A dispute

ヒイロがパソコンで情報を集めていた時、不可思議な人の気配を感じた。

すぐにヒイロは隠していた拳銃を構えてその人物を待ち構えた。

だがその人物が近づいて来た時、懐かしい人物である事に気付き、ヒイロは構えを解いた。

そして、その人物は拳銃の事を気にもとめず、少しうつろな瞳で微笑んでいた。

「突然お邪魔してごめんなさい」

という、相変わらずの態度に対して、ヒイロは素っ気無くも端的に尋ねた。

「何の用だ、リリーナ」

「これをヒイロに」

そう言ってリリーナは小さな紙袋を差し出した。

それを見たヒイロは今日がバレンタインである事に気がついた。

しかし、ヒイロは表情を変える事無く断わった。

「必要ない」

「そうね。でも、私なりに貴方へお返しがしたいの。せっかくのバレンタインですもの」

と言われたヒイロは小さな紙袋を無言で見つめた。

それから数分後、根負けした様にヒイロはリリーナから小さな紙袋を受け取った。

「これだけなら……」

そう言ったヒイロに対して、リリーナはクスリと笑ってからヒイロに近づいた。

その態度に驚いたヒイロは更に眼を見張った。

リリーナが纏っていたワンピースをストンと脱ぎ捨てて全裸になったから。

そして、全裸のリリーナはヒイロに抱きついてから耳元で囁いた。

「チョコだけではないわ」

と囁いたリリーナは、驚きで硬直しているヒイロの唇に自分の唇を重ねた。

直後、ヒイロの部屋に大きなドアの開閉音と叫びが響き渡った。

「リリーナ無事か!」

そう叫んだミリアルドは、ヒイロと全裸のリリーナがキスしているのを見て石化した。

と同時に、リリーナの瞳がいつもの生気を取り戻した。

そして少し後れて、ノインがヒイロの部屋の中に入った。

「ゼクス、リリーナ様は大丈夫ですか?」

そう言った直後、ノインもヒイロとリリーナの姿に驚き体を硬直させた。

一方、当事者である生気を取り戻したリリーナは、自分の行為と姿を確認する事しか出来なかった。

また、ヒイロは見開いていた目を元に戻し、ただ驚いているリリーナを見ていた。

 

 

 

驚いていたリリーナに自分が着てきたコートを着せてヒイロの部屋から連れ去った。

ヒイロは何か考えがあるのかそれを黙認し、ノインはミリアルドに従った。

ヒイロの部屋の近くに止めてあった車に乗り込んだミリアルドは荒れている感情に任せて運転をしていた。

「ゼクス……」

そうノインに忠告とも言える言葉をかけられたミリアルドは少し冷静に答えた。

「わかっている! 今のリリーナを人には見せられんからな」

2人が現れたタイミングから、何かを知っているのだろうと思ったリリーナは比較的冷静な隣に座っているノインに問い掛けた。

「一体、どうなっているのですか?」

「あいつらに決まっている!」

運転しながらも会話に割り込んできたミリアルドに対して、リリーナは冷静に否定した。

「ですが、私は彼らに会っていません」

「しかし、彼ら以外に誰が……」

「本当です。私、ドロシー以外に会っていません」

そうリリーナが言った時、事情を完全には把握したミリアルドとノインは溜息を吐いた。

「今朝、ドロシーの別荘に行ってから……記憶がありませんわ」

決定打となる話を聞いたノインはミリアルドへ確認するように言った。

「今回はドロシー嬢が加われたようですね」

「だが、何故リリーナに。今まではヒイロばかりのはず」

2人の会話から今回の事情に気がついたリリーナは確認するように問い掛けた。

「もしかしてドロシーが?」

「もしかして、ではありません」

そうノインがリリーナに言った時、3人は遅いスピードですれ違う車の中に、特徴的な眉毛の少女を見つけて驚いた。

「ドロシー(嬢)!」

 

 

 

