サンクキングダムの休日

戦争は地球圏内に広がっていた……

自由を勝ち取ろうと軍人は戦い、利益を得ようと軍事産業者は煽っていた。

しかし、戦いに疲れ果てた人々、戦いに限界を感じ始めた国々は、北欧にある国に希望を寄せた。

その国は弱冠15歳の王女が元首を務める小国。

名をサンクキングダムと言い、王女の名をリリーナ・ピースクラフトと言う。

先王の唱えた完全平和主義を継承し、この戦乱の世の中で実現させようとしているのである。

平和主義を唱える国々の先頭に立ち、平和の象徴として存在しながら。

この国の復興によって、世界は急速に変化しようとしていた。

それはロームフェラ財団も例外ではなかった。

戦争を美しいものと考えていた貴族たちにも。

しかし平和の象徴、リリーナ・ピースクラフトは限界を感じ始めていた。

己の無力さを痛感させられるたびに。

だが、立ち止まらなかった。

『あきらめない強さ』が、今のリリーナを動かしていた。

 

 

 

 

 

サンクキングダムの休日

 

 

 

 

 

サンクキングダム王立学園――完全平和主義を掲げる北欧の小国にある学園。

そしてその学園の理事長はサンクキングダムの元首の王女が務めている。

そのプリンセス・リリーナはあるドアの前で立ち止まっていた。

これから10分後にノインと打ち合わせがある為、理事長室へ向かわなければならないのに。

しかし、リリーナの足は止まってしまった。

そこには情報を処理する為のパソコンだけが置かれている部屋だった。

そして、そこには特別なカードを持った人間しか入れなかった。

また、そこには『彼』がよく出入りをしていた。

無意識の内にリリーナは『彼』に逢いたいと思った。

その思いに理由は無かったが、ただ逢いたい……そうリリーナは思った。

そしてその思いがリリーナにその部屋のドアを開けさせた。

中にはリリーナが逢いたいと思っていた『彼』が居た。

『彼』は座ったまま動こうとしなかったが、無意識の内にすぐに動けるようにしていた。

そんな『彼』に対してリリーナは声を掛けた。

「ヒイロ、少しばかりここに居てもいいかしら?」

「ここはおまえの国だと言ったはずだ」

「……そうね」

そう言ったリリーナは手近にあった椅子に座った。

そして、ヒイロは作業を続けたまま、リリーナを見ようともしなかった。

そんなヒイロの態度に慣れているリリーナは独り言のように口にした。

「ねえ、ヒイロ。完全平和主義とは何かしら。無力なものの世迷言ではないでしょうか……ただの夢や幻ではないでしょうか……」

と言ったリリーナの声に込められた悲痛な想いが感じさせられた。

しかしヒイロは、作業を続けたままリリーナに言った。

「おまえには力がある」

「私に力などありません。誰一人助けることが出来ません」

意気消沈としているリリーナは静かにヒイロの言葉を否定した。

だがヒイロは相変わらず感情を感じさせない声で告げた。

「おまえはゼクスの意志を貫かせた」

「私は何もしていません……いえ、私はお兄様を見殺しにしてしまった。守られてばかりの私に、自分の身も守れぬものに何の力があるというの……」

今にも涙を流しそうなリリーナが声を詰まらせた時、はじめてヒイロが振り返った。

ヒイロの視線の先には、今にも泣き声を必死で抑えながらも涙を止められぬ少女が、頼りなげに肩を震わせて頭を下げていた。

そこにリリーナ・ピースクラフトは存在していなかった。

ただの15歳の少女が居た。

そんなリリーナを見た時、ヒイロは無意識の内に動いた。

以前、リリーナを無意識に守ってしまった時の様に。

そしてヒイロは、リリーナを強く抱きしめた。

そんなヒイロに対して、リリーナは驚きよりも安らぎを強く感じた。

すると、リリーナの涙も痛みも止まりはじめた。

「リリーナ、自分がまだ少女である事を忘れるな。オーバーヒート寸前の機械の様だ、今もおまえは」

「でも、私はサンクキングダムの元首、リリーナ・ピースクラフトです」

「だったら自分を信じろ。おまえが完全平和主義なんてものを実現させようとするなら」

そうヒイロに言われたリリーナは涙の乾いた瞳を見開いた。

しかし、すぐにリリーナは微笑みを返した。

「そうね……有り難う、ヒイロ」

とリリーナが言った時、カトルがこの部屋に入ってきた。

「ヒイロ、ここに居るかい?」

そう言ったカトルは、ヒイロとリリーナが抱き合っている姿を見せられて慌てた。

そして、すぐに部屋から出て扉越しに言葉を口にした。

「あの、ノインさんがリリーナさんを探していました。理事長室でお話があるとか」

そんなカトルの様子が不思議そうに見ていたヒイロとリリーナは自然に離れた。

ヒイロとリリーナは自分達の姿が誤解を受ける様な状態である事に気付いていなかったから。

「わかりました、すぐに行きます。有り難うカトル君」

そう言ったリリーナは椅子から立ち上がり、部屋の出口へ向かった。

一方、ヒイロは自分の無意識な行動に納得が出来ずにいた。

まだ、ヒイロは兵士と人との間で揺れていたから。

そう、兵士とだけでは存在できずにいる事態に困惑していた。

……流転する時代は人々の心さえも変革させてゆく。

しかしその変革こそ、ヒイロが生きていく為の道標。

だが、ヒイロは流転する時代に翻弄され、今はまだ道を見つける事が出来ずにいた。

A.C.195年、流転する時代は次世代への鍵を見出しつつあった。