とまどうこころ(土千)

『薄桜鬼』土方×千鶴の同人誌『戸惑い』のお試し用の小話です。

『薄桜鬼』のネタバレを含む小話となっていますのでご注意ください。

 

 

 

土方が千鶴と再会した後から、急に大鳥の来訪が多くなった。

いや、土方が断れない状態である事を理由に、大鳥は千鶴との会話を楽しんだ。

そう。

千鶴との会話をするたび、大鳥は今にも殺されそうな土方の殺気に晒されているのに。

その殺気さえも楽しむような大鳥の言動は、土方の神経を逆なでし続けていた。

また、大鳥に返しきれぬ恩と上官である事実から、千鶴はその状況に気付かなかった。

いや、自分に関して鈍すぎる千鶴は、大鳥と土方の心境を理解できなかった。

だから、今日も大鳥にお茶を差し出した千鶴はお礼の言葉に戸惑った。

「君の様な可愛い小姓がいる土方君は羨ましいな」

「そ、そんな!」

いつも通りに戸惑う千鶴の言葉を聞いた土方は、書類から目を離さずに低い声を挿んだ。

「……大鳥さん、俺に斬られたくてわざと言ってんのか?」

「あははは。土方君の多彩な表情が見られるなんて、君のおかげだね、雪村君」

という大鳥は、土方の殺気と遜色ない声音に対し、能天気ともいえる明るい声で応えた。

そんな土方と大鳥の声音の差に気付いた千鶴は、状況を変えられるような言葉を探した。

「え、あの、その……」

千鶴の戸惑い、いや、困窮した声音を聞いた土方は、矛を収めるような言葉を口にした。

「明日の会議の準備がまだじゃねぇのか?」

「そうだね。でも、土方君のそんな顔も見られるとは思っていなかったよ、僕は」

「俺も大鳥さんがここまで悪趣味だとは知らなかったな」

「そんな悪趣味の僕だからこそ、今の土方君を堪能する権利はあるだろう?」

そう応えた大鳥は、土方の殺気がこもった答えとの応酬を楽しんでいた。

だが、ただ戸惑っていた千鶴が、聞き流せない大鳥の言葉により、俯いてしまった。

それを見た大鳥は、千鶴を気遣うように、先程までの軽口とは違う言葉をかけた。

「ああ、雪村君がそこまで落ち込むことは無いんだよ。土方君が強情なだけだから」

という言葉を聞いた土方は、書類から視線を外し、大鳥に対し真っ直ぐな視線を返した。

と同時に椅子から立ち上がった土方は、大鳥の傍に居た千鶴を抱き寄せた。

「……確かに大鳥さんのおかげで、俺は大切なものを失わずにすんだ、それは感謝する」

「土方さん……」

そう呟いた千鶴は、本当に幸せと思える表情で土方に身を任せた。

それを見た大鳥も何故か本人以上に幸せそうな笑みを浮かべた。

だから、土方は大鳥の心境を理解しているが故に、警告するように低い声で応えた。

「だが、あんたの悪趣味に付き合えるほど、俺も暇人じゃねえ。馬に蹴られたくなかったら、早々に自分の執務室へ戻ってくれ」

「……そうだねぇ。馬が登場する前に、鬼に斬られそうだから、そろそろ戻るとするよ」

と答えた大鳥は、ただのんびりと退室するような言葉を口にした。

そんな大鳥と土方の心境に気づけない千鶴は、ただ感謝に対する様な謝罪を口にした。

「あ、あの……すみません」

「大丈夫だよ、君は悪くないんだから」

「いえ、大鳥さんにはどんな言葉を尽くしても、返しきれない恩がありますから」

そう千鶴が言い切った時、それまで言葉を途絶えさせなかった大鳥と土方を沈黙させた。

いや、千鶴が意図しない強き想いが、大鳥と土方の言葉を奪った。

だが、そんな千鶴を一番理解している土方が、降参する様な笑みを口元に浮かべた。

「……千鶴」

「……本当に君は」

「え、あの、私……」

と、再び状況に対して戸惑う千鶴は、やはり自分の発言を自覚していなかった。

そんな千鶴の鈍さは、大鳥に再び清々しい笑みと明るい声を取り戻させた。

