おまえと共に生きよう(土千)

「おまえだけと共に生きる為だけに生きている俺を、『おまえ』が否定するのか?」

そう土方に告げられた千鶴は、驚きから返す言葉も口に出来なかった。

そう。

土方歳三の傍に居る為だけに、追い続けてきた千鶴には、受け入れがたい言葉だった。

いや、土方の想いと自覚していた互いの差に気付いた千鶴は、現実を認められなかった。

そのような千鶴の思いを見抜いている土方は、逃げ道を塞ぐように自身の想いを告げた。

「もう、俺の瞳には、おまえ以外が映らない」

という土方の告白は、千鶴にただ戸惑いを与えた。

新選組という存在を優先していた土方歳三しか、千鶴は知らなかったから。

それ故に、千鶴は土方から逃げるように、言葉を返す事なく、ただ慌てて退室した。

そして、恋愛感情を隠し続けていた負い目から、あえて土方は千鶴を見逃した。

 

 

 

いつもおまえは、春の月のように俺を見守り包んでくれた。

新選組だけを考え、ただ前進しようとした俺の傍に、おまえは何時も居てくれた。

その為に選んだ道が、違わぬかと迷った時は、寄り添う事で正しいと思わせてくれた。

 

あの雪が舞った深夜の京都で、おまえと出逢った時から、この『きせき』はあったのに、

新選組という『夢』を追う俺は気付かず、

おまえを仙台で置き去りにもしたのに、

そして、俺の傍に居る事を強硬に主張し、

俺が言葉にする気もなかった愛の告白をさせた。

 

なあ、千鶴。

俺はその時から、こんな現実を良しとする想いがあったと言ったら、おまえは驚くか?

それとも……喜んでくれるか?

 

 

 

千鶴の戸惑いを受け入れ、土方が自身の想いを再確認していた頃、千鶴は混乱していた。

「どうしよう……」

そう千鶴は、呟きとも事実確認とも思われる、言葉を次々と口にした。

「……土方さんが生きる事を選んでくださった上に、私も選んでくださるなんて」

という千鶴の言葉が聞こえた土方は、背後から声をかけようとした。

だが、土方が声をかける前に、千鶴が更なる独り事を口にした。

「やっぱり嬉しい、って思うのは思い上がりだよね」

「どうしてお前はそんなに自分を卑下するんだ?」

そう土方は、自身の言動を省みないが、客観的な視点で千鶴の言動を冷静にそう評した。

そして、土方の気配に気づかなかった千鶴は、突然声をかけた事に対して素直に驚いた。

「ひ、土方さん!」

「仙台で置き去りにした俺の傍に居る為に、箱舘まで追ってきた女の言葉とは思えねぇな」

と土方は告げたが、千鶴は冷静になると、少しばかり疑うような視線だけを返した。

そのような女の視線にも慣れているのか、土方は苦笑いながらも素直な想いを口にした。

「言っただろう、今の俺の瞳には、おまえしか映らねぇんだって」

そう告げられた千鶴は、真っ直ぐな視線と共に、土方へと正直な想いを言葉にした。

「……土方さん、それは……告白なのでしょうか?」

と、千鶴に確認を求められた土方は、急に黙り込んでしまった。

いや、言葉に窮したと言うより、思いがけない言葉を聞いた、とでも言った風情だった。

それ故に、千鶴は再確認を求めるように、土方の名を言葉にした。

「土方さん?」

「……いや、告白する前に結婚を申し込んじまったな、と思ってな」

そういう土方の言葉は、千鶴の想像を、いや、考え及ばない次元に思える言葉だった。

それ故に、千鶴は驚きから目を見開き、口を開閉させながらも言葉を口に出来なかった。

そして、そのような千鶴への配慮が出来なかった土方も、ただ正直な思いを言葉にした。

「いや、今からでも遅くはねぇか……」

と、土方が自身の思いを纏めた時、千鶴はようやく名前だけは言葉にする事が出来た。

「ひ、土方さん!」

「? どうした、千鶴」

「あの、結婚って……」

そう千鶴に言われた土方は、互いの状況の温度差に気付かず、ただ素直に問い返した。

「……やっぱり手順を踏んだ方が良かったか?」

「え、いえ……ただ、本当に私などで良いのですか?」

「あたりめぇだろ。今の俺にはお前以外が目にも入んねぇんだからな」

と断言された千鶴は、感極まった声音と感情のまま、土方を抱きしめた。

「土方さん……有り難うございます」

そう応えた千鶴に対し、土方は抱きしめられた以上の力で抱き返した。

「良いんだな、千鶴?」

「はい、私を土方さんのお嫁さんにしてください」

と応えた千鶴の顎に手を添えた土方は互いの唇を重ねた。

それが答えだと言うように、いや、それ以上の想いを込めて。

 

 

 

二人だけの婚儀を交わし、千鶴は土方に身を預けて共に夜を明かした。

その行為の後、千鶴は夢心地の想いのまま、素直な思いを言葉にした。

「……目が覚めたら、全てが夢となるのでしょうか?」

そう千鶴に告げられた土方は、先程までの上機嫌を損なったような声音で問い返した。

「……そんなに今夜の事は夢にしてぇのか?」

「い、いえ、違います! ただ、本当に土方さんの奥さんになれたのかと思うと……」

と答えた千鶴は、慌てて土方の誤解を解こうとした。

しかし、本気では機嫌を損なっていなかった土方は、千鶴の身を引き寄せながら応えた。

「そんなに実感が欲しいってんなら……」

「そ、そういう実感は充分です!」

「そうか? ま、俺達には時間があるからな。焦る必要はねぇか」

そう言った土方は、急に千鶴から視線を外し、遠い目をしたまま、ただ天井を見た。

その意図がわからない千鶴は、いつ松の不安を感じた思いのままに土方に問いかけた。

「土方さん?」

「……いや、ちょっと昔を思い出してな。おまえと出逢った直後は監視もさせたし、常に見張りを付かせた。でも、おまえはおまえの力で、新選組にとって必要な存在となったな」

