HEERO’S EMOTION 2

ひと騒動があった場所から少し離れている所にあった人影が人知れず動いた。

そして、近くの広場まで移動してから携帯電話を取り出した。

「こちらトロワ。カトル聞こえているか?」

「ええ、大丈夫ですトロワ。作戦の方はどうですか?」

「ああ、即効性ではなかったのか、実行に移るまで時間がかかったが、予想通りの反応になった。ゼクスとノインが出て来た為、未遂に終わったが予定調和だ」

どうやら、トロワとカトルが連絡を取り合っているようだが、何故そんな事をしているのだろう?

しかし、そんな疑問とは関係なく、話は続いている。

「では予定通りに……」

とトロワが言った時、カトルの後ろから携帯電話を奪ったデュオが口を挟んだ。

「ちょっと待った!」

「一体どうしたの、デュオ?」

と言いながら振り返るカトルに対してデュオは悪戯っぽい笑みを返した。

「あのシスコン(ゼクス)が出てきたなら、少し変えないか?」

「それはどういう意味だ?」

「つまり静観しないかってコトだよ」

「確かにそちらの方がいいな」

そう五飛がデュオの意見に同意した。

だがトロワは同意する事無く、二人の真意を探ろうとした。

「……面白がっていないか?」

「何言ってんの。俺は真面目に言ってるんだぜ、あいつの為にってさ」

とデュオは言ったが、面白がっているのはバレバレである。

そして五飛は、相変わらずの調子で答えた。

「何故はっきりしないのかを試したいだけだ。だが、忍耐力はさすがだな」

「忍耐力ってどういう意味なんだい?」

「あれは紛れも無く即効性の媚薬だ。だから会う直前に飲ませる必要があった」

「それじゃあ、あいつはあんなに過ぎ効果を理性で押さえつけていたのかよ……脱帽、さすがだぜ……」

そう言ったデュオは驚いた表情でため息をついた。

そして、三人の遣り取りを聞いていたトロワがふと口を開いた。

「確か、実行に移るまでに過剰なスキンシップがあった」

「では、代謝行為では抑えきれずに実行に移した、と言うわけですね」

と、真顔で言ったカトルに対して、デュオは突っ込みを入れた。

「おまえさぁ、そんなどーどーと言っているけど、意味わかってんのか?」

「えっ……い、一応知識としては……」

「カトルはそう言った経験が無いから言えるんだろう」

「そういうお前さんはそーゆー経験があるのか?」

「そう解釈も出来るな」

しれっと答えるトロワの言い様に、デュオは頭をかきむしった。

「あーもーわかったよ、わかりましたよ。とにかく静観しようぜ」

「了解した。ヒイロの様子が気になる。定位置に戻りたい」

「わかりました。では引き続きトロワはヒイロの様子を、リリーナさんは……自宅へ戻ったんですよね?」

「そうだ。ゼクスとノインが連れ帰った」

「ならば僕が様子を見てきます」

「了解した。通信を終了する」

と言ったトロワはすぐに先程の場所へと戻った。

そしてカトルもすぐにウィナー家所有のビルに作った作戦本部から、リリーナの自宅へ向かった。

 

 

 

一方、リリーナゼクス達と一緒に自宅へと戻っていた。

そして、リリーナの涙がおさまると、ゼクスは再び怒り出した。

「まったく、ヒイロは何を考えているんだ!」

「ゼクス、落ち着いてください」

「何を悠長に言っているのだ、ノイン! リリーナが大変な眼に遭ったというのに。リリーナがかわいそうだと思わないのか!?」

唯一の肉親であるリリーナを思ってか、ゼクスは珍しく感情をあらわにしていた。

だが、当のリリーナは先程まで泣いていたとは思えない、穏やかな笑みを浮かべていた。

「お兄様、ご心配、有り難うございます。でも、ヒイロの事です、きっと訳があるのでしょう」

「リリーナまでそんな悠長にしているんじゃない!」

「ゼクス、冷静さを欠いていていれば、良い判断は出来ません」

「あいつをパイロットとして、兵士として認め合ったからこそ、リリーナを任せたのだ。しかし、何故こんな事態が起こってしまうのだ……やはり私が甘いのだ。私の甘さがこの様な事態を招いたのだ、許してくれ、リリーナ」

先程までのハイテンションが嘘の様に、ゼクスは一気にテンションが下がった。

そんな変わりようにノインは呆気にとられたが、リリーナは素直に反応した。

「お兄様、なぜ私の許しを得る必要があるのですか。先程は何かの間違いです」

「いいや、私の甘さが招いたのだ。何故にこうも私は甘いのだ……」

と言ったゼクスは、自分の世界に入り込んでいた。

なのでノインはそれを止める為に声をかけた。

「ゼクス、庭へ行きましょう。今のあなたに必要なのは気分転換です」

「ええ、そうですわ、お兄様。でもノインさん、もう私に様づけするのはやめてください」

「申し訳ありません、あなたの顔を見ているとつい。どうか御自分に備わった徳だと思いください」

そう言ったノインは一礼をした。

そして、ゼクスを連れて部屋から出て行った。

一人、私室に残されたリリーナはポツリと呟いた。

「私に徳など無いのに……ヒイロ、一体なにがあったのかしら、あんな事をするなんて」

 

 

 

1997年発行アンソロジーより