おまえを守る為に俺が盾になる(原千)

ただ軟禁されるだけだった千鶴が、自らの力で小さくも役目と居場所を確保した。

例え、それが『手伝い』の範疇であっても、千鶴は懸命に努めた。

そして、今日も隊服を破いてしまった原田が、千鶴に修繕を頼んだ。

「今日も頼まれてくれねぇか、千鶴?」

「はい。縫物でしたら任せてください」

「いや、縫物だけじゃねぇだろ。千鶴が屯所の手伝いをしはじめてからは、飯が上手くなったからな」

そう原田に、笑顔で言われた千鶴は、ぎこちない笑みを浮かべていた顔の頬を赤くした。

そして、原田の気遣いに対し、千鶴は短くも感謝を言葉にした。

「……有り難うございます、原田さん」

「いや、そんなに畏まれるような事を言ったか、俺は?」

と、千鶴に言った原田は、さりげない思いやりと笑顔の効果に気付いていなかった。

いや、原田自身もさりげないと思っていた為に、言われた女だけが照れてしまうのだ。

その様な原田の無自覚さを知る平助は、するりと二人の会話に口を挿んだ。

「……無自覚な色男を気取った左之さんに騙されるなよ、千鶴」

「そうだぜ、左之の気遣いは度を過ぎていやがる!」

そう永倉に告げられた原田は、的確で容赦ない反論を言葉にした。

「……それを言うなら、新八の色恋沙汰に鈍い無自覚さの方が害だろ」

「あー、確かにそうかも」

と、平助が納得した時、戸惑いともいえる表情を浮かべていた千鶴が自然に笑った。

そのような笑みを久方ぶりに見た原田と平助も笑みを交わし合った。

しかし、原田の的確で容赦ない反論を受けた永倉は、悲壮な表情で千鶴に詰め寄った。

「千鶴ちゃんまで左之の味方か?」

「い、いえ、違います。ただ、皆さんの会話が楽しくて……」

そう千鶴が答えようとしたが、その言葉を遮るように、原田は肩に手を置いた。

それ故に、千鶴は原田へと視線を向けると、頼もしげな笑みを見せられた。

「安心しろ、千鶴。おまえは俺達が護る」

「そうだぜ、あんな奴等、俺達がいつでも追い返してやる!」

と言われた千鶴は、自然に笑う事も出来ないくらい、気持ちも沈んでいた事に気付いた。

それくらい、自ら鬼と称し、千鶴を嫁に浚おうとする者達の存在は驚異だった。

そして、的確で容赦ない反論を受けて沈んでいた永倉も、千鶴に対して笑みを見せた。

「そうそう。だから千鶴ちゃんは、安心して美味しい飯を作ってくれ!」

「それが本音か、新八?」

そう原田に、再び的確で容赦の無い反論を返された永倉は、先程よりも慌てて答えた。

「え、いや、千鶴ちゃんを案じるのは俺も同じだと……」

「あからさまに言い訳だろ、新八」

「左之さんの言う通り、墓穴を掘りまくりだぜ」

と、平助にも断言された永倉は、先程よりもわかりやすいくらいに落ち込んだ。

そのような三人の言動は、三馬鹿と称されるだけの会話でもあった。

しかし、だからこそ、落ち込んでいた千鶴は、その明るさに励まされて自然に笑った。

そして、そのような千鶴の自然な笑みを見た原田も平助も永倉も、会話を止めなかった。

 

 

 

