おまえの為の刀に俺がなろう(斉千)

千鶴の意志を無視した、強引な嫁取りをしようとした風間との決着を斎藤はつけた。

いや、袂を分かった新選組の仲間達の力を借りた斎藤が、風間を倒す事が出来た。

そして、その決着を見届け、斎藤を武士として認めた天霧が、風間の遺体と共に去った。

その戦いの直後、戦場だった仙台城から近い宿屋で、次の戦いまでの休息を取った。

また、風間との決着をつけた斎藤は、宿に着くとすぐに熟睡してしまった。

その為、再び、原田と永倉と平助の助力を受けた千鶴は、事後処理も共に済ませた。

そして、大方の事後処理が済んだ千鶴は、斎藤が起きるのを傍で見守っていた。

しかし、千鶴が傍に控えてからすぐに、斎藤は目を覚まして身を起こした。

「そんなに見つめるのは意図があっての事か?」

そう斎藤は涙目になっている千鶴に、その意図を確かめようとした。

だが、斎藤の身を案じていた千鶴は、その問いに答える事よりも先に体調を確認した。

「斎藤さん! お身体は大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。心配をさせたようだな、すまない」

「いいえ、斎藤さんがご無事であれば私は……」

と答えた千鶴は、再び大粒の涙を流しながら俯いた。

泣いている女人を慰める手段を知らない斎藤は、戸惑いながらも千鶴の涙を拭った。

「……泣き止んでくれないか、千鶴。前にも言ったように、俺には泣いている女を慰める事など出来ない」

「……」

「……では、慰めではなく何を求めているんだ? 答えがなければ勝手に解釈するぞ」

そう告げた斎藤は、自身が寝ていた布団に、千鶴の身を横たえると覆い被さった。

それ故に、千鶴は涙を流していた瞳を大きく見開き、斎藤の意図を確かめようとした。

「さ、斎藤さん?」

と、千鶴に問われた斎藤は、何も言葉を返す事なく、耳へと愛撫する様に舌で触れた。

羅刹となった斎藤に、血を供する場所を、愛でるように触れられた千鶴は戸惑った。

「ま、待ってください!」

「何故に?」

そう斎藤は、千鶴の耳元で囁きながらも、舌で耳に触れる事を止めなかった。

斎藤の甘い囁きと熱い吐息は、千鶴の身をも熱くさせ、言葉を紡ぐ事が難しかった。

しかし、斎藤の態度はその熱さとは違い、いつもの冷静沈着な雰囲気だった。

その差に戸惑う千鶴は、ただ斎藤に告げるべき言葉を一所懸命に伝えようとした。

「え、だって此処には……」

「俺を厭うのでなければ、止める気はない」

「で、ですが、斎藤さんのお身体は回復していませんし……」

と、答えながら抵抗しようとする千鶴に対し、斎藤は真っ直ぐな視線と共に確認をした。

「嫌、か?」

「……ずるいです」

そう答えた千鶴は、斎藤との行為に流されようとしていた。

それを感じた斎藤は、耳に触れていた舌を首へと移した斎藤は、甘い声で千鶴に告げた。

「はじめたのはお前だ。おまえがあんなに熱い眼差しで俺を見つめるから」

「そ、そんな意図はなくて、ただ斎藤さんのお身体を……」

「先程から体調ばかり気にしてくれるが、交わした想いに配慮はしてくれないのか?」

という斎藤の問いに対し、初めて千鶴は否定する事の無い答えを言葉にした。

いや、斎藤の言葉の意味がわからない為、千鶴はただ、素直な問い返しを言葉にした。

「配慮?」

「ただ一人と想う女から、あんなに熱い視線で見つめられ、黙って居られる男などいない」

「で、ですから、そんな意図はなくて……」

そう千鶴が、斎藤に流されつつも抵抗しようとした。

しかし、急に千鶴の身を覆いかぶさっていた斎藤が身を起こした。

その意図を、千鶴が聞く前に、斎藤が部屋の入口にあるとの方へと言葉を投げかけた。

「あんた達は覗きの趣味があったのか?」

という斎藤の言葉は、戸外からそっと中を窺っていた原田と平助と永倉を驚かせた。

「斎藤相手に盗み聞きなんて無理だって言っただろう?」

「そうだよ、一君相手に無謀だって」

「だけど、どうしったって気になるのが人情ってもんだろ!」

そう、三者三様で三馬鹿、否、原田と平助と永倉はそれぞれの思いを言葉にした。

しかし、千鶴との時間を邪魔された斎藤は、不機嫌さを窺える低い声で問い続けた。

「遺言はそれだけか?」