「あははは、さすがは雪村君だね。君以上に土方君に相応しい女性はいないよ」

そういう大鳥の言葉を聞いた土方は、大きな溜息を吐きながら退室を促した。

「そう思うんだったら、とっとと自分の執務室に戻ってくれ」

「わかったよ。ただ、明日は雪村君にも参加してもらう仕事があるから、夜は控えめにね」

と答えて去った、大鳥の言葉を聞いた千鶴は、顔どころか耳まで真っ赤にして戸惑った。

だが、土方は変わらぬ表情で、大鳥の言葉を真に受ける千鶴に対し、忠告を言葉にした。

「……千鶴、恩があるとは言え、大鳥さんの揶揄に付き合っていたら日が暮れるぞ」

「え、あ、はい」

「どうした?」

そう土方は、あからさまに何かを隠そうとしている千鶴の表情に気付いた。

しかし、千鶴は土方の疑惑を否定するように、強引ともいえる作り笑いを添えて答えた。

「え、いえ、なんでもありません」

「……下手な隠しごとを俺にする気か?」

「そ、そんなつもりは無くて……ただ……」

「ただ?」

と追究してくる土方に対し、千鶴は予防線を張るように、隙の無い笑みを添えて答えた。

「いえ、今が幸せすぎて、わがままになっているだけです。高望みは良くないですよね」

「いや、おまえの場合、欲が無さ過ぎるから、それくらいが良いだろ。それとも、俺なんかは必要ねぇ話か?」

そう自嘲気味に応える土方に対し、千鶴は強い口調でその自嘲と言葉を否定した。

「そんなことは有りません!」

「……」

「私には土方さんだけが必要なんです!!」

と、千鶴は自分を抱き寄せている土方に真っ直ぐな視線と共に断定した。

そんな千鶴の無自覚と、自身の想いを強く感じた土方は、口元に不敵な笑みを浮かべた。

「……今は昼なのに、ずいぶんと熱い口説き文句じゃねぇか。夜になる前に、俺から仕事を奪う気か?」

そう問い返してきた土方に対し、自分に関しては鈍い千鶴はただ言葉を問い返した。

「……仕事を奪う?」

「惚れた女に口説かれてもなお、仕事が出来るほど、俺は出来た男じゃねえからな」

「く、口説くなんて、そんなつもりでは!」

と答えた千鶴は、自分の言葉の意味に気付き、再び真っ赤な顔で訂正をしようとした。

そんな千鶴の言動に対し、土方は大鳥との軽口の時とは違う笑みを浮かべながら応えた。

「……冗談だ。戦が近いのにそんな気の抜いた事は出来ねぇよ」

「土方さん!」

「だが、夜にそんなことを言ったら、手加減は出来ねぇから気をつけろよ?」

そう忠告をした土方は、千鶴との会話を終わらせて仕事を再開しようとした。

しかし、何かを決意したような千鶴の視線に気付き、土方は目が逸らせなくなった。

そして、それを確認した千鶴は、再び真っ直ぐな視線と共に土方の名を言葉にした。

「……土方さん」

「なんだ?」

「私に手加減や遠慮は必要ありません。私は土方さんのお側で支えになりたいんです」

と言われた土方は再び返す言葉を失った。

いや、千鶴の強い想いと覚悟を再確認させられた土方は、先程までの余裕が奪われた。

そして、それに気付かない、いや、告げるだけで精一杯な千鶴はただ言葉を続けた。

「私などには過ぎた望みかもしれません。ですが、それだけは許してください」

「……本当におまえは俺に仕事をさせない気か?」

そう問い返す土方の声は、何かを無理に押し殺すような思いを千鶴に感じさせた。

そんな土方の心境を理解できなかったが故に、千鶴は自身の言葉を告げる事を優先した。

「仕事を奪う気も、邪魔をするつもりもありません。ただ、お側にいることを許して頂きたいんです」

「……おまえが俺を必要とする以上に、俺の方がおまえを必要としてるんだろうな」

「え?」

