RHYTHM EMOTION ―鼓動ゆえの感懐― 2

他者の存在にも気付けない程、見つめあったままで動かないヒイロとリリーナ。

そんなヒイロに対し、五飛が隙をついて当て身を加えてから薬を注入した。

「五飛!」

倒れたヒイロを抱える五飛に、カトルは非難を込めて問い質す様に名を呼んだ。

だが、五飛は然して気にも留めずに言葉を返した。

「今こいつを暴れさせるわけには行かないだろう」

「そ、そうですね。取り敢えずここから出ましょう。話し声でヒイロが起きてしまうかもしれないし。リリーナさんはこの事を医師の方に」

「わかりました」

と言ってリリーナは、先に病室から出て医局に向かった。

それから四人は静かに病室から出た。

「まさかヒイロまで記憶を失うなんて……」

「頭に傷はあったが、脳波に異常はないって事はトロワやお嬢さんの時とも違い原因不明か? あいつの神経にストレスなんてつくわけ無いしなぁ」

軽口をたたくデュオに対して、カトルは咎める様に言った。

「デュオ、こんな時に……」

そう言いかけたカトルは、デュオの軽口が自分の悩みを隠すためのものだと気が付いた。

ヒイロがあの事故にあった原因の一部が自分にあるかもしれない、と冗談交じりに言っていたのだ。

あの事故は本当に偶然であり、故意が存在する隙も無いものだった。

それでも、そこで小さなミスを犯してしまった事が、デュオにとっては原因としか思えないのだろう。

その事に気付いたカトルの言葉を失ってしまったが、トロワが然して気にもせず話し出した。

「あの様子なら……オレ逹の事は知らないな。Dr.Jに教育されていた頃まで戻ったとみて間違いないだろう」

「あいつ程、強い男はそういない」

トロワの推測を一蹴する様に、五飛は言った。

その言葉を聴いたカトルも悔しそうに唇を噛み締めた。

「そうですね……今のヒイロにとって僕たちは空気以下の存在だから」

その言葉を聞いたトロワは、自分の過去を思い出しながら肯定をした。

「そうだな。しかし、必要と思えば思い出せるだろう。だが、ヒイロは今日にも退院できたとしても、家に帰すわけには行かないな」

「ええ。彼の部屋には何も無いですから……」

事実、ヒイロの部屋には生活必需品以外はない。

思案する二人にデュオは笑いながら言った。

「何言ってるんだよ。ヒイロにだってトロワの時の様に『帰る場所』ならあるぜ」

「……どういう意味だ」

「あ、リリーナさんだね。確かにリリーナさんの側に居た方がいいかもしれないね」

「それが、最良だな」

そう四人は決めると、なんとか説得を試みようとヒイロの病室に戻った。

だが、戻った病室には誰も居なかった。

「やはりか……!」

と言う、五飛の言葉の意味を尋ねるようにカトルは名前を呼んだ。

「五飛?」

「出ていく時、微かに人が動く気配を感じた」

「脳波さえ操れる人間にはあれぐらいじゃ駄目なのかよ!」

「あいつの行く先は判る。だがオレ逹にはどうする事も出来ない」

「こうなったらお嬢さんに頼るしかないだろ!」

と言ったデュオは、病室を出てリリーナを探しに医局へ向かった。

丁度、リリーナは医師との話を終えて、ヒイロの病室に向かっていた。

なので、リリーナとデュオは廊下で鉢合った。

「精密検査に異常はないので、今日にも退院しても良いそうです」

慌てるデュオはリリーナの言葉へは答えずにヒイロの事を口にした。

「それよりも、ヒイロの奴がどうやらあの工場跡に行った様なんだよ。」

「えっ……まさかヒイロを地球に送った人達の居た所のですか!」

「ああ。だからお嬢さんが……」

と言う、デュオの言葉も聞き終えずに、リリーナは走り出してしまった。

なので、デュオは言葉を止め、ただ笑う事しか出来なかった。

 

 

 

病室から抜け出したヒイロはやはり、L1コロニーにあったガンダムを作った工場跡に居た。

しかしそこはDr.Jによって主要区画は破壊さていた。

そんな工場跡を見ても、ヒイロはただ『見つかったのか』とだけしか思えなかった。

ヒイロは現在の状況を確認しようと、自分が居住していた部屋へ向かった。

そして、その部屋に隠してあったノート型パソコンを起動させた。

今のヒイロの一番新しい記憶と言えるものはあの日――AC195年4月7日に地球へ降下途中にOZの兵士よって海に落とされて、ガンダムから脱出して力尽きてしまった所までしかないのだ。

だから、ハッキングで現状を知ろうとした。

しかし、ハッキングによってもたらされた情報はヒイロを驚愕させるものであった。

その情報によれば、既にガンダムパイロットとしての任務を自分は完了させ、地球とコロニーは共存道を選び、地球圏統一国家なるものが誕生しているというのだ。

すぐにヒイロはこの情報が偽りであろうと思い、様々な方法を試みたが紛れもない事実である事を認めるしかなかった。

だから、ヒイロは自分の成すべき事は終えたと思い、この部屋に隠してあった拳銃を持ち出して外に出た。

そして、あの少女の墓の前で拳銃を自分の頭に向け、引き金を引こうとすると誰かに声を掛けられた。

「ヒイロ!」

自分の名を呼ぶ少女の声が聞こえたヒイロは振り返った。

だが、そこに居たのは、記憶にはない強い瞳を持つ少女だった。

その少女はヒイロが持つ拳銃を気にもせず、ただ問い掛けてきた。

「なぜあなたは死のうとするの」

「……俺には成すべき事がない」

ヒイロは内心で苛立ちつつも、その少女……リリーナの問いに答えていた。

「平和を勝ち取ったガンダムパイロットだから?」

「平和な時代にオレは必要無い」

「でもあなたは今まで生きていました」

「……」

リリーナの言葉によって、ヒイロはデータにあった自分の過去を思い出した。

そして、ヒイロの内心に気付かないかの様に、リリーナは更に強い口調で告げた。

「その答えを探もせずに死を選ぶの」

「……守れというのか、リリーナ・ドーリアン!」

と言ったヒイロは、リリーナに拳銃を向けた。

だから、リリーナは意味深な笑みを浮かべて応えた。

「過去のあなたはそうでした。で、それが答えであるかはあなたしか知りません。せめて、自分のしてきた事に対する答えを見つけてからでも良いのでは、死ぬのは」

「……任務了解」

そう答えたヒイロは、リリーナの護衛をする事になった。

今の自分に理解できない自分に対する興味か……

それともあの時の様にこの誘いに乗ったのだろうか……