MIND EDUCATION  ―心の拠り所― 3

翌日、予定地に向かっていたリリーナは、急に車が止まったので、運転席にいるデュオに声をかけた。

「どうかしたのですか?」

「どうやら虎穴に入ったようだぜ、お嬢さん」

「ここは任せた」

そう言ったトロワは、車から降りながら近くの森に向けてナイフを投げた。

すると、うめき声と共に十数人の男達がその森から現れた。

なのでリリーナは、慌てて車外に出ようとするが、デュオに腕をつかまれた。

引き止めるという意味以上に強い力で腕をつかむデュオは、微笑み添えながら言った。

「あんな奴らは俺たちの敵じゃない。お嬢さんは……」

とデュオが言いかけた時、トロワの背後から3倍以上の完全武装をした敵が現れた。

それを目視で確認したトロワは、いつものポーカーフェイスに焦りを浮かべた。

デュオも険しい表情になり、車から降りながらリリーナに指示を出した。

「運転席に移って、そこにある通信システムで、はぐれた護衛の奴らをこっちに誘導してくれ。もしもの時は、護衛の奴らと合流してくれよ」

そんなデュオの指示通りに、リリーナは運転席に移ってから作業を始めた。

が、すぐにただ待つ事しか出来なくなり、2人の戦いを見ていた。

そして、その戦いを見ていたリリーナは疑問を抱いた。

『なぜ、自分が狙われ、庇われているのか』

と。

自分が要人だから……だけではない。

でなければ、同じ年だというのに、深い瞳をもった彼らが自分を守るわけがない。

そこまで彼らを動かす理由が、今のリリーナにはわからなかった。

だが、自分の存在が戦いの原因だと思った時、リリーナは自責の念に駆られた。

『自分が蚊帳の外にいて良いわけがない』

そう判断したリリーナは車から降りた。

そんな無謀な行為にデュオとトロワが気付いたと同時に、敵がリリーナへ襲い掛かった。

リリーナの身に凶刃がかざされようとしたその時、間一髪のタイミングで現れた五飛が敵を無力化した。

「貴様! 自分の立場を弁えろ!!」

助けたリリーナを殺すかのようなきつい眼差しと言葉を突きつける五飛に対して、リリーナは真っ直ぐな視線を返した。

「わかっています。だから、私は降りました」

「貴様、自分の言っている事が……」

と、五飛が反論した時、周辺一帯に高音が響き渡った。

「おやめなさい!」

リリーナの強い意志を秘めた叫びは、周りの時を止めた。

その期を逃さぬ様に、3人は動いて敵を完全に無力化した。

最後の1人が気絶した時、リリーナの背後から急所を狙う銃弾が現れた。

それを避けようと3人は動いたが、間に合わないと思ったリリーナは瞳を閉じた。

だが、その銃弾はもう一方から現れた銃弾によってはじかれた。

そして、弾いた銃弾を放った人物がもりから現れた。

「さすがは、元ガンダムのパイロットだ、ヒイロ・ユイ」

そう言った男……ノルベ審議官は弾かれた銃弾が現れた。

ノルベ審議官の不自然な登場は、リリーナを驚かせた。

だが、他の4人は違っていた。

「証拠はここにあるリリーナの記憶操方法と、襲撃計画表と襲撃者名簿などを収めたディスクだ。本物はカトルが持っている」

悪巧みの証拠を突きつけられても、平然としているノルベ審議官に、リリーナは問い掛けた。

「なぜ、こんな事を……平和主義者の貴方が?」

「平和の為です。この世界は貴女によってでしか安定しないのです。貴女が大統領として君臨していた頃には、起こらなかった様な事件が多発している。これは天啓なのです、リリーナ・ピースクラフト様!」

そう言いながら、ノルベはリリーナを崇める様に両膝を突き、リリーナを見上げた。

そんな態度を否定する様に、リリーナはノルベから視線を外してから答えを返した。

「確かに、市民の活動が活発になり、運動と称してテロまがいの行為を行う人もいます。ですが、試行錯誤をしてこそ、平和は保たれるのではないでしょうか?」

「いいえ、それは過ちへと続いてしまうのです! 市民全員が平和に貢献する事が出来るわけがない。現に市民活動家の半数は、テロ活動を認めています。だからこそ、選ばれた者のみが平和を維持するべきなのです。そして、それを率いられるのは平和の象徴たる貴女しかおられないのです!」

盲目的に己の正義を主張するノルベに対して、リリーナも己の主張を返した。

「平和に必要なのは『人』ではありません」

「そんな! 人が造らずして、いったい何で……」

「信じること……それだけのはずです、ノルベ審議官」

「……!」

「不信が芽生えた時、争いは起こります。でも、信じあう心があれば『戦い』ではなく『闘い』となり、人々を成長させるのではないでしょうか?」

そう、リリーナに言われたノルベはうなだれるかのように両手も地面に付けた。

そして、ノルベに主張をしたリリーナは、自分の記憶の意味を理解する事が出来た。

自分にとっての記憶は、今のリリーナ・ドーリアンに必要なだけなのだと。

自分が歩んできた道……それを忘れない為に必要なのだと。

それがわかったリリーナは、確認するようにヒイロを見た。

そして、その視線へ無言で頷くヒイロを見たリリーナは、自然に笑みが零れた。

『だから記憶がなくても、ヒイロの側では私は「私」でいられる』

そう再確認したリリーナは、そっとノルベに手を差し出しながら告げた。

「あなたが進もうとした道は、間違っていたかもしれません。でも、その志は必要なのです。どうか、これからも平和の為に貢献をして頂けませんか、多くの方と共に」

「このような事をしてしまった私に……出来るでしょうか?」

「その信念は信じるに足るものです。多くの方と共に歩けば、道を誤る事もないでしょう」

「はい……ドーリアン外務次官」

そう言ったノルベは、リリーナに差し出された手をとって立ち上がった。

 

 

 

あの事件以後、無事に記憶を取り戻す事が出来たリリーナは、夜中に去って行くヒイロに声をかけた。

「有り難う、ヒイロ。今の私を守ってくださって」

「約束を守っただけだ」

素っ気ない言葉を返すヒイロに近寄ったリリーナはそっとヒイロを抱きしめた。

「私も約束するわ、あなたに誓って」

「……」

「あなたが安らぐ事が出来る平和と、拳銃を持たずに暮らす事が出来る日常を。そして、私達が共に歩むことが出来る道を」

真摯な視線を向けるリリーナへ、同じ様に見つめ返すヒイロは口元に小さな笑みを浮かべた。

それに気付いたリリーナは満面の笑みを浮かべた。

だから、ヒイロはリリーナに告げた。

「俺にはその資格がない」

「いいえ。必要なのは、私とあなたの合意。それにあなたは私を守ってくれるのでしょう?」

「……そういう意味じゃない」

「そういう意味よ。私に必要なのはあなたなの」

「そんな約束をする気はない」

「守るのでしょう、私を。だから、私も守るのよ」

そういい募るリリーナに、根負けしたヒイロはため息をついた。

「……了解した」

「側にいてくれなくても平気だから、あなたはあなたの道を歩んで。きっと未来で重ねてみせるわ」

「その必要はない」

そう言い切ったヒイロは、真っ直ぐな視線でリリーナを見た。

その強さ故に、リリーナは見つめていた目を大きく開いた。

「え?」

「約束は、俺は破らない」

そう答えたヒイロは窓から去った。

だから、リリーナはヒイロの姿が見えなくなるまで見送った。

近い将来の再会を確信できる喜びを胸に懐きながら……