すれ違った車の一方、ドロシーが乗る車にはデュオとトロワとカトルと五飛が居た。

「すれ違った車にお嬢さんがいなかったか?」

そうデュオが言ったが、助手席に座る五飛の反応は冷静だった。

「そうだな」

「なんか反応少なくねぇか? お嬢さん、凄い格好してたぜ?」

とデュオが言い続けると、隣に据わっていたカトルとその隣に居るドロシーが日常会話の様な穏やかな声で答えた。

「そう、失敗ね」

「でもそうで無ければリリーナさんに……」

そう言われたデュオは言葉を失った。

そして、そんなデュオへ追い討ちをかける様に運転をしているトロワが口を開いた。

「こいつを加えたんだ、当然だ」

「あーもーオレの認識が甘かった……ゲッ」

と、デュオは頭をかきむしりながら己の非を認めようとした時、車の到着地である屋敷の門にヒイロが居たのを見て驚いた。

カトルは一筋の汗をかいていたが、トロワと五飛は平然としていた。

そして、ドロシーはクスリと笑ってから、ヒイロへ挑む様に車から降りた。

「何故、貴方が怒るの?ヒイロ・ユイ」

そう言われたヒイロはただドロシーを見ていた。

そんな反応がわかっていたドロシーは更に言葉を続けた。

「貴方に甲斐性が無かったからよ?」

「何故リリーナに催眠術をかけた、ドロシー・カタロニア」

「どうせ、貴方なら既成事実さえ作れば責任を取るでしょう?」

とドロシーが言った時、再びヒイロは言葉ではなく強い視線を返した。

そこまで想定していたドロシーははじめて『切り札』をヒイロに告げた。

「確かに貴方は『守る』と言ったけど……ドーリアン外務次官に手を出した覚えはないわ」

そう言われたヒイロは目を見開いた。

わかっているドロシーは口元に笑みを浮かべながらヒイロに告げた。

「あの術は大きな音で消えるし、仕事にも影響が無いように迎えに行く予定だったわ」

「それで言い訳のつもりか?」

と、ヒイロはドロシーを殺そうと思っているかのような強い視線を言葉と共に返した。

だが、ヒイロの殺気を感じていないかの様に、ドロシーは口元の笑みを消さずに見つめ返した。

「貴方が介入する問題ではないと言っているのよ」

「言いたいことはそれだけか?」

「ええ。私はリリーナ様に謝るわ。でも貴方は別」

そう言ったドロシーははじめて真面目な表情で答えた。

だからヒイロも視線を強める事無く問い返した。

「何故だ?」

「貴方はドーリアン外務次官のボディ・ガードでしょう?」

と言われたヒイロは何も答えずに立ち去った。

それも想定内だったドロシーは再びクスリと笑った。

 

 

 

バレンタインデーから1ヶ月たったホワイトデーにデュオとトロワとカトルと五飛が教会へ訪れていた。

「おい、ここがヒイロの招待状に書かれていた教会か?」

と、グレーのスーツにリボンのネクタイをしたデュオは3人に問い掛けた。

それへ答える様に、ブラックスーツでネクタイを締めているトロワが口を開いた。

「そうだろう。しかし、ホワイトデーに結婚式とは」

「いいじゃありませんか。リリーナさんのでもあるし」

そう答えたカトルはタキシードに蝶ネクタイをしていた。

そんな3人に対して、白いチャイナ服を着た五飛が咎める様に振り返って言った。

「祝いの席で騒ぐな。ドアを開けるぞ」

4人の中で1番前に居た五飛がドアを開けた時、4人の想定外の光景が広がっていた。

「ありがとう、デュオ。私、絶対忘れないから」

そう言ったヒルデは花をメインにしたウェデングドレスとベールを身に着けていた。

「籍は団長に言ってからよ、トロワ!」

と言ったキャスリンはリボンをあしらったウェデングドレスを身に纏っていた。

「籍を勝手に入れる気? 五飛」

と、一番大人らしいレースをあしらったウェデングドレスを纏ったサリィが問い掛けた。

ヒイロとリリーナの結婚式に招待されたはずなのに……とショックを受けている3人と違い、相手が居なかった為か比較的冷静だったカトルが3人の女性に尋ねた。

「あの、どうして皆さんがここに?」

「「「これを送ってきたでしょう、ウェデングドレスと一緒に」」」

そう言った3人は男性が書く部分が全て埋められている婚姻届を差し出した。

そして、更に追い討ちをかけるかの様にドロシーが教会に現れて叫んだ。

「これは一体どういう意味なの、カトル・ラバーバ・ウィナー!」

「え?」

「ウェデングドレスや婚姻届なんて!」

そうドロシーが言った時、教会の柱に隠された片隅からヒイロが現れた。

再び3人が目を見開き、カトルがヒイロに問い掛けた。

「もしかして君が仕掛けたのかい?」

「仕掛けじゃない。俺なりの心遣いだ」

そうヒイロに答えられた4人は四者四様の驚きを返した。

それがわかっていたヒイロはただ言葉を続けた。

「俺には甲斐性がない。打からお前達の晴れの舞台をつくることで、お前達の親切に報いただけだ」

と言われた4人とドロシーは言葉に出来ない程に驚き、事態がわかっていない3人の女性は不思議そうにその光景を見ていた。

鮮やかにバレンタインの決着をつけたヒイロ。さて、彼らの決着は?

「もうしねぇよ!」