願う事はただひとつ・番外2

「左之助はおまえと二人っきりにさせては、人払いをしやがる」

「新八も面白がって同調しては、事後報告をしろとうるせぇし」

 

 

 

「こんな真夜中に、千鶴ちゃんが土方さんの部屋に来たら即……」

そう永倉が言葉にした時、部屋の主であり、鬼の副長でもある土方は、睨みで黙らせた。

だが、付き合いが長い永倉は軽く受け流し、共に居た原田も同意する様に問い返した。

「まあ、まあ、土方さん。好きな女を抱きたいと思うのは、素直な男の想いだと思うぜ?」

「……おまえ達、仕事はどうした?」

と、土方は話の話題を強引に変えようとしたが、永倉も原田も流されようとしなかった。

だが、深夜に土方の部屋へ近づく気配を察した永倉と原田は、居座っていたのが嘘のように、重い腰を上げながら立ち去ろうとした。

「……今夜も無粋な真似は、これくらいだな」

「そうだな。いくら俺達でも、相思相愛な恋人の逢瀬を邪魔する気はねぇって、土方さん」

「そうだぜ、土方さん。新八がいくら鈍くても、その辺はわかっているぜ」

そう二人に告げられた土方は、二人が居座っていた理由と言動の意図に気がついた。

「……俺の部屋で長話をしてた目的は千鶴か」

「さっすがは土方さん。話がわかるねぇ」

「死番を増やされたくなかったら、早々に立ち去れ」

「もちろんだぜ、土方さん。千鶴ちゃんとの逢瀬を邪魔し……」

「そろそろ近いぞ、新八」

と原田にせかされた永倉は、土方を嗾けながらも、重く見せていた腰を上げた。

「お、確かにそうだな。じゃあ、土方さん、翌朝の報告に期待してますから」

「……土方さん、資料をお持ちしました」

「……入れ」

そう土方は、気配から察していた千鶴の訪れに対し、若干、不機嫌そうに答えた。

それを察した千鶴は、土方の部屋に入ると、退室しようとする原田と永倉にも気付いた。

「はい、失礼します……あの、お話の邪魔をしてしまいましたか?」

「いいや、ちょうど話が終わったところだ、なあ新八」

「……そうだな。俺達はこの辺で失礼するぜ、土方さん」

と、原田と永倉が一方的に退室し、それに対しても無言な土方への確認を千鶴は求めた。

「……本当によろしかったのですか、土方さん?」

「……あいつらの目的は達成できたみてぇだから良いんだろ」

「目的?」

そう千鶴は納得が出来ないといった表情のままで首を傾げた。

その様な仕草は男装には似合わないが、千鶴らしいと土方は思った。

だが、それに気付かれぬよう、千鶴に対しても、土方は強引に話題を変えようとした。

「……今朝に渡した書類の資料を集めてくれたんだろ?」

「あ、はい。こちらでよろしいですか?」

「ああ、充分だ。助かる」

「いいえ。小姓として当たり前ですから」

という千鶴の応えは、小姓としても控えめともいえる大人しい答えだった。

いや、千鶴らしくない一歩引き下がった様なもの言いに対し、土方は眉をひそめた。

しかし、千鶴にも一線を引いている、否、引いていると思っている土方は無言だった。

その様な土方の思惑に気付かない、否、気付けない千鶴はただ問うように名を口にした。

「土方さん?」

「……いや、なんでもねぇ。それよりも、今日は早めに休め。今日の仕事はこれで終わりだからな」

「……わかりました。では、何かあれば、いつでも声をかけてください」

「俺が無いと言えばねぇんだ。だから、おまえは休め」

そういう千鶴への配慮を、土方は諌める様な強い語気で告げた。

その強さを誤解する事なく、意図にも気付いた千鶴は、再び一歩下がった様に答えた。

「……はい。では失礼します」

 

 

千鶴が土方の部屋から退室すると、まるで人払いをしていた様な原田と永倉が居た。

「……土方さんもずいぶん冷たいな」

「そうだぜ。こんなに可愛い子に対してさぁ」

と、千鶴に声をかける原田と永倉の言動が理解出来ず、だた名だけを問い返した。

「原田さんに永倉さん?」

「よ、千鶴。お仕事ごくろうさん」

「今日も仕事ごくろうさんだな、千鶴ちゃん」

そう千鶴に声をかける原田と永倉は、先程よりも余計に明るかった。

いや、意図的に明るい声音と雰囲気で話していると、千鶴にはわかった。

「……あの、私は土方さんとの極秘会談を、邪魔してしまったのでしょうか?」

「それは千鶴ちゃんの思い過ごしだな。ちょっと土方さんに世話をかけただけだぜ?」

「土方さんにお世話をしたのですか?」

と、千鶴は真夜中である事を忘れたかのような、素っ頓狂な声で問い返した。

それ故に、原田も時間をわきまえぬ笑い声で千鶴に答えた。

「あははは。確かに、俺達が土方さんに迷惑をかける方が多いからな」

「え、いえ、そういう意味ではなくて……」

「千鶴ちゃんの言い分は間違いがねぇよ。だけど、今回はちょっと世話をやいてみたんだ」

そう永倉に言われた千鶴は、やはり意味も意図もわからず、ただ首を傾げた。

「ま、千鶴に気付かれない程度なら、土方さんに怒られる事が減るな」

「だが、土方さんの鉄壁な理性は、どう陥落すべきだと思う、左之?」

「そうだな……」

と永倉と原田は、わかっていない千鶴を、否、当事者を無視した計画を立てようとした。

しかし、それを阻止するように、三人の背後から鬼を思わせる低い声音がかけられた。

「……これ以上、余計な事を考えるなら、本当に死番を増やしてやろうか?」

「土方さん?」

そう背後から現れた土方に対し、千鶴は再び驚きから大声で名を口にした。

そして、土方の登場を考えてもいなかった永倉は、場違いな挨拶で誤魔化そうとした。

「い、いやぁ、今日も良い天気だな、土方さん」

「……今夜は月も見えねぇ夜だが?」

「いや、いや、春の月はいつでも土方さんの隣だから……」

という失言を聞いた原田は、永倉を止める為にあえて吹っ飛ばした。

「新八!」

「……よっぽど死番が恋しいと思えるな、新八?」

そう土方に言われた永倉は、原田に吹っ飛ばされた事よりも、とわれた内容に怯えた。

その衝撃故に、永倉は早々にこの場から立ち去ろうとした。

「し、失礼しました!」

「お、おい、待てよ、新八!」

と、原田は慌てて立ち去る永倉の後を追う様にこの場から去った。

そして、展開にも理解が出来ない千鶴は、ただ唖然とするしかなかった。

また、千鶴とは違い、全てを理解している土方は、それ故に大きな溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

既刊「願う事はただひとつ」の番外小話です。

以前はイベントで無料配布をしていたペーパーに載せていましたが、

引っ越しの際に処分をした為、不親な仕様だとは思ったのですが、

この小話をサイトにてUPさせて頂きました。