俺様の名は、天城小次郎。
頭脳明晰、冷静沈着、そしてユーモアセンスにも溢れる名探偵だ!
昨夜も馴染みの情報屋で仕入れたネタで大きな山を片付けたばかりだからな。
な・の・で、今は最近ご無沙汰をしていた恋人の弥生の事務所にいる。
あ、この事務所と名探偵の名に相応しい俺様の事務所を比べるんじゃないぞ~
名探偵という職業は、能力が高さと収入が比例しない場合もあるからな。
だから、名探偵と呼ばれる俺様でも、最近は貧困が当たり前なくらい多いのだ。
だが、今はかつて無いほどの危機にさらされている。
こういった自己紹介にツッコミを入れる愛しの弥生が、無言でタバコを吸っているからなぁ。
いや、タバコを吸う弥生はいつも通り色っぽい。
事務所特有の無機質な事務机の椅子に座っていてもそれは変わらない。
むしろ、大胆に足を組んで座っている様は、タイトスカートの中に手を忍ばせたいくらいだ。
しか~し、吸ったタバコの灰の山が天井へ届きそうなバビロンの塔と化しているのは……かなりコワイ。
その塔によって天罰を受けるのが弥生ではなく、俺なのだろうから、さらに怖い。
俺様の優秀で明晰な頭脳は、弥生が怒っている理由の見当はついている。
が、今回に限り、俺は無罪で、弥生の勘違いだ。
……
……
……
こういう時はいつも、
「今回に限りと言っているコトじたいが問題だ!」
と弥生はツッこむのだが、今回は何も言ってもくれない。
いつもあるものがないというのは、やっぱりさびしいんだよなぁ。
なぜかっていうと……え、そんな無駄話はいいから話を進めろ?
とりあえず手は打っておいたから、今はそれを待ちたいんだが……
まあ、何ごとでも足掻くのは悪いじゃあないし、試してみるか。
三つ巴の思惑と…… ―小次郎の受難(自業自得?)―
「あ、あの~弥生様?」
と、俺は下手に弥生の名を呼んだ。
だ・が、弥生が向けた視線の凶悪さは、俺の予想を遥かに超えていた。
「何だ!」
という、弥生の声に含まれている感情を完璧に理解した俺様の優秀な本能は逃げろと言っている。
しか~し! 男の中の男、天城小次郎様が一度は決意した事から逃げるわけには行かない。
なので、俺はそんな本能を気高い理性で抑えながら話しかけ続けた。
「そのタバコの灰の山、片付けてもよろしいですか?」
「ふん! 貴様の無責任行動のように迷惑をかけてはいないだろう!! だから、貴様に指図されるいわれなどない!!!」
そう言った弥生は、視線を元に戻してから残り少ないタバコを吹かしながら足を組み替えた。
あ、俺様としたことが立ち位置に失敗した。
今日はあと一歩、後ろが良かったみたいだぜ。
弥生が足を組み替えた時、スカートの中が見えなかったからなぁ。
上手い位置に立つと付け根まで見えるんだよ……あ、二階堂には内緒だぞって、あいつはもういないか。
え、そんなコトよりも弥生の言葉に怒りを感じないのか、って?
まあ、ここまで言われたら、流石の俺様でも憤りを感じるぞぉ。
今回の俺様は無罪だからな!
