5だってもう、止まれなかったし。(お題使用1)

置き去りにされた千鶴が土方を追い、箱舘で再会を果たした。

そして、土方から「傍に居てくれ」と告げられた千鶴は小姓となった。

再び土方の小姓となった千鶴は、周囲が驚くくらい有能な働きを見せた。

また、千鶴が小姓となってから、大鳥は土方の執務室によく訪れるようになった。

それを千鶴は感謝の気持ちでこたえ、土方はただ眉間にしわを増やした。

そして、新選組に属していた島田の様な古参隊士も土方と千鶴との再会を歓迎した。

いや、歓迎、という言葉では言い表せない程、我が身の成就の様に狂喜した。

その一人でもある島田は、主の居ない土方の執務室で主の帰りを待っていた。

その為、新選組時代から慣れ親しんだ島田好みのお茶を淹れる千鶴と会話していた。

その会話は仕事の合間としては不謹慎ともいえる、色恋沙汰に関する話題だった。

だが、その話題の主である土方と千鶴の関係は、一般的な甘さは無く、覚悟に近かった。

それ故に、島田は興味本位から千鶴に土方への『おもい』などをたずねた。

すると、千鶴は恋愛事の様な甘さが全く無い、信念を語る様な生真面目な口調で応えた。

「止まれない……と思った所為だと思います」

そう千鶴に答えられた島田は、思いがけない答えを聞き、ただ驚いた。

土方と千鶴の関係に好意的だった島田は、ただの惚気を聞く程度に思っていた為に。

それ故に、島田は自然に姿勢を正すと、千鶴に言葉の続きを促すような言葉を口にした。

「止まれない、ですか」

「はい。新選組の皆さんが私に託してくださった思い、そして、私の土方さんへの想いが止める事を考えさせませんでした」

「……」

「ただ、この様な『おもい』が土方さんの重荷に……」

と、不安を言葉にした千鶴に対し、島田はすぐに破顔しながらその言葉も否定をした。

「ならないと思いますよ」

「え?」

「自分には土方さんのおもいを推測する事しか出来ませんが……」

そう島田が土方の思いを代弁しようとした時、執務室のドアを開いた主が口を挟んだ。

「その推測はちょっとお邪魔だと思うよ、僕は」

「……というか、昼から仕事の合間に話す内容じゃねぇな」

という土方と一緒に入室してきた大鳥に対し、千鶴と島田はすぐに謝罪を言葉にした。

「す、すみません!」

「申し訳ありません、土方さん」

「二人とも真面目だなぁ。土方君は……」

そう大鳥がニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、土方の思いを代弁しようとした。

だが、いつもよりも不機嫌で鬼の様な表情をしている土方は、大鳥の言葉を遮った。

「あんたの言動も邪魔とは言わねぇのか、大鳥さん?」

「土方さん!」

と、千鶴は恩と上官である事実から、土方の事を思って自制を促した。

しかし、土方の言動に慣れた大鳥は、変わらぬ穏やかな笑みで千鶴に答えた。

「大丈夫だよ、雪村君。僕は喧嘩ではなく事実を言葉にしているだけだから」

そう大鳥が答えるのを聞き流した土方は、執務用の机にある書類の一部を手にした。

そして、その書類を素早く確認した土方は島田へと手渡した。

「……この書類はすぐに持って言った方が良いな」

「では、自分が持っていきます」

「ああ、頼んだ」

と土方が答えると、島田は機敏な礼を返してから退室した。

それをただ見ていた大鳥は、土方の思いを代弁する様な問いを言葉にした。

「で、僕まで追い払うのかい?」

「ああ。仕事の話をしねぇなら、追い払うぜ、大鳥さん」

そう土方が余裕を見せつつも鬼気迫る表情を見せた為、大鳥も少しだけ表情を改めた。

「では、逆鱗に触れる前に仕事としようか。お茶を頼めるかい、雪村君?」

「はい、お任せください」

「ありがとう、雪村君」

と千鶴へは変わらぬ穏やかな笑みを見せた大鳥に対し、土方は直球で真意を確かめた。

「……で、千鶴を追っ払ってまでする話なんてあるのか、大鳥さん?」

「他意はないよ。ただ、島田君の推測は正しいのかい?」

「……止まれねぇと思ったのは、きっと俺の方が先だろうな」

そう大鳥に応えた土方は素直な心情を短くも正直に吐露した。

その言葉の意味と想いの深さの片鱗を知り、想像も出来る大鳥は裏の無い笑みで答えた。

「……本当に二人はお似合いの上に、欠けられない対なんだね」

「だったら、邪魔する前に仕事をしてくれねぇか?」

「いやー、雪村君のお茶は絶品だし、土方君で楽しむ会話は……」

「斬られてぇのか、大鳥さん?」

という土方の本音以上の殺気を視線ごと突きつけられた大鳥は肩を竦めた。

それ故に、土方同様に戸外の気配に気づいている大鳥はすぐに穏やかに微笑んだ。

「……あははは、冗談だよ。だから入っても大丈夫だよ、雪村君」

「……お茶をお持ちしました」

そう千鶴が答えながら土方の執務室にお茶を持って入ってきた。

そして、千鶴からお茶を受け取ったお茶を飲みながら、土方はジロリと大鳥を見た。

「……どこまでが冗談かもわからねぇな、あんたの場合」

「雪村君が絡む土方君がわかりやすいだけだよ、きっと」

「申し訳……」

と千鶴が大鳥へと謝罪を言葉にしようとしたが、すぐに土方がそれを言葉で遮った。

「その言葉は必要ねぇぞ、千鶴。むしろそう言わせた方が良いぜ」

「本当に酷いなぁ、土方君は」

「新選組の鬼副長と言われてきたのは伊達じゃねぇって事だ」

そう応える土方の笑みは、いつもよりも余裕があり、それ故にただ怖いと思わせた。

少しだけ大袈裟な言動を再び改めた大鳥は、少しだけ真面目な表情で土方に答えた。

「では、鬼に斬られる前に、仕事を終えてしまおうか」

「いつもそう思ってくれると有り難てぇな」

「それは無理というものだよ、土方君」

「……」

という土方と大鳥の会話をただ聞いていた千鶴は、少しだけ小さな笑みを浮かべた。

その笑みに気付いた土方は、小さな笑みを口元に浮かべながら書類を手にした。

だが、大鳥の意地の悪い意図を感じる視線に気づいた土方はすぐに口元を引き締めた。

その様な土方の反応が嬉しい大鳥は、仕事の話をしている最中に感じる怒気も楽しんだ。

 

 

 

 

 

薄桜鬼の連続更新はこのSSにて終了となります。

最後までお付き合い頂き、有り難うございました。

 

また、今回も連続更新の最後は土方さんです。

屯所時代捏造と、箱舘編捏造のどちらが良いか、

と迷いましたが、今回は箱舘編捏造としました。

同人誌では屯所時代捏造が多かったので。

 

 

 

 

 

五つの言い訳(お題の配布元: