悋気~嫉妬してくれますか?~玄徳編

花と芙蓉姫の休暇が重なったとある日の午後。

想いあっていた玄徳と結婚した花は、密かな悩みを芙蓉姫に打ち明けた。

が、その内容が内容であったが故に、芙蓉姫は場にそぐ合わない大声で確認した。

「いくら玄徳様もお忙しいとはいえ、営みだけなんて有り得ないわ!」

「ふ、芙蓉姫!」

そう花は、火を吐きそうな勢いで憤る芙蓉姫を、真っ赤な顔で鎮めようとした。

だが、その様に変わらぬ愛らしい仕草にも、女となった蠱惑さが備わっていた。

それ故に、いや、玄徳の言動も察する事が出来る芙蓉姫は心の中で溜め息を吐いた。

そして、どちらが悪いとはいえないとも思った芙蓉姫は、鼓舞する様に声高に宣言した。

「とにかく、玄徳様にはお仕置きが必要だわ!」

「お、お仕置きって……芙蓉姫は玄徳さんの部下なのに良いの?」

「乙女心も分からない殿方に遠慮するなんて駄目よ! 恋も戦なんだから!!」

と、芙蓉姫は他者への配慮から躊躇う花に対し、強気に持論を推した。

それから、芙蓉姫はただ無言で躊躇う花に同意を求める様な問いを言葉にした。

「それに、玄徳様の想いも知りたくない?」

「え……」

「安心して。あなたに嫌な思いをさせないから」

そう芙蓉姫に断言されても、花は他者への配慮からただ戸惑うだけだった。

それ故に、芙蓉姫もいつも以上の強気さで、自らの策を花の耳元で告げた。

そして、その策を実行する為の準備の為、芙蓉姫は花との会話を切り上げた。

「じゃあ、決行は明日だからね!」

「ふ、芙蓉姫!」

といった花は芙蓉姫を止められないと思ったが故に、ただ大きな溜め息を吐いた。

 

 

 

花が芙蓉姫に悩みを打ち明けた日の深夜。

玄徳がいつもよりも早めに片づけた書類の最終確認をした孔明がふと口を開いた。

「明日の午後には休暇がとれそうですから、花にも休暇をとらせましょうか?」

「ああ、頼む」

そう孔明の提案にうなずいた玄徳は、明日の休暇を思ったのか表情を緩ませた。

それを見た孔明は、片づけた書類を机の上に置くと、急に表情を引き締めた。

「……わが君。この様な時代には緊急事態がいつ起きても当たり前だと思いませんか?」

「ずいぶん遠回しな言いようだな……俺には言い難い事が花の身に起きたのか?」

「いえ……夫婦の事情を当人で解決するべきだと思わない者達も居ると思われませんか?」

という孔明の答えは、曖昧で意図がわからないが、彼らしい忠告だと玄徳は思った。

それ故に、玄徳は孔明の言葉をただ聞くだけではなく、表情も引き締めてから答えた。

「孔明。明日、俺が花を迎えに行くまで、お前の執務室から出すな」

 

 

 