新選組が京にあった頃の事を思い出していた原田は、自嘲するような笑みで呟いた。

「……俺達が護る、か」

「左之?」

そう原田に声をかけたのは、共に京から江戸へと戻った永倉だった。

そして、永倉の顔には敗戦の影響が色濃く残っている事を見抜いた原田は苦笑った。

「……どうした、新八。今にも死にそうな顔だな」

「……それはお前の方だろ。どうして千鶴ちゃんを避けるんだ?」

と永倉に問われた原田は、思いがけない問いに対し、無言で目を見開いた。

あからさまに驚く原田に対し、永倉もわかりやすいくらい詰問する様に詰め寄った。

「鳥羽・伏見の負け戦の所為かと思っていたが、違うみてぇだしな」

そう詰問をされても、原田は永倉に答えようとしなかった。

いや、原田には答える言葉がないのだと、永倉は悟った。

それ故に、永倉は話題を強引に変え、原田に問い続けた。

「なあ、左之。新選組はこれからどうなると思う?」

「……それを決めるのは俺達じゃねぇだろ?」

「……じゃあ、千鶴ちゃんを、羅刹の改良実験を強制する山南さんに、預けられるのか?」

と問われた原田は、永倉でも気付くくらい、あからさまに動揺した。

だから、永倉も原田の心境に気付き、きつい眼差しと共に忠告した。

「……それが答えか。いくら俺が色恋に鈍いっていても、おまえの変化に気付かない程に鈍くはねぇぜ?」

「……」

「……確かに、今の俺達には千鶴ちゃんを護る事さえも出来ねぇかもしれねぇ。それでも、左之も此処に居るのか?」

そこまで問われた原田は、永倉に対して正直な想いを吐露した。

「……俺はただ、千鶴の笑顔を見守りたかったんだ」

「左之……」

「千鶴はああ見えて芯もしっかりしてるし、鬼だから頑健だ。でも、それでも、俺は千鶴を護りたかった……」

そう原田が過去形で千鶴の事を語ろうとした為、永倉は慌てて反論した。

「……おいおい、今はまだ土方さんも山南さんには賛同してねぇから安心だろ、左之」

「……今のところは、な」

「……そんなに心配なら、千鶴ちゃんに声をかけてやれよ。千鶴ちゃんも左之の事を気にしていたぜ?」

と永倉に問われても、原田は態度を決めかねていた。

いや、自身の想いを認める事も否定する事も、言葉にする事が出来なかった。

それに気付いた永倉は、あえてその事に触れず、ただ原田と千鶴を気遣った。

「それに、相談事も有りそうだったからな。聞くだけでも聞いてやったらどうだ?」

「……」

「ま、強制はしないし、野暮もしねぇが、千鶴ちゃんを護りたいと思ったのはお前だけじゃねぇんだぜ、左之?」

「新八……」

「でも、今の千鶴ちゃんが『求めて』いるのはおまえだからな」

そう断言された原田は、永倉に対して無言の感謝を込めて、正直な思いを言葉にした。

「……ああ、わかってる。現状が良いとは俺も思っていないし、千鶴を護りたいと思う気持ちにも変化はねぇ」

「なら、いいんだ。いやー、余計な世話を焼いたせいで腹が減っちまった。今日はお前の奢りだぜ、左之」

という永倉は、道化じみた笑みを原田に見せた。

それ故に、原田も茶化す様な口調で永倉に答えた。

「……人の心配をしておきながら、自分の財布を気遣うつもりか、新八」

「なんだと! ずいぶん狭量になったじゃねぇか、左之!!」

「わかったよ。今日は奢ってやるよ、新八」

そう原田が答えると、永倉は満面の笑みを浮かべながら陽気に応えた。

「おお、流石は左之だな!」

 

 

 

土方から千鶴への伝言を頼まれた原田は、千鶴の部屋の戸の外から声をかけた。

「千鶴、起きているか?」

そう原田は、深夜という時間に気を使いつつも、通るような声で千鶴に声をかけた。

しかし、明かりをつけている千鶴の部屋からは返事がなかった。

「……返事がねぇなら入っちまうぞ?」

と言った原田は、その言葉通り、千鶴の部屋に無断で入った。

しかし、部屋の主である千鶴は怒るどころか、縫物をしながら寝入っていた。

「縫物をしながら寝ちまった、か。土方さんから呼び出しはあるが、起こすのは忍びねぇな」

そう呟いた原田は、千鶴の手から縫い針と繕いものを、そっと取り上げた。

そして、千鶴が用意していた布団に身体を横たえた。

その上、寝ている千鶴にしか言えない、いや、言う事が出来ない想いを口にした。

「綺麗だぜ、千鶴」

「……」

「俺の女房になってくれねぇか?」

「……」

と、原田は返される事の無い正直な想いを言葉にしたが、千鶴から返答はなかった。

いや、千鶴が熟睡していると思ったからこそ、原田は告げられぬ想いを言葉にした。

その自覚がある原田は、自身の行為を自嘲しつつも、告げた事に後悔はなかった。

「……こんな言葉、寝ている千鶴にしか言えねぇな。いや、今は起きてる千鶴に言葉をかける事も出来てねぇか」

「……」

「おまえの望みと、俺の願いが重なっている事は俺にもわかってる。でも、俺には選びきれねぇんだ。すまねぇな、千鶴」

そう原田は、答えない千鶴に対して、独り言のように告げると退室した。

「今日はゆっくりと寝てくれ。土方さんの用件は俺が請け負うからさ」

 

 

 

千鶴の部屋から土方の部屋へ直行した原田は、正直な報告を言葉にした。

「すまねぇな、土方さん。縫物をしながら寝入っている千鶴には声を掛けられなくてな」

「いや、こんな夜中だ。だから千鶴が寝ていても仕方がねぇし、無理に起こす事もねぇよ」

そう土方に言われた原田は、気遣われていた事実に気付いて目を見開いた。

大仰に驚く原田に対し、書いていた書状から目を離した土方は、原田へと視線を向けた。

「人の気遣いに気付くくらいなら、千鶴の思いにも気遣ってやれ」

「土方さん!」

「おいおい、夜中に大声を出すなよ」

「だが!」

と、原田は土方らしくない色恋沙汰への配慮に対して怒りをあらわにした。

しかし、土方の冷静な口調は変わる事なく、淡々とした口調で原田に告げた。

「俺は色恋沙汰に口を出してるんじゃねぇ。このままだったら、千鶴が思い詰めて此処を出て行きかねぇから、言ってるんだ」

そう土方に事実を突きつけられた原田は、あからさまに身体を硬直させた。

原田らしくない、感情を露わにする態度に土方は驚きつつも、忠告を止めなかった。

「千鶴を護りたいって気持ちに変わりがねぇなら、少しは気遣ってやれ」

「……土方さん」

「おまえも今日はゆっくり休め。明日、俺の言葉を実行が出来るだけの、ゆとりを持つ為にもな」

「感謝するぜ、土方さん」

と、原田に言われた土方は、無言で再び書状を書きはじめた。

それ故に、原田は土方に対して深く礼をしてから退室した。

 

 

 

 

 

今回のSSは違う歌で連想しました。

とあるアニメのキャラソンですが、原田さんは「この歌だ!」という思いがありまして。

歌から連想したSSのシリーズと設定した今回は、あえてこの歌を連想ネタにしました。

また、永倉さんが原作より色恋の機微に聡いとは思いますが軽く流して頂ければ、と。

そして、次回更新は連想シリーズ?の最後となる土方さんのSSです。

タイトルは今までとは違いますが、前3作と同じ歌から連想したSSとなっています。

というか、一番歌詞に近いSSかと。