君のための剣に僕がなる(沖千)

雪村千鶴は生き別れた双子の兄、南雲薫と再会する事が出来た。

しかし、その兄の手によって、千鶴も羅刹へと身を堕とされた。

そして、それ程の悪意の理由も知った千鶴に対し、薫は共に復讐を果たそうと誘った。

しかし、千鶴は薫に協力する養父の誘いも否定し、その野望を止めようと思った。

そして、新選組ではなく、千鶴を選んだ沖田も、その意志を尊重した。

それ故に、千鶴は沖田と共に、薫が待つ、幼き記憶にあった故郷を目指した。

だが、自分の選択に後悔はしていない千鶴は、何故か、いまだに揺れていた。

そう。

千鶴は、沖田を巻き込んでしまった現実に、納得が出来なかった。

そして、実兄と養父を止める決意をしても、実行する力がない自分の非力さにも。

しかし、そのような千鶴の思いに気付いている沖田は、故郷に着く前夜、唐突に告げた。

「君の為に剣を振るう事に、僕は躊躇いなんてないんだ」

「……沖田さん」

そう応えた千鶴が、悲しげな表情で、沖田の名を言葉にした。

それ故に、沖田は千鶴の思い違いを正しながらも、何かを含む様な笑みを見せた。

「駄目だよ、千鶴ちゃん」

「え?」

「君を傷付ける事が出来るのは、僕だけだよね?」

という沖田の主張は、千鶴には理解できなかった。

いや、沖田が既得権益として主張する程の事なのかが、千鶴には理解出来なかった。

「……どういう意味ですか?」

「君を傷付けられる特権は僕だけという意味だよ」

「それは特権になるのですか?」

「うん、そうだよ。だって、僕は君の全てが欲しいからさ、ねえ、君を頂戴?」

そう沖田は告げると、千鶴の顎に手をかけて顔を上向かせた。

これから口づけでもする様な互いの体勢に対し、千鶴は戸惑いつつも沖田に問い返した。

「あの、頂戴と言われても、どのようにお渡しすれば良いのかがわからなくて……」

と千鶴に問い返された沖田は、己の想定外の答え故に、腹を抱えながら大声で笑った。

しかし、沖田の思惑も、大声で笑う理由もわからない千鶴は、素直な怒りを見せた。

「……ってどうして大笑いされるんですか!」

「いや、渡し方を悩まれるとは思わなくて……やっぱり千鶴ちゃんは凄いね」

そう沖田は答えたが、笑いが収まる気配はなかった。

それ故に、千鶴は憮然とした表情で沖田に答えた。

「……そんな事で感心されても嬉しくないです」

「じゃあ、僕が君の全てをもらっても良い?」

「良いも悪いもありません。沖田さんになら総てを差し上げます」

という千鶴の答えは、沖田の笑いを止めると同時に、違う感情を抱かせた。

いや、感情というより、欲望という言葉の方が近いかもしれない。

しかし、千鶴の性格から、それを理解しての言葉とは、沖田も思わなかった。

だから、沖田は千鶴に対し、素直な問いを言葉にした。

「……千鶴ちゃん、誘ってる?」

「え?」

「……な訳ないか。でも、千鶴ちゃんが天然でも振り回すのは、僕だけにしておいてね」

「……あの、どういう意味ですか?」

そう沖田に対して問い返した千鶴は、何故か身の危険を感じていた。

しかし、その理由がわからない千鶴は、答えを、否、その理由を知る沖田に問い返した。

だが、沖田はニッコリという言葉が似合う笑みと共に意味深な言葉でも応えた。

「今はわからなくても良いよ。明日の戦いが終わったら、たっぷりと身をもって教えてあげるから」

と言われた千鶴は、沖田の言動によって、更なる身の危険を感じた。

だが、沖田から逃れようという選択肢を、千鶴は思う事も無かった。

それを察した沖田は、仮面の様な笑みを表情から消すと、真面目な声音で真摯に告げた。

「……僕が、新選組の組長、沖田総司だった時は、君が一番じゃなかったよね」

「……」

「むしろ、君を率先して斬ろうとしていたし、邪険に扱った」

そう沖田に告げられた過去は、千鶴にとっても忘れられぬ過去だった。

そして、その過去があるからこそ、今があるのだと言う事も理解していた。

それ故に、千鶴は沖田の過去を納得して理解も示した。

「……それは新選組の組長としては当然だったと思います」

「……そうだね、『新選組の剣』だった僕には、その選択肢が『正しかった』からね」

「……」

「でも、今は違う。君の事が一番大事だし、守りたいし、愛したい。だから、君もそう思ってくれるかな?」

という沖田の告白は、素直に愛を告げられるよりも、千鶴に深い感動と恋情を抱かせた。

「沖田さん……」

「……これから僕たちは未来の為に、君の家族と対峙する。いや、命がけで説得と勝負を仕掛ける」

そう沖田に再確認を求められた千鶴は静かに、だが、強い意志と共に短く答えた。

「……はい」

「そんな怖い顔は似合わないよ、千鶴ちゃん。それに僕も選んだことだから、気にする必要はないんだ」

「でも……」

と、千鶴が自分の非力さを呪うかの様に表情を曇らせる事に対し、沖田は淡々と告げた。

「ただ、戦う力がない君の為の剣に、僕がなるだけ。それに、君はどんな結末になろうとも、僕の傍に居てくれるよね?」

「はい、私は沖田さんのお傍から離れません」

そう千鶴が強い意志を秘めた瞳と共に、真っ直ぐな視線で沖田を見た。

それ故に、沖田は千鶴以上の覚悟と未来を受け入れた、賢者の様な視線で応えた。

「うん。千鶴ちゃんは良い子だね……ありがとう」

「沖田さん?」

と問い返した千鶴は、沖田の真意と意志を確かめるような、探るような視線を向けた。

しかし、その視線をあえて無視するように、沖田は再び仮面の様な笑みを見せた。

「……今夜は早めに眠ろう、千鶴ちゃん」

そう言われた千鶴は、沖田の真意に疑念があったが、言われた言葉に異を唱えなかった。

そして、沖田の言葉に従うかのように、千鶴は寝床しても良さそうな大木を見つけた。

「……では、あの大木で良いですか?」

「うん。あの木は寝やすそうだね」

「おやすみなさい、沖田さん」

と沖田に告げた千鶴は、寝付きの良さを発揮し、すぐに眠ってしまった。

いや、戦いを控えた前夜の緊張感と、山中を歩く故の疲労が、千鶴の眠りを深くさせた。

それ故に、沖田はただ愛おしい想いから、優しくも力強く千鶴を抱きしめてから囁いた。

「おやすみ、千鶴ちゃん」

そう告げた沖田は、何故か千鶴の様にすぐに寝ようとしなかった。

いや、翌日を思うが故に、千鶴との触れ合いを優先し、すぐに寝ようとは思えなかった。

だから、熟睡している千鶴を抱きしめる沖田は、あえて告げない想いも言葉にした。

「……本当に無防備に寝てくれるね。僕を信頼しすぎだよ。ま、今更、君に僕が嫌なんて言わせる気は、まったくないんだけどね」

 

 

 

 

 

ある歌から妄想、いえ、連想したSSの第一弾です。

今回の状況は、沖田さんルートの最終戦前夜、でしょうか?

初めてこの歌を聞いた時は沖田さんソングだと思ったのですが、歌詞をよく見ると……

新選組の面々でも当てはまると思いまして。

ただ、風間さんは……ちょっとキャラクター色が違うと思うので、新選組の面々だけで。