悋気~嫉妬してくれますか?~孔明編

昼食を食べる人でにぎわっている部屋の一画で、花と芙蓉姫はご飯を共に食べていた。

互いの仕事が忙しくなってから、芙蓉姫は花との休暇を共に過ごせなくなった。

それ故に、花と共に食べられる昼食は、芙蓉姫にとっても短くも貴重な時間だった。

しかし、共に昼食を食べている間に花から聞く孔明の態度は明らかに不審だった。

いや、公私を混同しない事も、婚儀前の娘に無体を強いないのは紳士といえいるだろう。

むしろ、花の様に明らかに変化するのも問題だが、孔明の様に変わらないのも不審だ。

そして、それを毎日聞かされている芙蓉姫は、当然な疑問に至った。

「本当に孔明殿は花が好きなの?!」

そう芙蓉姫に問われた花も、変わらぬ孔明の言動故に、否定も肯定も出来なかった。

「……たぶん」

「それじゃあ、孔明殿は想いも告げずに、ただ花を弄んで……」

と、芙蓉姫は自説を力説しようとしたが、間延びした声がそれを遮った。

「まだ既成事実が無いとは言え、ボクの本気は花だけのものですよ、芙蓉姫」

「し、し、し、ししょう!」

そう花は、唐突な孔明の登場に驚いたが、孔明は読めない笑みと問いを花だけに向けた。

「今は『師匠』じゃないでしょ?」

「こ、孔明さん!」

と花が孔明の名を口にすると、孔明はにっこりと笑って花に言葉の続きを無言で求めた。

「き、既成事実って……」

「公私の混同と婚前交渉はしない主義なんだけど……花は既成事実が欲しいの?」

「孔明殿!」

そう芙蓉姫は孔明の唐突な現れ方よりも、蚊帳の外に置かれる現状に怒った。

しかし、その様な芙蓉姫の怒りに気付かないふりをしている孔明は、ただ花へと答えた。

「うーん、花が欲しいって言っても、僕は花が大切だからそれは譲れないなぁ」

「無視しないで頂戴、孔明殿!」

「あ、でも、夜に……」

という孔明の戯言を予測した芙蓉姫は、唐突に取り出した鉄扇と言葉で牽制した。

「それ以上を言葉にしたら、この鉄扇でやるわよ?」

「……こんなに過保護な母親がいるなんて想定外ですよ」

「……ええ、母親ならば娘の付き合い相手にも口出しが出来るわよね?」

「じゃあ、花は芙蓉姫が付き合うなと言ったらボクから離れる事が出来る?」

そう孔明に問われた花は、2人が思いを交わしあった日の事を思い出して涙を流した。

孔明に「必要ない」を告げられ、一方的に『別れ』も告げられた日の事を。

孔明にとっても『忘れられない日』であったが、花にとっては『癒えぬ傷』でもあった。

それに気付いている芙蓉姫と、花に傷を負わせた事を悔やむ孔明は謝罪を言葉にした。

「……ごめんなさい、花」

「……ボクも言い過ぎた。ごめん」

「師匠や芙蓉姫が悪いわけじゃなくて……ただ、師匠に言われた言葉を思い出して……」

という花の涙声で告げられる内容は、孔明にとっては避けたい話題だった。

否。芙蓉姫という花の『保護者』に知られたくない話題だった。

そして、それを知られる事を避けていた孔明は自分の不甲斐無さに心の中でへこんだ。

また、気になっていた事を聞く機を得た芙蓉姫は、その機を逃さずに孔明へ問いかけた。

「花を泣かせた、なんて事を正当化するつもりはないでしょうね、孔明殿?」

「あー、その言葉は本心じゃなかったといいますか、花を思っての言葉でして……」

そう孔明がのらりくらりと場を誤魔化そうとしたが、芙蓉姫の強い視線で制された。

そして、殺意に満ちた視線で見られても、孔明は言葉を口にしようとしなかった。

それ故に、芙蓉姫は少しだけ視線と纏う空気を凍らせてから強気に宣言した。

「……孔明殿が正直にならないなら、花が玄徳様の奥方になるかもしれないわよ?」

「……その話はすでに何度も消滅済みですよ」

と芙蓉姫に答えた孔明も、氷点下といえる空気を纏い始めた。

急激な空気の変化と、芙蓉姫が言葉にした内容故に、花は驚きから涙が止まった。

それ故に、この急激な展開についていけない花は、ただ聞き役に徹した。

が、それはこの場を悪化させる選択で、孔明と芙蓉姫の空気の温度は下がり続けた。

「ええ、何度も話が出される程、玄徳様は花を愛でているし、孔明殿との関係を知らない者達は一番結婚対象に近いと誤解しているわね」

「……」

「それに花も玄徳様には懐いているし、年は離れていてもお似合いだと思うわ」

そう告げる芙蓉姫は、あえて孔明へ意図的な感情と共に殺意に満ちた視線を送った。

そして、芙蓉姫の明確な挑発に気付いていた孔明は、あえてそれを受け流さなかった。

「で、ボクに嫉妬をさせて花と既成事実でもつくれとおっしゃるのですか?」

「……流石の伏龍先生も花が絡むとただの男みたいね。それとも花が特別なのかしら?」

「……ご想像にお任せします」

「そう。じゃあ、邪魔者は消えるけど……花を泣かせたら容赦しないわよ?」

と芙蓉姫は孔明に釘を刺しつつも、花との時間を譲る様に席を立った。

その様な芙蓉姫に対し、孔明もにっこりという笑みと共に問題発言で受けて立った。

「では、結婚するまでは花を啼かせないと約束しますよ」

「師匠!」

「……孔明殿がこんなにあからさまになるなんて……明日は大雪かしら」

「それは無いと星が告げていましたよ。それに、ボクはいつでも本気ですから」

そう孔明が答えると、芙蓉姫は花の頭を軽くなでてからこの場を離れた。

