HEERO’S EMOTION 3

「な、なんだってぇ?! ヒイロを見失っただとぉ!?」

と言うデュオの大声が、トロワの携帯電話から聞こえていた。

それを予測していたトロワは少し遠ざけていた携帯を耳元に戻した。

「お前達と話している内に遠くへ行ったらしい。放心気味だからと油断していたのが不味かったようだ」

「イイワケして済む事じゃねぇだろ!いくらヒイロでもあれの支配を受けたら大惨事になるからこそ、お前が其処に居るんじゃあねぇか!!」

デュオは携帯電話を握り壊すかの勢い握りしめている。

そして、余りにも冷静なトロワの様子がデュオの怒りを煽っていた。

「お前達、無意味な争いに飽き足らないのか! 今は行動しろ」

「だからって無意味に行動しろって言うのかよ!」

と言ったデュオが怒りの矛先を五飛に向けようとした時、トロワが呟いた。

「もしかしたら……」

「もしかしたらって何だよ!」

「ヒイロはリリーナの自宅に潜入している可能性が否定できないと思うのだが?」

「確かにありえるな」

そう五飛はうなずいた。

そして、デュオもいつもの調子で提案をした。

「それじゃあお嬢さんの家へ直行しようぜ!」

「了解した」

「行ってみる価値はあるな」

 

 

 