「む、無責任って……俺は法に触れることはしていないぞ、昨日の夜は」
「ああ、日本国憲法に反するような行為を堂々とするような馬鹿じゃないからな、お前は」
そう言いながら、弥生は吸っていたタバコを灰の塔に押し付けた。
珍しい同意を示してくれた弥生に感激をした俺は元の作戦通り、下手に出直した。
「さっすが弥生様! わかっていらっしゃる……」
「その方がまだ救いがある! 仕事で徹夜している恋人の為にと、寝ずに待っていた最愛の女性の家に朝帰りした時、お前はどんな格好をしていた?!」
「俺はおやっさんが教えてくれた店で、情報収集しただけだぜ?」
「ならば、何故、首筋や背広に隠されたヨレシャツ部分にキスマークがあったんだ!」
あいかわらず、弥生は勘が鋭いなぁ。
さすが、おやっさんの娘だぜ。
あ、感心してる場合じゃなかった。
ここで弥生の勘違いを和らげないと、言葉で収拾をつけられないからな。
「いや~お店にいたおねえさんが……」
「貴様の薄汚れた猥談など聞きたくない!」
と弥生は、一刀両断から喉に刀を突きつけるように言い切った。
ここまで言い切られると、流石の俺様でもしどろもどろなる。
「わ、猥談って……一応、昨日は情報収集で手一杯だったから、今夜は頑張れるんだけど?」
「……つまり、いつもは情報収集にも余裕があるから、適当に女と遊んでいると? だから最近は私を誘わなくなったのか!」
弥生の誤解がとんでもない方向へ向き、修正不可能な域に達しそうになった。
だから、俺は誤解を誠実に解こうと言葉を重ねた。
「ち、違う、誤解だ、弥生! 最近は事務所の方が忙しいから、疲れさせるのは良くないと思って誘わなかっただけだ!!」
「ふん! 言い訳などいくらでも出来る、お前は口先から生まれた天性の嘘吐きだからな!!」
……こうなった弥生に言葉は通じない。
な・の・で、俺は弥生の顎を片手で上向かせながら視線を合わせた。
「なら、今夜にその証明をしても俺は構わないぜ?」
「下半身だけで生きているケダモノの性欲処理行動に、私が付き合う必要などない!」
こんな状況でもクールな男言葉を崩さないほど、弥生の怒りはすさまじいらしい。
本当に今回は弥生の誤解なのに。
……もしかして、今回も誤解はきっかけ、なのか?
なら一丁、作戦変更~といくか。
「……つまり、俺は口先から生まれた嘘吐きで下半身のみで生きる性欲しか持っていない、と弥生ちゃんは言い切るのか?」
「それ以外に、お前を的確に表現できる言葉などがあると思っているのか!」
相変わらず痺れるくらい艶に満ちた男言葉を弥生は口にする。
やっぱ、作戦変更は正解みたいだな。
お互いの距離がゼロといえる事に気付いていない弥生へ、キスを仕掛けるように自分の顔を近づけた。
「……2週間前、あんなに激しく俺を求めてくれた可愛い弥生ちゃんはどこへ行ってしまったんだ?! やっぱり、ベッドじゃないと駄目なのか?」
「き、貴様っ! 何を考えている!! ここは事務所だぞ!!!」
ここにきて、初めて俺の意図に気付いた弥生は、慌てて抵抗をするように暴れた。
しか~し、そんな弥生の反応は予測済みだ。
そ・し・て、その対処も狎れている俺様には通用しない。
「今日は休日出勤だろ、他の人間はここには入れないぜ?」
「だからといって、こんな所でヤル気になどなれるか!」
そういう表面的な拒絶を楽しむように、俺は弥生の首筋に近い髪に顔を埋めた。
「いや~マンネリって俺たちみたいなオシドリ夫婦には禁物だから、たまにはこういうシゲキって必要だと思わない?」
「ふ、ふざける……あ、だ、駄目、そこは。やめて、小次郎……」
やっぱ、弥生はここが弱いんだよなぁ。
男言葉が艶やかな声に変わる瞬間に感じる快感は本当に癖になる。
だから、つい俺は弥生をいじめるように、弱い所を攻めながら言葉を重ねた。
「ココがイイんだろう? こっちも尖ってきているからな」
「ち、違う! 私は……あ、だ、だから、そこはダメって言ってるのに……」
あいかわらず弥生は堕ちるまでは素直に感じてはくれない。
だけど、それが弥生を抱きたくなる理由なのかもしれない。
だから、別れを決意した時も、弥生を離せなかったのだろうか……
そんな真面目な事を考えながらも俺様の手と言葉は本能が赴くまま、弥生を昂らせる。
「嘘はいけないな~服の上からでもわかるくらい、乳首が尖っているぜ?」
「あ、いや、だ、だめ、そこぉもっ!」
こんな風に切なげに求められたら、男としては応えるのがとーぜん、当たり前だよな。
だから俺は、弥生のインナーのボタンに手を掛けながら答えた。
「そんな風に言われると俺も……」
「俺も萌えるって? 昼間っから盛るのもいい加減にしておいたら?」
この二次創作は『EVE burst error』(セガサターン版)のその後です。
少々独自設定となっていますが、その辺はそれが明らかにわかる後編にて~
また今回、初めて一人称に挑戦してみました。
初めての一人称がエロ探偵、いえ、天城小次郎って……生物学上だと問題がありそうです。
まあ、女性向け、一般向け以外を書いたのは初めてなので、私的にかなり微妙なのですが。
その点も書き続ける事で精進あるのみ!ですね♪