WHITE REFLECTION ―白き片割れた鏡― 1

統一国家の本部である外務次官に当てられている部屋は、久しぶりに小さな主人を得ていた。

そして、その主人は忙しい仕事の合間を縫って雑談していた。

執務に使われる部屋ではあったが主人の仕事の性格上、質素ながらも執務用の机同様に上品な応接セットがあり、そこで訪ねてきた壮年の紳士と話していた。

この部屋の主人は、仕事内容と年齢を考えれば違和感がある色白な美少女ではあったが、壮年の紳士よりも部屋の雰囲気とは違和感がない。

事実、少女の方が壮年の紳士との会話をリードしていた。

「せっかくですがノルベ審議官……」

「リリーナ様!」

「私には必要ありません」

「リリーナ様……いえ、次期大統領!」

その言葉に、リリーナは飲んでいた紅茶のカップをもったまま固まってしまった。

そして、対面するように座っていたノルベ審議官は、ためらいがちに口を開いた。

「確かに戦乱の時より、人々を平和へと導いたのは貴女です。ですが、平和への責任感が芽生え、努力をはじめた人々にとって貴女は支えであり……頼りきれなくなっているのです、貴女が未成年であるが故に。人々の心の中には拭えない、後ろめたさが残るのです」

そう言われたので、リリーナはカップをソーサーに戻してからテーブルに視線を落とした。

だが、すぐにノルベ審議官を真っ直ぐに見ながら答えた。

「私は未成年で、年齢にあった責務を果たすべきなかもしれません。でも、私は皆さんと平和に貢献していきたいのです。そして、私はこの様に貢献できる事に喜びを感じているのです」

毅然と前を見据えるリリーナの姿に、ノルベ審議官は恍惚とした様な表情を浮かべた。

だがすぐに、ノルベ審議官は表情を暗くした。

「リリーナ様、誰も貴女に辞めて頂きたいとは思っておりません。ただ、貴女一人に……一人の少女に重い枷を背負わせたくないのです。途中半端でしょう。でも、人々は望んでいるのです。法的にだけでも成人し、共に重荷を背負ってくれる者を持つ事を。次期大統領となられる貴女に」

「有難うございます。でも、私は一人ではありません。多くの人々が平和を維持しようとしている……目に見える事ではなくとも、私には十分です」

年齢を感じさせないリリーナの慈愛に満ちた微笑みに、ノルベ審議官は敗北を悟った。

人々の希望となれる意志の強さと、実行力を持つ人を説得しようとしたのは間違いだったと。

「……わかりましたリリーナ様。貴重な時間を割いて頂き、有難うございました」

「いいえ、心配して頂き有難うございます、ノルベ審議官」

それへ応える様に、ノルベ審議官は一礼をしてからソファーから腰を上げた。

そして、ノルベ審議官が退室するのを見届けたリリーナは、窓に近寄って曇りがちな空を見上げた。

曇りがちな空は、眺めていても楽しいといえる空模様ではなかった。

だからリリーナは、眺めるのではなく、心を反映した様な空を通して、自分を見つめているのだろうか。

その時、不意に背後から声が掛かった。

「お久し振りですね、リリーナさん」

「カトル君、それにトロワ君も……どうしたのですか?」

「立ち聞きさせてもらった。一つ聞きたい事があるのだが」

全く悪気のないトロワに対し、リリーナは少し懐かしむように微笑んで承諾した。

「構いません、どうぞ」

「ヒイロを守っているつもりか?」

「……いいえ違います」

リリーナは逡巡しながらも、トロワの顔を真っ直ぐに見据えながら否定をした。

気まずそうな二人の雰囲気に、カトルは取り成そうとした。

「トロワ、言い過ぎだよ。リリーナさんはヒイロを巻き込みたくないと思っているだけなんだから」

「あいつは守られるほど弱くは無い」

「そうですね。でも、誰にでも触れられたくない過去はあるわ。そして、表舞台に立つ事はヒイロの本意ではなく……ごめんなさい席も勧めないで。お茶を持ってきてもらうわ」

と、リリーナが気まずさから逃れようとするのを、カトルはやんわりと制止した。

「気にしないでください。僕もそう時間に余裕はないですから。それに言いたい事は僕もトロワと同じです。なぜヒイロを探さないんですか?」

「ヒイロはこの件に関係ないし、私一人の問題にヒイロを巻き込む必要はないわ」

「お前を守ると言ったのでは?」

「私もヒイロも平和を求めています。互いの道は重ならなくても」

「でしたら……」

「でも、ヒイロは現れない。そして、居場所も知らない……だから、私は茶番を演じたいのです。協力をして頂けませんか、カトル君?」

「……分かりました。でも、見合いは僕からの申込みという事にして下さいませんか」

「有難う、カトル君……」

「では今日のところは失礼します」

と言ったカトルは、部屋からトロワを伴って出て行った。

 

 

 

勤勉な学生も就寝する時間、閑静な住宅街の外れの一角にある、5階建ての質素な学生寮の一室の窓から薄く明りが漏れていた。

外観を反映するように質素な部屋で、少年は課題とは思えない難解なデータがパソコンの画面に写っていた。

そして、その室内にはただパソコンのキーを押す音と、電子音だけがあった。

そんな静寂を破る様に、デュオが部屋の中に入って来た。

「相変わらず『ぞっこん』だねえ、ヒイロ」

「………」

しかし、ヒイロは何も答えなかった

そして、入ってきたデュオも、自分のみつあみをもてあそびながら気軽に言った。

「せっかく忠実な騎士に面白い情報を持って来てやったのに、そういう態度はないだろう?」

しかし、ヒイロは気にも留めない。

そこで入ってきた少年は、気を引こうと少し真面目に言った。

「今回の世論の発生源が、ある雑誌の特集だって知ってたか?」

「どういう意味だ、デュオ」

と答えたヒイロが、パソコンから目を離したので、デュオは調子に乗った。

「やっぱり見てなかったのか?お嬢さんがグラビア状態で載ってたのに。そういうのはチェックして買い占めぐらいやれよな」

「……無駄話を聞く気はない」

と言ったヒイロは、デュオに鋭い視線を返した。

それに対して、デュオは少し肩をすくめたが、口調は改めなかった。

「おまえってさぁ、ストーカーとかになりそうだと思ってけど、変なところで普通だよな。何もない時は学校に通うなんて」

「そういう意味で守られる存在じゃない」

と、呟くようにヒイロは反論した。

そして、耳の良いデュオは肯定した。

「そうだな。あのお嬢さんは存在自体が武器だからな。しかも伝染病並の影響力……でも『お嬢さん』じゃねえのか、ヒイロ」

「あいつは強い、誰が考える強さよりも」

「……お嬢様対決が見たいなら止め無いけど。今度会う時はもう少し普通になってろよ、ヒイロ」

と言い終わると、デュオはすぐに部屋から去った。

そして、残されたヒイロはデュオの最後の言葉にあった『お嬢様対決』と言う言葉にハッとした。

そこで、言われたた雑誌の内容を確認してから、一人の居場所を見つけてそこに向かった。