珠紀が学校から帰宅すると、何故か居間で凛が泣いていた。
それ故に、凛の涙を止めようとなだめつつ、その場にいた美鶴に状況を訊ねた。
「一体、どうしたの、美鶴ちゃん!」
そう珠紀に強く問われても、美鶴は無言で強い視線だけを返した。
それ故に、珠紀は美鶴が涙の原因だと察し、その理由を強い口調で問うた。
「どうして凛君を泣かせたの、美鶴ちゃん!」
「……確かに、私は嘘をつきました。珠紀様が浮気をしていると」
「美鶴ちゃん!」
「……ですが、嘘をついた原因は珠紀様にあります」
と美鶴に強い口調で断言された珠紀は、凛を慰める様に頭を撫でていた手を止めた。
いや、美鶴の言葉の意味も真意も理解出来ない珠紀はただ驚いた。
「……え、私?」
「そうです!珠紀様が生涯の相手を選ばれたなら、後は子をなすべきです」
「へ?」
「玉依姫となられるならば、後継者を残す事も必要な務めです」
そう美鶴に再び断言された珠紀は、言葉の意味を理解したが故に返す言葉を失った。
そして、絶句する珠紀とは対照的に、凛は泣き顔のまま美鶴に問いかけた。
「……あの、それは『珠紀様を手籠にする』という事ですか?」
という美鶴への凛の問いは、再び珠紀に動揺させた。
「り、凛君!? そんな言葉を誰に教わったの?!」
「まあ、守護者の方々も良い手助けをされているのですね」
そう美鶴が更に状況を煽ろうとした為、珠紀はただ唖然とした。
そして、凛は呆然とする珠紀を抱き寄せながら互いの顔を近づけた。
「……確かこれからはじまるんですよね」
と確認する様に告げた凛に口づけられた珠紀はただ目を見開いた。
しかし、間近に見る凛の整った容貌と交わされて行為ゆえに、珠紀は顔を紅くした。
そして、凛が互いの唇を離すまで、珠紀はただ硬直していた。
その様子を見せられた美鶴は、淡々とした口調で凛に注意を促した。
「……凛様、それはいけませんわ」
「何か悪かったのですか?」
「ええ」
そう言う美鶴が、凛の行動を諌める意見すると思った珠紀は、安堵の溜め息を吐いた。
しかし、珠紀の予想を反し、美鶴は凛の行動を諌めるのではなくただ煽った。
「手籠にする行為は秘め事。ですから、珠紀様の部屋で続きは堪能してくださいませ」
「わかりました、行きましょう、珠紀様」
と言う凛に私室へ連れ込まされそうになった珠紀は無駄に足掻こうとした。
「わからなくていいから! それに美鶴ちゃんは煽らないで!!」
「今日はいつもよりも豪華なお赤飯付きの夕食を……いえ、食事は行為後の方がよろしいと思いますから、私にこっそりと良い時間を教えてくださいませ、凛様」
「はい、珠紀様を手籠に出来たら、報告しますね」
そう答える凛が、美鶴の思惑通りに事をすすめている事に対し艶やかに微笑んだ。
「はい。ご報告、楽しみにしております」
「……私の意見はムシなのね」
と愚痴る珠紀は、凛に対する手無駄な抵抗は諦めた。
しかし、珠紀が嫌がっていると思った凛は素直な問いを言葉にした。
「……やはり、僕などに『手籠』とされるのはお嫌ですか?」
「えっと……凛君に不満はないけど……その、時間というか、覚悟というか……」
「あ、確か手籠は夜這いとも言うと聞きましたので、夜の方が良いのですか?」
そういう凛の更なる勘違いと、これからを憂いた珠紀はただ沈黙した。
それ故に、ここまで煽った美鶴は、小悪魔的に微笑みながら珠紀に止めを刺した。
「確かに煽ったのは私ですが、守護者の方々の『配慮』が功を成すのは時間の問題かと」
「……わかったわ。女は度胸!という訳で逃げるわ!!」
と、珠紀が全力で抵抗する事を宣言すると、美鶴は言霊を口にした。
「……止まれ」
そう言う美鶴の言霊により、珠紀は自ら動く事が出来なくなった。
そして、珠紀を言霊で制した美鶴は、煽りまくった凛に手渡した。
「さあ、凛様、存分に珠紀様を存分に手籠としてくださいませ」
「はい。有り難うございます」
「いいえ、玉依姫の務めを補佐するのは言蔵家の務めですから」
という美鶴の言葉に対し、素直に感謝した凛は珠紀と共に退室した。
そして、自らは動けない珠紀と共に珠紀の私室へと凛は向かった。
二人を見送った美鶴は、祝する食事の内容を楽しげに考えた。
……
このお話を考えた時は泣く凛君を珠紀嬢が慰めるはずが……
年齢制限なお話が成立しかけていますよね……
守護者の方々の教えと凛君の実行が間違っていなければ(遠い目)
えっと……凛君に似合う可愛いお話を期待された方、すみません(脱兎)
……
……
……
えっと、今回の更新にて、緋色の欠片の連続更新は終了です。
最後までお付き合いして頂き、有り難うございました。
また、ハマってからの日は浅いですが、ネタは多くあり
時間と体力次第でサクサクと更新は出来そうですが……
更新予定が詰まっていますし、先延ばしにしているモノも
ありますので、今回の連続更新後の更新は当分、難しいかと。