すると、孔明は聞き役に徹していた花を連れて庭へと歩き出した。

花は食べ終えていなかったが、手を引く孔明に抵抗する事なくついて行った。

そして、大きな木の木陰に着くと、孔明は花を抱きしめながら問い質した。

「……ボクに聞きたい事があるでしょ?」

「……本当に師匠は私が好きなんですか?」

「……それを疑われるのはかなり心外なんだけど?」

「でも、師匠は……」

と花が強く抗議する様に答えると、孔明は互いの距離を少しだけ離した。

そして、可愛い抗議をする花へと、真っ直ぐな視線を向けた孔明が続きを言葉にした。

「何もしてくれない、かな? じゃあ、聞くけど、花は何をして欲しいの?」

「え……」

「恋人らしい事といっても、生きた世界が違う君が欲しい事は話してくれないと、ね?」

そう問い続ける孔明の瞳にある、からかいの色に気付いた花も反撃する様に問い返した。

「……師匠、私の反応を楽しんでいますよね?」

「うん? 心外だなぁ、そんな事……」

「その言葉、さっきよりも軽く聞こえます」

という花の態度は、先程まで泣き崩れていた少女には思えない程に強くも気丈だった。

そして、そんな『強さ』に憧れていた孔明は、その過去に思いを馳せつつも苦笑った。

「……本当、無駄に鋭いんだよね、君って」

「師匠?」

「じゃあ、これは聞き逃せないから聞くけど、君こそボクの事が好きなの?」

「え……」

「ボクは言ったよね。君が初恋で、君だけが欲しいって。でも、君は……」

そう孔明が素直な想いを言葉にしたが故に、花も答える様に素直な想いを告白した。

「わ、私だって師匠が初恋で、師匠だけが、孔明さんが欲しいです、触れて欲しいです!」

「……そんな可愛い事を言うと、後が怖いって知ってる?」

と孔明に問われた花は、相変わらずの鈍さで問われた答えに気付けなかった。

いや、色恋沙汰にだけ鈍いとわかっている孔明は、忠告する様に花の唇に指で触れた。

「ボクだって男なんだよ? 好きな女性から誘われたら応えたくなるんだよ」

「!……さ、誘ってなんかいません!!」

「いや、誘っているね。第一、ボクの言動に不安があるなら、ボクに言って欲しいな。君が躊躇う理由も見当がつくけど、無用に嫉妬させられるボクの身も考えてくれる?」

そう孔明に問われた花は、言われた言葉への問いよりも素直な驚きを言葉にして答えた。

「……嫉妬するんですか、師匠が?」

「あのね、ボクだって男だって言ったでしょ。だから……お仕置き」

と花に告げた孔明はすぐに互いの距離を無くした。

いや、正確にいえば孔明は自身の唇と花の唇をただ重ねた。

そしてこの様な行為を、孔明は幾度も想像していたが、花にとってはただ衝撃だった。

そんな花に苦笑いつつも、孔明はすぐに互いの体の距離を大袈裟に離した。

「さ、休憩時間は終わったから、仕事をする時間だよ」

「……」

「……そんなに驚く事かな? 君からの言質はとったから、日常には慣れてもらわないと」

「……初めてなのに」

そう花は、余韻にも浸れない、唐突な行為に対し、反論と抗議を言葉にした。

しかし、花の言葉も予測していた孔明は、意図が読めない笑みでにっこりと笑った。

「男心がわかってないから、わかるようにお仕置きしただけだよ」

「……」

「あのさぁ、ボクも初めてだけど、ボクに言質を与えたのは君だよ?」

と孔明に問い返されれば、花は反論も抗議も続けられなかった。

しかし、乙女として譲れない思いがあった花は、小さくも抵抗を言葉にした。

「……孔明さんの意地悪」

「……そんな可愛い事を言うと、ボクでも矜持を曲げたくなるんだけど?」

「矜持?」

「公私の混同はしない、婚前交渉はしないって言った言葉を撤回したくなるってコトだよ」

そう孔明に告げられた花は、友人から聞いたキス以上の行為を思い、真っ赤になった。

その反応から、花が無知ではないと知った孔明は、再び意図が読めない笑みを見せた。

「ま、君の反応はわかっているから、あり得ないともわかっているよ」

「……」

「あ、師匠に対して不敬の念でいっぱいなのは良くないなぁ」

「……孔明さんが意地悪を言うからです」

という花のささやかな抵抗と意地の張り方は、ただ孔明の欲をひどく煽った。

だが、意図がないとわかっている孔明は、ただ花の手を取ってからにっこりと笑った。

「とりあえず、本当に仕事の時間だから執務室へ戻るよ」

「!」

「手間のかかる弟子には先導が必要でしょ?」

そう孔明に問われた花は、つながった互いの手を嬉しそうに見た。

その様なささやかな行為だけで、満面の笑みを見せる花に対し、孔明はただ耐えた。

「……ほんと、ボクの理性を試しているのはいつも君だよね」

「え?」

「なんでもないから、早く仕事に戻るよ」

「はい!」

 

 

 

 

 

師匠は難しい!と書きながら思いました。

師匠はかわし方(ごまかし方?)と本音のバランスが難しいです。

ただ、ゲーム本編の師匠ルートは本当に秀逸なので、それを目標に精進したいと思います!

あと『ガ/リ/レ/オ』の主題歌『最愛』は師匠ソングだと思い、書く際に聞いていました。

ただ、私的には映画の主題歌『最愛』がテレビドラマの主題歌『KISSして』へと変化する孔花が私的希望ですね!