』

と、心の中で姿を消したヒイロに対して呟いた。

 

しかし、時代は逆流する様に大きな戦争へと歩み始めようとしていた。

一部のコロニー市民が武装し、ホワイトファングと名乗り、指導者としてミリアルド・ピースクラフトを向かえたのだ。

そして、そのミリアルド・ピースクラフトは地球の排除を宣言した。

また、時代は急速に変化しようとしていた。

そのような中、リリーナは真夜中だというのにベッドに入ろうともせず、ただ一人で机に向かっていた。

その時、カタンという音がしたのでリリーナが窓の方を見ると、窓際にはヒイロがいた。

「ヒイロ?」

「……」

と、問い掛けられても答えないヒイロに対して、リリーナは微笑みながら応えた。

「ヒイロ、あなたには夜這いの趣味があったの?」

「長居するつもりはない」

「そうなのでは何の用があるの、ヒイロ?」

愛想も表情も無いヒイロに対して、リリーナは満面の笑みを返していた。

そして、リリーナの口調は事務的なものだったが、瞳は明らかに違った。

そう、今のリリーナの瞳は恋するものを見つめる瞳。

そこにはクイーンもピースクラフトも存在していない。

ただの15歳の恋する少女の瞳だった。

そんなリリーナの瞳を見ても、乙女心を理解していないヒイロの態度は変わらなかった。

「オレはゼクスを殺す」

「お兄様を殺す……お兄様は平和を愛するピースクラフト王家の者。必ず私が説得します」

「あいつはエピオンから今を選んだ。あいつは敵だ」

きっぱりと言い切るヒイロの言葉を否定する様に、リリーナも強く言い切った。

「確かに先程のお兄様はそうかもしれません。ですが、お兄様から平和を求める心がなくなるわけが無いわ。だから私が説得すればきっと……」

「無理だな」

「いいえ、私が説得して見せます」

そう言い切られたヒイロは、話を切り上げるようにリリーナへ告げた。

「オレはゼクスを殺す。そして、地球はおまえに任せる」

「そう……」

と言ったリリーナの瞳から一筋の涙が流れた。

その涙をぬぐいながらヒイロはリリーナに言った。

「無理をしすぎるな。おまえは世界国家厳守クイーン・リリーナだが、まだ15歳の少女である事を忘れるな。前にも言ったはずだ、我慢も程々にしろと。今のおまえにはなすべき事があり、変わりは存在しないのだから」

「ごめんなさい、ヒイロ。あなたの顔を見ているとつい」

と言ったリリーナは少しばかり笑みを浮かべた。

そして、すぐに一途な瞳でヒイロを見つめながら言った。

「戦うのね、ヒイロ。あなたは敵を見つけたから。でもヒイロ、どんな事があっても貴方に生きていて欲しいと願う人間がいる事を忘れないで」

そう言われたヒイロは、リリーナの強い思いに心動かされそうになって自嘲した。

「リリーナ・ピースクラフト、『次世代に必要な人間』……か。確かにそうかもしれないな。オレは自分の任務を遂行する」

そう言ったヒイロが立ち去ろうとしたので、リリーナは慌てて引き止める様に腕を掴んだ。

「もう行ってしまうの?」

そう言われたヒイロは少しだけ表情を和らげた。

はじめて見た表情に驚いたリリーナは掴んでいたヒイロの腕から力が抜けた。

その隙をついたヒイロはすぐに窓から去って行った。

「ヒイロ!」

とリリーナは叫んだが、ヒイロは振り返らなかった。

だが、自分を照らす月の姿を見た時、ヒイロは足を止めて呟いた。

「リリーナの様だな」

そして、何がおかしいのかヒイロは1人でクスリと笑った。