さて、先程まで話題となっていたヒイロはトロワの予想通り、リリーナの自宅へ潜入しようとしていた。

その時、ゼクスとノインがヒイロの隠れていた庭の入り口に現れた事に気付いて身を隠した。

そして、木の陰に隠れているヒイロに二人は気付かなかった。

「何故にこうも私は甘いのだ……」

「ゼクス、自分を責めるのはやめて下さい。少しはヒイロを信用しましょう」

と言ったノインは、ズーンと沈んで暗くなっているゼクスを必死で慰めていた。

しかし、ゼクスは沈没したまま、浮上しそうにもなかった。

それでもとノインが口を開こうとした時、ゼクスの瞳に生気が戻り、一本の木下へ向かって走り出した。

不思議に思ったノインがゼクスに尋ねようとしたが出来なかった。

なぜならば、木の陰に隠れていたヒイロを見つけたゼクスが、殺さんばかりの気迫で叫んだからだった。

「ヒイロ、覚悟は出来ているのだろうな!」

「ゼクス……」

「言い訳など無用だ!」

と言ったゼクスはヒイロの襟首を掴んだ。

だがすぐにノインがゼクスを止めに入った。

「ゼクス、ここで騒いではリリーナ様にあらぬ噂が立てられてしまいます」

「確かに人気が無い庭でもノインの言うとおりだな。ついてこい、ヒイロ・ユイ!」

とゼクスは言ってから、掴んだ襟を放して玄関へ向かった。

そしてその後を、ヒイロとノインがついて行った。

怒りをこらえたまま玄関へ入ったゼクスは、すぐにパーガンに客室を空けてもらい、人払いを頼んだ。

それからゼクスはソファに腰を下ろしてから口を開いた。

が、ノインの方が先にヒイロに問いかけた。

「一体、君ほどの人間がどうしたと言うのだ。答えてはくれまいか?ヒイロ」

「ノイン、理由など無用だ!」

「あいつらにだまされた」

「「何?」」

と、ゼクスとノインは答えた。

驚いている二人とは対照的に淡々とした口調でヒイロは話を続けた。

「トロワにカトルの会社で作られた新薬を試して欲しいと言われてその薬を飲んだ」

「あれ、ヒイロ? どうしてここに君が居るんですか?」

と言ったカトルは、花束を持っていない方の手でドアを開けながら問いかけてきた。

そして、そのカトルを追いかけてきたパーガンが頭を下げながら言った。

「申し訳ございません。お止めはしたのですが……」

「いや、気にしないでくれ。ちょうど彼に聞きたい事があったのだよ」

と言いつつ、顔に貼り付けたような微笑んだゼクスは、カトルの肩をきつく掴んだ。

それからゼクスは余っていた椅子にカトルを押し込ませるように座らせた。

「あ、あの、何かあったのですか?」

と、カトルは余りにも険悪すぎる雰囲気に気圧されつつも口を開いた。

「カトル、ウィナー気では新薬が作られたようだな」

「ええ。心臓病に効く薬ですが、それが何か?」

「オレは二日酔いに効く薬だと聞いたが?」

そう言ったヒイロの言葉の真意を理解したカトルの表情は一気に青くなった。

だから、ヒイロの鋭い眼光に見据えられながらも真摯に謝った。

「ごめんなさい、ヒイロ。でもやっぱり奥手すぎると思って……君に良かれと思ったんだよ、だから僕は……」

そうカトルが言った直後、ヒイロが続けるかのように呟いた。

「媚薬を服用させた、か」

その言葉を聞いたノインは冷静さを失い、カトルに食って掛かった。

「そんな為だけに、リリーナ様をあんな目にあわせたのか?! 君達は女性の気持ちと言うものをきちんと考えているのか?! 大体……」

「ノイン、少し冷静になったらどうだ?」

「今怒らずに、いつ怒ると言うのですか、ゼクス!」

そう言うノインの表情は、先程までのゼクスよりも恐ろしかった。

そして、そんなノインを止められる人物は居なかった。

「第一、ヒイロに飲ませる薬だ。並みのものではないのだろう。死ぬ直前の老人でも効果があるのではないのか?」

「はい。確かに超ストイックな人間でも効果が切れるまで年齢、性別、宗旨を問わずに人に襲い掛かってしまうと言われている中国の秘薬です」

「何故、そんなに効果がある物を使う必要があるんだ」

静かな怒りを込めてヒイロは言ったが誰も聞いてくれなかった。

「そんなものを服用されていたのに……さすがだな、ヒイロ・ユイ」

「感心している場合ではありません、ゼクス! いくら理由があったとしても、リリーナ様を泣かせた原因は君たちにもあるのだから責任は取ってもらおう、カトル・ラバーバ・ウィナー!!」

「はい、それはわかっています。」

素直にノインの言葉をカトルは聞き入れた。

その様子にノインも少し落ち着きを取り戻した。

だがゼクスは、カトルからヒイロに視線を移してからこう言った。

「しかし、媚薬の所為とはいえ、ヒイロ、お前にも責任を取ってもらうぞ」

と言うゼクスに対し、あわててのインとカトルは反論した。

「そんな、ヒイロは無罪です。未遂だったのですから」

「ゼクス、薬物投与による行動に責任をとらせるのは酷と言うものでは?!」

「どんな責でも負う。リリーナが『別れ』を求めるなら受け入れる」

余りにも淡々としたヒイロの答えを聞いたノインは驚きの声を上げた。

「君はリリーナ様を愛しているのではないのか?!」

「オレはガンダムのパイロットだ。そんなオレがリリーナの傍に一生居られるわけがない」

「ヒイロ、それって本気なのかい?!」

「平和主義者にガンダムのパイロットは不似合いだと今さら言うきか、ヒイロ・ユイ!」

そう言いながら、ゼクスはヒイロを殴り飛ばした。

無防備だったのか、ヒイロは体を床にぶつけたが、すぐに無表情のまま立ち上がった。

そんなヒイロに対して、ゼクスは荒い息と共に叫んだ。

「リリーナがお前を必要としている事を知らないとでも言うのか!」

「リリーナを施政者、または平和主義者としか見ないものには、オレをガンダムのパイロット、人の姿をした兵器としか見ない」

「それは私も同じだ」

「だがゼクスはピースクラフト家の者。ガンダムのパイロットは戦争の象徴。その差は大きい」

とヒイロが言った時、突然ドアが開かれ一人の少女が入ってきた。

「あなたの意見は正しいわ。でも、その2つが融合して生み出されたものが今の平和の象徴ではないのですか? ピースクラフト家は戦乱の中での平和の象徴であり、ガンダムのパイロットもその中での戦争の象徴。そうではなくて、ヒイロ?」

 

 

 

1997年発行アンソロジーより