鬼副長の憂鬱(土千)

『恋する副長と天然男装乙女』番外小話

 

 

 

新選組を仕切る鬼副長といわれる土方は、今日も書類の山を処理していた。

そして、ただ書類を捌いている土方の表情は、鬼の名にふさわしい気迫に満ちていた。

しかし、その様な土方の私室である副長室へ訪れた沖田は、軽い口調で問い掛けた。

「鬼副長と呼ばれる土方さんも人の子だったんですねぇ」

という沖田の軽口に対し、土方は応える事なく、淡々と書類を捌いていた。

それを予想していた沖田は、無言の拒絶を気にせず、軽い口調も変えずに言葉を続けた。

「それと、土方さんが千鶴ちゃんを小姓として仕事を与えるのは、二人の関係を公にする為ですか?」

そう沖田が問いかけても返事はなかったが、その様な土方の思いを代弁する様に、静かに現れた斎藤が答えた。

「……総司、副長の邪魔をするな。それに、雪村は副長の小姓だ。故に問題はない」

「でも、千鶴ちゃんは新選組の『預かり物』でしょ? いくら小姓でも公然と手を出すのって……」

と沖田は軽い口調でも的確に反論しようとしたが、唐突に現れた山南に言葉を奪われた。

「私的には、土方君には公然でも雪村君を籠絡して欲しいところですが……土方君の純愛が過ぎる為、この計画は頓挫どころか練り直しが必要ですね」

そう山南が告げる内容も予測済みだった土方は、ただ書類の山を捌いていた。

そして、山南が返答を求めようとした時、物陰から声をかけられた。

「総長」

「おや……今回も丁度良い報告ですね、山崎君。では、至急の用件は私の部屋で」

「……了解しました」

と山南に答えた山崎は、現れ方と同じくらい静かに立ち去った。

また、土方が無言を返す事も予想していた山南は、ただ微笑みながら退室した。

「では、失礼しますね、土方君」

「……ほんと、山南さんって『面白い』よね」

そう沖田は楽しげに告げたが、その内容に眉をひそめた斎藤は忠告を言葉にした。

「……総司、立場を弁えてから発言をしろ」

「えー、ここは『公』じゃないし、鬼副長は恋愛ボケ中だから、良いんじゃない?」

「……俺はボケちゃいねぇ」

と、書類を捌いていた手を止めた土方は、冷めたお茶を飲みながら沖田を睨んだ。

しかし、土方の強くて重い視線を受けても、沖田の軽い態度と軽口は変わらなかった。

「そうですかぁ? 千鶴ちゃんに公然と見張りをつけて報告もさせるなんて、軟禁とそう変わらないし、強い束縛や独占欲って嫌われやすいですよ?」

「千鶴を監視させるのは機密を知っている所為で、俺個人の感情は関係ねぇだろ」

「じゃあ、千鶴ちゃんにベタ惚れだってことは認めるんですか?」

そう問われた土方は、お茶を淹れなおす為に部屋から離れている千鶴の事を思った。

いや、はじめて出逢った時から惹かれている、千鶴の瞳の奥にある『強さ』を想った。

はじめて出逢った頃は、状況を理解するどころか、ただ怯えるように周囲を窺っていた。

しかし、刀を向けられてもなお、瞳の奥にあり続ける意志の強さに、土方は惹かれた。

そして、その強さが瞳だけではない事を知るにつれ、土方は己の想いを偽れなくなった。

そう、土方が己の想いを再確認した時、沖田が明らかな害意を含めた軽口を言葉にした。

「……土方さん、男が頬を染めても気持ち悪いだけですよ?」

「総司、いい加減にしておけ。そろそろ近藤さんが稽古の指導する時間だぞ」

「……それは遅刻が出来ないね。じゃあ、準備の手伝いでもしてくるよ」

と斎藤に答えた沖田は、土方に退室を告げる事なく、ただ道場へと向かった。

そして、斎藤は土方に対しても礼儀正しく退室しようとした。

「では、俺も失礼します」

「ああ」

そう斎藤に答えた土方は、自身の想いと千鶴との関係を思った。

しかし、既に自身と千鶴の想いを認め、受け入れている現状では、土方の思いだけでは変えられないと思った。

それ故に、土方は互いの想いと現状を再確認すると、ただ苦笑う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

ラブコレ合わせの新刊『恋する副長と天然男装乙女』を未読の方には不親切な仕様となっています。

ですが、これを載せた新刊合わせのパーパーは引っ越しの荷を減らす為に処分しました。

なので、不親切仕様ですが小話をUPさせて頂きました。