「ま、待ってくれ斎藤! 俺達はただ挨拶をしに来ただけだ!!」

「そうだよ。ただ一君と千鶴が仲良すぎたんで、声を掛けられなかったんだって!」

「覗いたと言われても仕方はないが、惚れた女を口説くなら少しは場所を考えろよ、斎藤」

三馬鹿の、三者三様の言い訳、否、弁明を聞かされた斎藤は、枕元にある刀に手をした。

その行為に一番先に気付いた千鶴は、あわてて斎藤を押し止めようとした。

「あ、あの、私が斎藤さんへ挨拶に来られる事をお伝えすべきだったのに、出来なかった所為です。ですから、処罰は私に……」

と、千鶴に言い止められた斎藤は、言葉の意味を再確認する様に問い返した。

「……先程、この場所に関して告げようとしていたのは、三人の事だったのか?」

「はい。お伝えすべき事も話さずに泣いた私の責任です。ですから、処罰は私に……」

「……どのような処罰を与えられてもかまわぬ、と?」

そう千鶴に告げる斎藤の視線は冷たく、言葉も底冷えを感じさせる低い声音だった。

しかし、千鶴は戸惑う事も怯える事も無く、ただ真っ直ぐな視線と共に斎藤に応えた。

「斎藤さんのお側に居られるなら、父を止めてくださった恩を返させて頂けるなら、私をどのようになさってもかまいません」

という千鶴の言葉を聞いた斎藤の態度は変わる事はなかった。

だが、斎藤と千鶴の会話をしっかり見聞していた三馬鹿は、素直な感想を言葉にした。

「……うわー千鶴ってば男殺しじゃねぇ?」

「……自覚がない分、斎藤の今後と、千鶴の身が不安になるな」

「……確かにあんなこと言われたら、斎藤でも狼になるしかねぇだろ」

そういう、三馬鹿の言葉も聞かされた斎藤は、再び枕元にある刀に手をかけた。

「……処罰など俺は望んでいない。だが、おまえの為に再び剣を取る事は出来る」

という、斎藤の意図がわからない千鶴は、再び、ただ止めようとした。

しかし、先程の脅しとは違い、明確な殺意をともなった視線と共に、三馬鹿を見据えた。

「そこに居る不埒な覗き魔たちを一掃するくらいならな」

「え?」

「ま、待て、斎藤! 俺達は……」

そう平助と永倉は、斎藤に対して弁明しようとした。

しかし、原田はすぐに平助と永倉を引き摺りながら言い逃げた。

「言い訳を言ってる場合じゃねぇ、一時退却だ、平助に新八!」

再び、千鶴と二人っきりとなった斎藤は、不機嫌な思いを隠す事ない表情だった。

それ故に、千鶴は斎藤の機嫌を窺うように、慎重に問い掛けた。

「……怒っています?」

「ああ。だが、おまえの涙を止めてくれた事も、三人に感謝すべきなのかもな」

「そうですね。私からも、もう一度、感謝しておくべきですね」

という、千鶴の言葉の意図がわからない斎藤は、その意味を尋ねる様に問い返した。

「もう一度?」

「はい。斎藤さんが目覚める前に、父の暴走を止める為と風間さんとの戦いの助力への感謝を伝えました。必要ない、と言われましたが、私にはそれしか出来ませんから」

「そんな事はない、と言っているだろう。千鶴、おまえはかけがえの無い存在なのだから」

そう斎藤に告げられた千鶴は、感極まった思いのまま、ただ名前を言葉にした。

「斎藤さん……」

「とりあえず、俺が起きた事を皆に伝えてくれるか?」

「はい。では斎藤さんは?」

と、千鶴はいつもの調子で、そう斎藤に問い返した。

すると、斎藤はいつもの冷静な口調と雰囲気のまま、千鶴を驚かせる言葉を口にした。

「あの三人に制裁を与えてくる」

そう、斎藤らしくない冗談を聞いた千鶴は、想定外だった為、素直に驚いた。

「え?」

「……冗談だ。暫し休ませてもらう。これからの戦いはこの一戦だけではないからな」

「はい。確かに受け給わりました。斎藤さんは少しでもお休みください」

と、千鶴は斎藤の冗談を受け流すと、部屋を辞する様に立ち去った。

それを見届けた斎藤は、再び横になっていた布団に身を横たわらせると再び眠った。

 

 

 

 

 

……あれ?

可愛い斎藤さんを書くはずが……

千鶴嬢の剣となる事を誓う話になるはずが……

まったく意図しない方向に展開していますね(滝汗)

千鶴嬢を想うが故に暴走する、三々九度を交わした時の様な斎藤さんはどこに?

……可愛い斎藤さんは次回に再チャレンジ、という事で。

また、斎藤さんと三馬鹿の会話も書けて、とても楽しかったです。