と、千鶴は場にそぐわない素っ頓狂な声で問い返した。

しかし、土方は何かを諦めたかのような、悟ったかのような表情で、ただ苦笑った。

「安心しろ。おまえが離れたいと言っても、俺はおまえを離す気はもうねぇよ」

「土方さん……」

そう応えた千鶴は、ただ土方の言葉に対して全幅の信頼と安心を寄せた。

しかし、千鶴がそのような感情を後悔するような言葉が、土方の口から出た。

「だから、今夜は覚悟しておけ」

「え?」

「悩む暇も寝る暇も、今夜は与える気がねぇからな」

という、土方の言葉の意味がわからぬほど、浅くはない関係がある千鶴は再び戸惑った。

「ひ、土方さん?」

「さあ、仕事だ。今夜は早く仕事を終えないとな」

「土方さん?」

「なんだ? 俺が欲しんだろ? だったら仕事を早く終えられるように手伝え」

「そ、そういう意味ではないんですけど……」

「つまらない悩みを話せないお前が悪いんだ。そうそうに諦めろ」

ここまで土方に言い切られた千鶴は、何かを諦めたかのように大きな溜息を吐いた。

それを見た土方は、千鶴の行動の意味を言葉にさせるかのように問いかけた。

「どうした、悩みを言う気になったのか?」

「いいえ。つまらないからこそ、土方さんを煩わせるつもりはありません」

「惚れた女の悩みも聞けねぇほど、甲斐性が無い男にしてぇのか?」

そう土方に問い返された千鶴は、歪な笑みをつくってから、任せていた身体も離した。

「土方さんを必要としているのは私だけではないんです。さあ、お仕事を再開しましょう」

「……千鶴」

と言いながら、土方は再び千鶴を抱き寄せようとした。

しかし、先程まで戸惑いばかりだった態度が嘘のように、千鶴は土方を強く制した。

「駄目です! 明日の仕事の準備はまだまだですから、短い休憩も先です」

「……本当に強くなったな、おまえは」

「そうさせたのは土方さんですよ?」

「……そうだな、俺の所為か」

「ええ、土方さんの所為です」

「じゃあ、夜でも強くなれるように俺が教えてやるよ」

そう土方に答えられた千鶴は絶句した。

いや、土方の意図と、その行為を想像したが故に、千鶴は返す言葉が浮かばなかった。

そんな千鶴に対し、土方は再び不敵な笑みを口元に浮かべながら答えた。

「その調子じゃあ、まだまだ修練が必要だな」

「そ、そんなことに修練なんて……」

「そうだよ。可愛い雪村君が今以上に艶やかになったら、土方くんが大変だよ?」

と、二人の会話に割り込んだのは、退室したはずの大鳥だった。

そんな、大鳥の割り込みに対し、千鶴は素直に驚いた。

「大鳥さん!」

そう驚く千鶴とは違い、土方はこの部屋の扉の近くから気配がある事に気付いていた。

だが、千鶴の無自覚な『誘い』で、その気配を忘れていた土方は、静かな怒りを見せた。

「……盗み聞きとはイイ趣味だな、大鳥さんよぉ」

「盗み聞きしたくなるような会話をしている土方君が悪いんだよ?」

「……大鳥さん、斬られてぇのか?」

と、大鳥に問い返す土方は、戦場で敵を殺す以上の殺気を隠さずに向けた。

そんな土方の暴走を止めるように、千鶴は必死に止めようとした。

「ひ、土方さん!」

そう止めようと必死な千鶴とは対照的に、大鳥は先程までの態度と変わらなかった。

それは、土方の殺気を甘く見ているのではなく、その殺気の意図に気付いていから。

そして、それにも気付かない千鶴は、ただ懸命に土方の暴走を止めようとした。

 

 

 

 

 

『戸惑い』の序章。

千鶴の天然と決意。土方の嫉妬と大鳥の悪趣味。私的萌え要素を盛り込んでみました。

『戸惑い』でも、土方さんは仕事の鬼な上に嫉妬深く、千鶴嬢は天然だけど意志が強く、大鳥さんはあえて嫌われ役を務める悪趣味を持っているかと。