「そ、そんな事はありません……」

と、千鶴はいつもの調子で謙遜するように、ただ土方の言葉を静かに否定した。

しかし、土方も千鶴の謙遜を否定するように、強い口調で告げた。

「何を言ってやがる。ただの女に、山崎や源さん達が志を預けるかよ」

「……」

「そして、俺が背負った新選組の『最期』も共に背負ってくれたしな」

そう土方に告げられた千鶴は、自然と瞳が潤み、頬に一筋の涙が流れた。

「……その言葉通りの事が出来ていたなら、嬉しいです」

「本当におまえは泣き虫だな。だが、おまえの涙を拭うのは悪くねぇ」

「え?」

「おまえは俺以外の男にこの役目は渡さねぇだろ?」

「もちろんです!」

と、断言をする千鶴は、涙を流している女とは思えぬ、意志と芯の強さを感じさせた。

それ故に、土方は素直な思いと嬉しさを吐露した。

「……本当に、きちんとした祝言もあげられねぇ男の嫁には勿体ねぇな」

「そんな事はありません!」

「千鶴?」

「土方さん以上に欲しい方は、私にはありません」

そう千鶴に断言された土方は、煽られた感情のまま、再び千鶴の身へと覆いかぶさった。

そして、自覚なき千鶴への宣言のように、土方を見る視線へと言葉を返した。

「……上等だ。煽ったからには、覚悟が出来てるんだよな」

「覚悟?」

「今夜は一度のつもりだったが、寝かさねぇぞ」

という土方の言葉と意図に気付いた千鶴は、慌てて否定と弁明を言葉にしようとした。

「え……ま、待ってください!」

「今更、逃げるなんて言い訳はきかねぇぞ」

「土方さん!」

そう千鶴は叫んだが、意を決した土方に流され、太陽が昇っても離される事がなかった。

 

 

 

太陽が昇りきった頃、千鶴は遅い昼餉を土方と共に食した。

そして、以前、近藤が言っていた土方の食事の味を体験する事になった。

しかし、それ以前に、布団から出られない事態を千鶴が自覚してから、機嫌が悪かった。

「そんなに怒るな。大体、お前が煽った所為でも……」

そう低姿勢ながらもぼやかれた千鶴は、土方の考えも及ばない言葉を口にした。

「……土方さんのお世話をするのは、私の役目なのに……」

「……そんな事を気にしてたのか?」

と、千鶴に思いもつかない事を言いだされた土方は、驚きから目を見開いた。

そして、千鶴にとっては当たり前な思いを伝えようと、その思いを懸命に主張した。

「当然です! 土方さんのお手を煩わせるなんて……」

「安心しろ、千鶴。こんな日はこれからも有るだろうからな」

「え?」

そう千鶴が土方の言葉の意味を問うように、短くも問い返した。

しかし、土方は千鶴の意図には気付かず、ただ起こる事が確実な未来を語った。

「おまえが俺を無自覚に煽る日は多そうだし、俺も今更、我慢する気はねぇからな」

「……?」

「言っただろう。俺の傍にいろと、逃げようとしても逃がさねぇって」

と土方に告げられても、千鶴は言われた言葉の意味が理解出来なかった。

いや、色恋沙汰に鈍すぎるが故に、千鶴には理解をする事が出来なかった。

「……私には、その覚悟と土方さんのお言葉の意味の関連がわかりません」

「わからねぇって言うなら、親切で妻思いの旦那が親切丁寧に教えてやるよ」

「……」

「おまえとの時間は……俺にもどれくらい残されているかはわからねぇ。でも、だからこそ、おまえの側から離れる気もねぇし、離す気もねぇ。だから覚悟しとけ」

そう土方に告げられる内容は、千鶴にとって理解が難しくて、悪い予感しかしなかった。

しかし、それでも千鶴は自身の譲れぬ思いだけを言葉にした。

「……それは覚悟していますけど、土方さんのお世話が出来なくなるのは嫌です」

「……ほんとに頑固だな、おまえは」

「それは土方さんも同じです」

「ま、夫婦は似るっていうし、今更かもしれねぇな」

「土方さん?」

と、千鶴は急に視線を柔らかくした土方に対し、その意図を確認するように問うた。

すると、土方は柔らかな視線のまま、千鶴だけに見せる優しい笑みを見せた。

「今の俺の瞳には、おまえしか映らないからな、覚悟しておけ」

「……はい、これからは私以外を映さないでください、土方さん」

 

 

 

 

 

今回の更新で歌から連想した薄桜鬼SSは終了となります。

お付き合い頂き、有り難うございました。

昨年に更新した薄桜鬼SSよりも、原作への理解とキャラの性格の把握が良くなったと思うので、少しでも楽しめる小説となっていると良いのですが……

また、土方さんSSのタイトルが前4作と違うのは意図的です。

土方さんが千鶴嬢の盾や剣になるSSも考えたのですが、連想した歌の歌詞に近い形にしたいと思い、今回はこの様になりました。

やはり、原作に忠実にしたいと思うと、土方さんとの恋愛展開は9章以降だと思うのです。

ですが、屯所時代から千鶴嬢に手を出す土方さんとかは読み手としては大歓迎(殴)

……

……

……失礼しました。

それでは今回はこの辺で(脱兎)