RHYTHM EMOTION ―鼓動ゆえの感懐― 4

再び忙しい日々に戻ったドーリアン外務次官は、コロニーを訪問していた。

ドーリアン外務次官にとっての日常は、時間との戦いでもあった。

地球圏統一国家が発足したばかりの頃に比べれば、仕事は減っていくものだと思われていた。

しかし、今では逆ではないかと思えるほど忙しかった。

「リリーナ!」

ヒイロはリリーナの体を引き寄せてから跳躍した。

と、同時に天井から建築材が降ってきて、先程までリリーナがいた場所に積もった。

それを、ただ見る事しか出来なかったリリーナは、自分を抱き抱えているヒイロに笑みを向けた。

「有り難う、ヒイロ」

いつものようにリリーナはヒイロに助けてもらった礼をした。

そして、こんなシーンにいつも既視感を感じているヒイロは、それ以外の感覚が蘇ってしまった。

建築材にかすってしまった為に出来た傷を、リリーナに手当てされた時から。

だが、リリーナはヒイロの様子に気付かず、建設現場から現れた現場監督らしき人物に歩み寄った。

「申し訳ありません。新人のミスでして……」

「私達よりも、こちらの片付けをして下さい。通行なされる方々が困るでしょうから」

リリーナは現れた人物の様子から、事故だと判断してそう言った。

残されたヒイロはこの感覚に振りまわされてしまい、周囲の全てが頭から無くなった。

今までの既視感は不快なものではなかったが、今回は違った。

まるで嫌悪にも似た不信ゆえの驚き……それはリリーナに出会ったばかりの頃、応急処置をされたからだ。

なぜオレは傷を負った……そう確か、おさげ髪の奴に撃たれたからだ。

なぜオレは撃たれた……オレが誰かに拳銃を向けていたから。

誰に向けた……俺の秘密を知り過ぎた少女に。

そうだ、オレの…ガンダムパイロットであるオレの秘密を知り過ぎた少女を、殺そうとした。

なのに、少女はオレを庇い、オレの傷に自らのドレスを破いて作った即席包帯を縛り付けた。

だから、オレはこの少女に対して思った。

自分を殺そうとしたオレをなぜこいつは……リリーナは助けるのか、と。

……オレがリリーナを殺そうとしていた?

 

それはヒイロに、かつてないほどの驚きを与えるものだった。

そして何よりも、この事実に対して、これ程驚いてしまっている自分自身に驚いた。

だがヒイロは、それを旨く顔に出す事が出来ず、いつもの無表情に険しさしか加えられなかった。

だから、話を終えて駆け寄って来たリリーナは、ヒイロの心の中にある動揺を見つけられなかった。

「ヒイロ……どうかしたの?」

「……なんでもない。今日は先に帰っている。会議だけならオレは必要無いはずだ」

そう言ったヒイロは、リリーナから逃げる様に去った。

なので、リリーナも慌ててヒイロの後を追おうとした。

「ヒイロ!」

しかし、今日ある会議の重要性を思い出したリリーナは、唇を噛み締めつつも会場のあるホテルへと足を向けた。

 

 

 

予定を終了させたリリーナは、宿泊先のホテルへと急いでいた。

ヒイロの様子が気になっているリリーナは、一分でも早く会いたかったから。

その時、車に乗っていたリリーナの持つ携帯電話が鳴った。

「はい、ドーリアンですが」

「カトルです。リリーナさん、今トロワと一緒に宿泊先のホテルに居るので、出来ればディナーでもと思っているのですが」

「それには是非ご一緒させてください。あの、ところでヒイロは大丈夫でしたか?」

「えっ……ヒイロはリリーナさんの隣では?」

と言うカトルの問い返しを聞いたリリーナは、確認するように問い返した。

「ヒイロはホテルに戻ってないのですね」

「ええ。トロワは朝からここに居ましたが、そんな話は聞いていません」

「御免なさい、カトル君。急用を思い出したので今度の機会にでも誘ってください」

そう言ったリリーナは、一方的にカトルとの会話を終了させてから、運転しているクリスに告げた。

「クリスさん、車を止めて下さい」

「え?」

驚くクリスの体を少し押し退けたリリーナは、ブレーキを無理矢理に踏んだ。

すぐ先の交差点で曲がる為、歩道に近い斜線を走っていたので、リリーナはそのまま車から降りた。

「クリスさん、あとの事はお願いします」

と言い残して、リリーナは走り出した。

残されたクリスは慌てて車を降りたが、リリーナの姿を見つける事は出来なった。