芙蓉姫が策を宣言した翌日の昼食後から、孔明の様子が明らかに不審だった。

いや、玄徳の奥方となった花に対し、孔明は引いていた一線を超える勢いで絡んでいた。

そして、色恋沙汰に鈍い花は、ただ孔明の身を案じながら支えた。

「師匠、どうしてこんなにグダグダになったんですか!」

「うーん……ボクにもわかんない」

「今日の師匠は変です。朝から監視めいた視線で見ていますし」

という花の指摘は明らかに鋭くて的確だったが、特定の鈍さ故に真実に気付いていない。

それもわかっている孔明は、思う様に動かせない体とは違う的確な愚痴を言葉にした。

「……ほんと、肝心な事では勘が良いんだよなぁ」

そう愚痴られたのを身近で聞かされた花は、悪意に満ちた笑みと怒りを見せた。

「師匠?」

「いやぁ、ちょっと油断しただけだよ……雲長殿も巻き込むなんて思わなかったから」

「……私を師匠の執務室から出さない事と関係がありますか?」

という花の問いは、やはり的確で鋭かったが故に、あえて孔明は率直に問い返した。

「昨日、君が芙蓉姫と話した事を話してくれれば、問題は解決するかもね?」

「え……師匠ってばどこから盗み聞きをしてたんですか!」

「あんな大声を上げれば、耳聡い連中の話の種にはなるものだよ。で、どんな計画で玄徳様を籠絡するのかな?」

「……私も知らないんです。ただ、芙蓉姫も今日は師匠の執務室から出るなとだけで」

そう花が恥ずかしさに耐えながらも口にした言葉を聞いた孔明はすぐに策を察した。

そして、芙蓉姫の策を阻止しようと、孔明は花から無理矢理にでも離れようとした。

「じゃあ、今日はもう玄徳様の元に行くこと。ボクの事は気にしないで」

「でも、こんな状態なのに一人でお仕事するのは無理です!」

「でも、じゃないよ……ほら、芙蓉姫の策が成ってしまったよ、花?」

と孔明に言われた花は、執務室の入り口で呆然としている玄徳に気付いた。

「え……玄徳さん、どうして此処に?」

そう玄徳に問いかけた花は、自分と孔明の状態を理解していなかった。

玄徳が、否、他人が見た時に誤解される様な姿勢で、孔明を支えている事に。

そして、それもわかっていた孔明は、あえて硬い口調で玄徳に謝罪した。

「わが君、策を読み切れなかった責はいかようにも……」

「ならば、俺達の休暇は明日までだ」

と孔明に答えた玄徳は、花の体を強引に抱き寄せると横抱きにした。

現代風にいう『お姫様だっこ』をされた花は恥ずかしさから無言で驚いて抵抗もした。

しかし、花を抱いている玄徳には無意味で、それもわかる孔明はただ指示を受け入れた。

「わかりました、わが君」

「玄徳さん!」

「お前が心配すべきは己の身だ」

「玄徳さん!!」

そう叫ぶ花は玄徳の意図も理由にも、まったく気づく事が出来なかった。

しかし、抵抗すればする程、玄徳が抱きしめる力は強くなって表情も険しくなった。

それ故に、花は抵抗する事を止め、玄徳に身を預けながら、現状を理解しようとした。

だが、玄徳は花と過ごしている寝室に着くまで、口を閉ざしたまま開かなかった。

そして、強がる様に、怯える様に、玄徳が抱きしめる理由にも、花は気付けなかった。

 

 

 

