ある日、唐突に美鶴は珠紀に浮気疑惑がある事を卓に告げた。
すると、卓はただ裏を感じさせる様な笑顔となった。
「では、言質以上が必要ですね」
という、卓の『言質』という言葉に、美鶴は背筋が寒くなった。
いや、卓の思考があからさまに読める状況に対して危険を感じた。
それ故に、美鶴は卓の意図を確かめる様にただ問い返した。
「……言質、ですか?」
「先日も大蛇の親族から跡継ぎの催促がありましたが、次なる玉依姫も必要だと思いませんか?」
そう卓に提起された美鶴は、ただ呆然と言葉を失った。
それは提起の内容が想定内でも想像も出来ない危険も感じたが故に。
そして、卓は変わらぬ笑顔のまま、美鶴への協力要請も言葉にした。
「出来れば、玉依姫の補佐をされる言蔵家でも協力をして頂けませんか?」
と、卓に言われた美鶴は笑みの裏に強請と意趣返しを感じた。
それ故に、美鶴は卓へと降参する様に正直な告白をした。
「……申し訳ありません。先程の話は嘘です」
「そうなのですか? まあ、子は天からの授かりものと言いますし、もう少し二人の時間を楽しみたいですからね」
そう美鶴に答える卓の笑みは、やはり変わらなかった。
いや、少しだったが艶やかな色気を感じさせた。
そして、その様な卓の笑みを見た美鶴は、再び危険を感じた。
それは、当事者ではない美鶴でも危険だと思える程だった。
それ故に、美鶴は卓が暴走する危険性を少しでも削ごうとした。
「……珠紀様のお身体の事も考えて頂けますか?」
「もちろんですよ。私の傍に居て頂く事が何よりも優先すべき事ですから」
と卓に答えられた美鶴は、変わらぬ笑みにただ恐怖を感じた。
そう。最愛する主でもある珠紀が選んだ生涯の伴侶の卓に対して。
その時、美鶴と卓がいる居間へと入ってくる者が来た。
「あれ……卓さん?」
「お邪魔していますよ、珠紀さん」
そう珠紀に対し、卓は穏やかな笑みと共に挨拶をした。
その様な笑みは先程までの裏は感じられなかった。
それ故に、珠紀はただ状況を確認する様に卓へとたずねた。
「何かあったのですか?」
「……ただ珠紀さんに逢いたかった、ではいけませんか?」
という卓の艶やかな笑みを見た珠紀は返す言葉を失った。
そして、美鶴はその笑みが珠紀への深い愛情を感じさせると思った。
また、意図的である卓は、場を和らげるように再び穏やかに笑った。
「……半分は冗談です。言蔵さんに呼ばれたんですよ」
「そうなんですか。でも、美鶴ちゃんの用って……?」
「……私の雑用は終わりましたから、珠紀様のお茶を用意しますね」
そう告げた美鶴は立ち上がり、あえて言葉でも退室の意を表した。
その意図に気付かない珠紀は、ただ美鶴への感謝を言葉にした。
「ありがとう、美鶴ちゃん」
「……いえ、後は大蛇さんとゆっくりとなさってくださいませ」
という美鶴が退室をすると、居間では明るい雑談がはじまった。
それは、美鶴との会話では、否、珠紀との会話だからこその明るさだった。
それ故に、美鶴はただそれを聞き流しながら微笑んだ。
そして、その様な変化が嬉しい美鶴は、ただ珠紀の幸せを祈った。
一番早く、卓さんは書きあげる事が出来上がりました。
いえ、キャラとして書きやすい方が卓さんなのは……
自分の性格と周囲への配慮を再確認したくなりました(遠い目)
そして、美鶴ちゃんと卓さんの会話に含まれた裏の意図と業などの
二人の言葉の意味深さと珠紀嬢の出番を書こうとすると、
長編になると思うのは、私だけではないと思います(遠い目)