RHYTHM EMOTION ―鼓動ゆえの感懐― 1

「早くしろ!」

と、ヒイロは大声で叫んでいた。

普段、感情を見せないヒイロの大声に怯えつつも、言われた青年は瓦礫の間から必至に手を伸ばした。

そんな青年の手をヒイロはとって引き上げると、脱出する為の手順を教えて先に行かせた。

「デュオ、救助は完了した」

数メートル先にある起爆スイッチのポイントに立っているデュオに言った。

すると、スイッチを押してからデュオはニヤッと笑った。

「こういう時でも愛想のカケラぐらいは示すもんだぜ、ヒイロ」

「無駄口を叩く前に脱出しろ」

「へいへい」

と、言ったデュオは脱出口へ急いだ。

同じように走るヒイロは、聞こえるはずの爆音がしなかった為、デュオをジロリと見た。

「おい、スイッチは押したのか」

「あのなあ、仕掛けてある場所は遠いんだぜ。聞こえなくたって……」

ムッとするデュオの耳に大きな爆音が届いた為、言葉を止めて更に急いで走った。

脱出することに専念してしまったデュオは、ヒイロが寄り道をした事を知らなかった。

そしてデュオが脱出すると建物が崩れ落ちた。

間一髪で脱出したデュオに五飛は言った。

「随分、ゆっくりしたものだな」

「その言い方、どうにかしろよな、五飛!」

「処理に成功したのですから、二人とも。」

と、仲裁をするカトルの隣でトロワが口を開いた。

「ヒイロはどうしたんだ」

「え、あいつなら…」

と、言いながら辺りを見渡したデュオは驚きから目を見開いた。

爆発した建物のものと思われる大きな破片に埋もれる黒髪の少年を見つけたから。

「おい、ヒイロ!」

慌てて駆け寄るデュオの後に、三人が続いた。

だが、気を失っているらしいヒイロは何も答えない。

瓦礫をよけてから、カトルがヒイロを仰向けにした時、その体の下にいた子犬を見つけた。

「ヒイロはこの子犬を助けたんだね」

「らしいな」

「全く、オレ達にもそれくらい優しければなあ」

「なら、ヒイロをリリーナの事で揶揄するのはやめておく事だな、デュオ」

と、トロワに言われてデュオは口を閉ざした。

そんな二人に苦笑いしながら、カトルはヒイロの傷を診てから言った。

「ヒイロの事だから大丈夫だろうけど……頭に傷がありますから、早く病院へ。この子犬もね」

そうして四人は、ヒイロを車に乗せた。

その時、ヒイロの唇が誰にも気付かれずに小さく開かれた。

「リリーナ……」

と。

うわ言の様な小声で、一人の少女の名を呼んだ。

失われていくものを繋ぎ止めるように……

 

 

 

RHYTHM EMOTION ―鼓動ゆえの感懐―

 

 

 

L1コロニーで最大の規模を誇る病院に、仕事の多忙さから休む暇も無く、病も怪我も得ていない、ドーリアン外務次官が訪れていた。

なぜならば、共に来訪したこのコロニーで、母親が過労から病を得て入院していたから。

「ではお母様、また来ます」

「あなたは私のように倒れないでね、リリーナ」

「わかています」

と言ったリリーナは、一礼をしてから退室した。

すると、セミロングの女性がリリーナに声を掛けた。

「リリーナ様、もう宜しかったのですか?」

「ありがとう、クリスさん。でも、私事に余り時間は割けられないわ」

「そうですね……」

含みのある肯定をするクリスは、リリーナの後に従った。

その時、リリーナの視界にストレッチャーに運ばれる黒髪の少年が入った。

それを見たリリーナはすぐにそれを追いかけた。

「リリーナ様!」

と言ったクリスは、走り出したリリーナを、だだ見送る事しかできなかった。

そして、リリーナは少年が運ばれた個室の扉を開け、ベッドで横になっている少年の側に寄った。

間近で少年を見るのが久し振りで、前に会った時も同じように倒れてしまった事をリリーナは思い出だした。

そんなリリーナは万感の思いを込めて少年の名を呼んだ。

「ヒイロ……」

そんなリリーナに、病室へ入ってきた少年達が声を掛けた。

「あれ、リリーナさん?」

「カトル君、ヒイロは一体どうしたのですか?」

現れた少年達の中に居た金髪の少年……カトルにリリーナは尋ねた。

感情をあらわにするリリーナを、安心させる様にカトルは微笑みながら答えた。

「事故でヒイロがケガを負ってしまったのです。頭に傷がありますけど大丈夫ですよ、ヒイロなら」

「そう、ですね」

カトルの言葉で少し安心したリリーナは安堵のため息をついた。

なので、カトルの隣にいたトロワはリリーナに訊ねた。

「ところでなぜこの部屋に入ったんだ。ここには面会謝絶の札が扉にあったはずだが」

「えっ……」

「いいって、気にすんなよお嬢さん。カトルが念の為に頼んだだけだからな。だろ、トロワ?」

そうトロワに言いながら、デュオはリリーナに笑みを向けた。

その笑みには、リリーナの無鉄砲さへの苦笑いが含まれているようだった。

それを知っているトロワも、デュオに苦笑いを返した。

「そうだな」

その時、ベッドで寝ていたヒイロが目を覚ました。

その些細な衣擦れの音から、その場にいた五人がヒイロを見た。

そんな視線に対して、ヒイロは驚いてから、すぐに胸の辺りをまさぐった。

だが、目的のものが見当たらなかったヒイロは、すぐ様近くの窓から飛び下りようとした。

「ヒイロ!」

無謀な行為を止めようとカトルは叫んだ。

その時、ヒイロの行動を冷静に見ていたリリーナは告げた。

「あなたが逃げる必要はないわ」

その声を聞いたヒイロは、反射的に振り向いてしまった。

理由なき行動への苛立ちをぶつけるように、ヒイロはリリーナに殺気を込めた視線を向けた。

しかし、リリーナはその瞳さえも受け止め、更に強い意志を込めた瞳でヒイロを見つめ返した。

『何故こいつは……』

ヒイロの驚きと共に訪れる感情の揺れ……それは初めてでは無いと感情が教えていた。

しかし、ヒイロの記憶には存在していなかった。

「……」

内心の葛藤を感じつつも、ヒイロは冷めた瞳のままでリリーナを見ていた。

その瞳を見たリリーナは、自分の直感が間違っていない事を確信し、ヒイロに再び告げた。

「私はリリーナ・ドーリアン……あなたは?」

という、自己紹介と思われるような言葉を聞いたカトルは、思いついた事を確認するように口にした。

「ヒイロ、もしかして君は記憶を……」

カトルの言葉を聞いた他の三人は驚く事しか出来なかった。