「お前はいつもあんなに近くで孔明の側にいるのか?」

とようやく重い口を開いて問いかけてきた玄徳に対し、花はあえて普段通りに答えた。

「今日はお昼を食べてから師匠の状態が悪いから、近くで支えていただけです」

「……孔明の食事に細工を考えたのは芙蓉か?」

「たぶん、そうだと思います。でも、それは私の……」

そう言われる事を予想していた玄徳は、あえて淡々とした口調で続きの言葉を口にした。

「私の為だから許してほしい、か?」

「……はい」

「……お前が責をとると言うなら、出仕を辞めてくれ」

という玄徳の言葉は、花にとって青天の霹靂で、感情がない声音よりも驚かされた。

そして、その様な花の反応も予想通りだった玄徳は、ただ淡々と言葉だけを重ねた。

「俺はお前が妻以上に支えたい、と言われたから出仕を辞めさせなかった。だが、それは間違いだったようだからな」

「そ、それは!」

「何を思ってこんな事をしたかはわからないが……俺を試しているのか?」

「ち、違います! ただ、夫婦となってからの玄徳さんは、私に触れるだけで会話をしてくれなくなったから……不安になったんです」

そう花が答える言葉は、玄徳にとっては驚きだった。

いや、花の言葉に込められた己の失策に気付いた玄徳は返す言葉を失った。

そして、玄徳への想いを告げるだけで精一杯の花は、ただ言葉を続けた。

「玄徳さんに触れられるのは嫌じゃないです。私も触れて欲しいとは思いますが、ただ触れられるだけでは……不安になります」

という花の告白が予想外だった玄徳は、激しい衝撃と欲との戦いを強いられた。

その様な玄徳の状態に気付かない、否、精一杯だった花は返事を待つ様な視線を向けた。

その視線を受けた玄徳は、喉が渇き、声音が固い事を自覚しつつも、言葉を口にした。

「……不安になったから俺を試したのか?」

「試したいのではなく、確認したかったんです、玄徳さんの想いを」

そう告げられた玄徳は、大きな溜め息を吐いてから反省する様に自身の頭を叩いた。

唐突な玄徳の言動に驚く花とは対照的に、玄徳は苦笑う様な笑みを花に向けた。

「……どうやら俺の言動が原因だったんだな。今度の責は俺がとるべきか」

「責なんて……」

「いや、とらせて欲しい。だから、教えてくれないか、花が不安にならなくなる方法を」

という玄徳の言葉は、花にとっても『救い』だった。

芙蓉姫のいう『お仕置き』も、玄徳の傍から離れる事も、花には有り得なかったから。

それ故に、花は恥ずかしさと戦いながらも、素直な想いを再び言葉にした。

「……少しでもいいから、玄徳さんと共に過ごす夜はお話もしたいです」

「話、だけでいいのか?」

「……で、できれば、想いも言葉にして欲しいです」

そう耳まで赤くして告げる花の身を、玄徳は勢いよく抱き寄せると強く抱きしめた。

そして、抱擁にも慣れなれずにただ身を固くしている花の耳元で、玄徳は甘く囁いた。

「……花、愛している。俺がただ求めて欲しいと想う存在はお前だけだ。だから、お前にはいつも俺の傍で笑っていて欲しい。」

「……はい。私も玄徳さんの傍にいたいです」

と答えた花は、玄徳の背に自身の腕を回し、そっと抱きしめ返した。

その様な花の言動に煽られ、自身の欲深さを苦笑う玄徳も素直な想いを言葉にした。

「ならば、家族も一緒につくらないか?」

「え……」

「花との未来が、家族が欲しいんだ……だが、俺は若くない。だから、お前に無理をさせているとわかっても多く触れる事を選んでいたんだ」

そう告げられた花は、再び耳まで赤くなる事を自覚しつつも、玄徳の言葉が嬉しかった。

いや、玄徳にここまで想われている事が、花には嬉しくてそれを伝えたいと思った。

それ故に、その言葉を受け入れる様に、花は強張っている身を玄徳に任せながら答えた。

「わ、私も玄徳さんとの子供が欲しいです!」

「……ありがとう、花」

「で、でも、玄徳さんのお役に立ちたいので、出仕は続けたいです」

という花の主張は、今にも口付けようと思っていた玄徳の心をも挫かせた。

だが、それこそ花らしいと思った玄徳は、小さな愚痴を溜め息と共に吐いた。

「……お前を独占する事は出来ない、か」

「え?」

そう花は、聞き取れなかった玄徳の小声を確かめる様に短く問い返した。

しかし、浅ましくも根深い独占欲を知られたくない玄徳は、誤魔化すように応えた。

「いや、今度の責は俺にあるんだ。お前が責をとる必要はない」

「ありがとうございます、玄徳さん!」

「……なら、これから仲直り、でも構わないか?」

という玄徳の問い返しは、先程とは違う意味で、花には理解できなかった。

いや、見つめ返した玄徳の瞳に宿る感情に気付いた花は、再び身を固くした。

だが、その様に初心な花の反応さえも、ただ玄徳の欲を煽るだけだった。

「お前と2人なのに、ただ過ごせるだけの理性はとうの昔に無くなったんだ」

そう告げられた花は、おずおずと玄徳を抱き返しながらもしっかりとした声音で応えた。

「……私も玄徳さんに触れてほしいです」

「……愛している、花」

「私も愛しています……」

 

 

 

花が玄徳に連れ去られた直後、孔明は不自由な体を無視して明日の事を考えた。

その様な孔明の元に、解毒剤を持った芙蓉姫が入れ替わる様に現れた。

そして、芙蓉姫が差し出した薬を、孔明は自身でも確認してから服用した。

それから、体の調子が戻った事を実感した孔明は、言葉数が少ない芙蓉姫に問いかけた。

「何故、雲長殿まで巻き込んで、ボクの昼食に薬を仕込まれたのですか?」

「じゃあ、玄徳様が嫉妬する際の相手役はあなた以外でも良かったとでも?」

「では、ボクが玄徳様の奥方に横恋慕しているとでも?」

と問い返した孔明は、いつも通りの読めない口調のまま、ただ口元を羽扇で隠した。

だが、芙蓉姫はその態度に騙されない、否、孔明の瞳に宿る感情に気付いていた。

それ故に、芙蓉姫は真っ直ぐな視線と共に孔明に宣戦布告を告げた。

「あなたが花の幸せを願っている事も、特に気にかけている事も知っているからよ」

「……」

「あなたは『すきんしっぷ』と言って花に色々するけど、玄徳様も含めて他の人には常に一線を引いている、でしょ?」

そう芙蓉姫に問われた孔明は、羽扇で口を元隠したまま感情を読ませない笑みを見せた。

「……芙蓉姫は軍師にも向いているかもしれませんね」

「まさか。私が得意なのは恋戦だけよ。それに、あなたは恋戦をする気は全くないようだから、私は構わないけどね」

とまで言われた孔明は、あくまでも芙蓉姫に言質も同意も言葉にはしなかった。

その理由も察している芙蓉姫はただ花を思い、孔明に協定も持ちかけた。

「でも、あの子の幸せは私も祈っているから、その共同戦線はいつでも受けるわよ」

「……それはボクも同じですよ、芙蓉姫」

そう孔明が答えたのを聞いた芙蓉姫は、謝罪もする事なく、ただ執務室から立ち去った。

そして、悋気に囚われた玄徳と花の和解に思いを馳せつつも仕事を続けた。

ただ花の幸せを守る為に……

 

 

 

 

 

今更ながら、かなり遅れて『三国恋戦記』にハマリました。

『三国恋戦記』の主要人物にも萌えに燃えているのですが、

二次創作としては今日から連続で更新をする6人、

玄徳、孔明、孟徳、文若、仲謀、公瑾に萌えています。

最萌えは玄徳さんですが、読み手ならばどの男女CPでも良いですね!

また、『三国恋戦記』に萌えて書きはじめたばかりなので、

色々と見逃し……いえ、見守って頂ければ、と。