HEERO’S EMOTION 1

「なっなにぃ! ヒイロ、お前さんはホントに何もしていないのかよ?!」

「何度か会った」

「んなのは当たり前だ! やっぱりお前って変……」

と言ったデュオはジト目でヒイロを見た。

するとヒイロを弁護するかのようにトロワがデュオに言った。

「別に個人差だろう。カトルなんて忙しさにかまけて、未だ彼女なしだ」

「あのなぁ、カトルはあんだけ姉さんが居れば苦労するもんだけど。だがなヒイロ、健全な青少年が好きな子に手を出さない、しかも、しかもだ、仕事上とはいえ、男に一緒に居ても嫉妬の『し』の字もしないなんてなぁ……いつかお嬢さんに愛想つかされるぞ」

と、デュオは一気にしゃべった。

するとヒイとは無表情のままだが再び口を開いた。

「何故そんなに詳しいんだ?」

「ヒルデにお嬢さんが話していたからだよ」

とデュオが言った時、カトルとトロワと五飛が口を挟んだ。

「それって本当かい、ヒイロ?」

「それはまずいと思うぞ、ヒイロ?」

「……嫉妬など女々しい感情は無用だ」

「んなこと言ってるから、未だに彼女が出来ないんだぜ、五飛」

とデュオがニヤリと笑いながら言うと、五飛は無言のまま部屋から出ていった。

「あのねヒイロ、嫉妬って女々しいだけの感情じゃないよ。愛情を図るバロメーターって言われているし。多少は必要だと僕は思うよ」

「そうだぜ、カトルの言う通り、もう少し感情ってモノを出したらどうなんだよ、ヒイロ」

「相手に対して何かを望んだり、期待したりする事も必要だし、それを裏切られれば、それに対して、相手に直談判することも必要だと思うぞ、ヒイロ」

三人がそれぞれ説得する様に言うが、ヒイロは納得していないのか無言だった。

「別に難しく考える必要はありません。ありのままの自分を表現すればいいんです」

とカトルは更に説得するが、ヒイロが何も言わないのであえて言葉を重ねなかった。

ここまで口を開こうとしないヒイロにこれ以上いっても無駄だと思った三人は別の話をはじめた。

だが、この物語はこの日の会話によってはじまるのだった。

 

 

 

HEERO’S EMOTION

 

 

 

晴天である。

太陽がギラギラと輝く事が無く、穏やかな日差しである。

そして、緩やかにそよぐ風の中、森林公園で森林浴を楽しんでいる一組のカップルがベンチに座っている。

そのカップルの少女が、少年に過剰なスキンシップをされている事を疑問に思って問いかけた。

「ヒイロ、何かあったの?」

「……」

返される無言はヒイロらしいのだが、過剰ともいえるスキンシップは天地が逆さまになって太陽が北から昇るくらい珍しい事だった。

だからリリーナはヒイロに再び訊ねた。

「5人で集まった時に何かあったの?」

「気のせいだ」

と、ヒイロは素っ気無く答えるが、過剰なスキンシップは止まる事無く続いている。

「そんな事は……5人で集まった時、私に対する言動がおかしいと言われて、こうしているんでしょう、ヒイロ!」

リリーナは鋭い直感によって気付いた事を断言した。

『一人上手と呼ばないで』と言えるオーバーアクション付きで。

しかしヒイロは、それを気にせずに言葉を返した。

「気のせいだと言っている」

それを聞いたリリーナが口を開こうとした時、ヒイロはリリーナの瞳を直視した。

するとヒイロの常に厳しさを秘めていた瞳が、人一倍強い自制心が、一瞬にして崩れ去った。

そしてその直後、ヒイロは何かに支配されてリリーナを押し倒した。

「ヒ、ヒイロ?!」

突然の行為に驚いたリリーナは困惑して思考回路が止まった。

が、すぐにリリーナは我に返り、襲われていると言う事実を認識した。

その時、聞き覚えのある男の声が聞こえた。

「私の可愛い妹になんて事をしているんだヒイロ・ユイ!」

「……ゼクス、何故ここに」

我に返ったような声を返したヒイロに対して、ゼクスは怒り狂った思いのまま叫んだ。

「何を冷静に答えている! リリーナに対する狼藉、許さんぞ、ヒイロ・ユイ!!」

そう言われたヒイロが立ち上がろうとした時、ブラウスのボタンが外れているリリーナを押し倒している事に気がついた。

すぐにゼクスの怒りを理解する事は出来たヒイロだったが、理由がわからなかった。

リリーナの瞳を直視してからゼクスの怒声を浴びせられるまでの記憶が健忘症の様に無かったからだ。

しかし、現状を客観的にみれば、ヒイロがリリーナを襲ったとしか言えない。

だから自分の状態を説明しようと、ヒイロは立ち上がりながら口を開いた。

「ゼクス……」

「理由など無用! ヒイロ・ユイ、此処で死んでもらうぞ!!」

「お兄様、落ち着いてください!」

と言ったリリーナのブラウスのボタンは直されていた。

だが、ゼクスの怒りはおさまるどころか上がる一方だった。

「リリーナ、余計な口出しは無用だ!」

と言ったゼクスは、立ち上がったヒイロに殴りかかろうとしたがすぐに止められた。

「ノイン、なぜ止める!」

「ゼクス、リリーナ様の言うとおり落ち着いてください!」

と言ったノインはゼクスの腕をしっかり押さえたまま、ヒイロに問いかけた。

「ヒイロ・ユイ、いったい何があった?」

「理由など無用だと言っているだろう。ノイン、早く腕をどけろ」

「やめてくださいゼクス。ヒイロ・ユイが理由も無く、リリーナ様をこんな目にあわせるはずがありません。少しは落ち着きなさい、ゼクス!」

「だが、しかし!」

「今はリリーナ様を落ち着かせなくてはいけません。ゼクス、いったんリリーナ様のご自宅へ戻りましょう。ヒイロ・ユイへの詮議は後ほどに」

とノインが言った時、ヒイロとゼクスは同時にリリーナを見た。

そして、ノインの言葉の意味がわからず、きょとんとしているリリーナの瞳から一筋の涙が流れた。

その涙によって自分が泣いている事に気付いたリリーナは、驚きの声を上げた。

「あっ……」

そんなリリーナを見たゼクスは、少しばかり残っていた理性を総動員して怒りをおさめた。

「わかった……だが、見逃し無いぞ、ヒイロ・ユイ!」

そう言ったゼクスはリリーナを抱えながらノインと共に去った。

そしてヒイロは、ただ呆然とその場に立ちつくしていた。

 

 

 

1997年発行アンソロジーより