嫁(風千)

いきなり風間に口づけされた千鶴は、驚きから目を見張った。

正確に言えば、いきなりだと思ったのは千鶴だけだった。

そして、求婚とも思える言葉を口にした風間は、いつもの雰囲気を崩していない。

それ故に、徐々に赤くなる千鶴の表情は、風間の嗜虐心を煽った。

 

「何故にその様な顔を……口づけだけでは足りないのか、我が妻は」

「私は風間さんの妻になる気は……というか、私は求婚されたのですか?!」

と答えた千鶴は、慌てて風間の言葉を否定しながら、事実を確認するように問い返した。

そう問い返された風間は、千鶴の無垢さに言葉を失った。

その様な思いに気付けない千鶴は、風間に対して謝罪を口にした。

 

「あ……すみません」

「何故に謝る?」

「私などに風間さんが本気になられる訳がないですよね……勘違いしてすみません」

と、答える千鶴が相変わらず己の価値と、『男』を知らない事に風間は呆れた。

きっかけは、貴重な純血の女鬼であった事は事実だが、今の風間にとっては違う。

新選組の後を辿る旅を共にするうちに、風間は千鶴が抱く『誠』に魅かれた。

それ故に、風間は言葉少なくも、自傷する様に自虐を口にする千鶴の言葉を遮った。

 

「……俺は同じ言葉を繰り返さないし、他人に心を捧げているお前を嫁にする気もない」

「……」

「身も心も欲する等、お前以外には在り得ない。だからお前の勘違いではない」

そう風間が、素直に己の想いを口にするのを、じっと聞いていた千鶴は笑顔を見せた。

 

「……やっぱり風間さんは優しいんですね。有り難うございます」

「……優しい、だと?」

「ここまで私を連れてくださり、新選組の事も教えてくださり、先の事まで心配してくださったからです」

そう千鶴に答えられた風間は大仰に大きな溜息を吐いた。

千鶴が思う程、風間千景という男、否、鬼は甘くはない。

今の風間は、新選組と刃を交えていた以上の興味と、独占欲を千鶴に感じているのだ。

しかし、千鶴はそんな風間の思惑に全く気付く事なく、不思議そうに首を傾げていた。

 

「風間さん?」

「おまえは本当に清すぎる。お前が里へ来るまで天霧に監視でもさせるか……まあ、そこまで真っ白なお前を染め上げるのも一興か」

何かを企むような、意味深な笑みを見せる風間の意図に、千鶴は気付かない。

そして、それに気付き、名を口にされた天霧は、頃合いを計るように言葉を挿んだ。

 

「……そろそろ郷に戻られて頂けますか?」

「ああ、そうだな。里へは一人で戻る故に、我が妻を仮宿まで案内しろ」

と命じられた天霧は、風間が1人で里へ戻る事に疑問は感じなかった。

しかし、千鶴を任される意図と『仮宿』という言葉に疑念を感じて問い返した。

 

「仮宿、ですか?」

「我が妻の在所は俺の隣以外に有り得ない。しかし、今は仮宿が必要だろうからな」

そう聞かされた天霧は苦笑いながらも、風間の良き変化を受け入れた。

しかし、そのような風間の変化と真意に気付かない千鶴は、提案を受け入れなかった。

 

「え? そこまでして頂くなんて……」

「いえ、気にしないでください。頭領の妻となる女性を護るのも務めですから」

「で、ですから、私は風間さんの求婚に応えられないので……」

そう否定を重ねる千鶴に対し、風間は聞き入れる気がないのか、ただ歩み始めた。

「今、答える必要はない……行くぞ」

 

「とりあえず宿へと戻りましょう」

と、天霧は千鶴を諭すように、風間の後を追おうと促した。

その様な天霧の言動に含まれている気遣いには気付いた千鶴は頭を下げた。

 

「あの、本当にすみません」

「我が里に来られれば、私以上に仕える者が多くなります。少し慣れて頂ければ、と」

そう臣下の態度をとる天霧に対し、千鶴は恐る恐る事実確認を口にした。

「……私などが風間さんの妻になっても、良いと思っているんですか?」

「ええ。ですが、その自覚がないのも魅力なのでしょうね。ですから、理由を答える事は出来ません。知りたければ、風間に直接聞いてください」

丁寧ながらも反論を拒否する様な物言いは、丁寧だからこそ逆らい難い何かが有った。

それ故に、千鶴は話題を変えるように素直な問いを口にした。

 

「……西の里は遠いんですか?」

「そうですね。ですが、この地よりは遥かに過ごしやすい良い里です」

「そうですか。じゃあ楽しみにしています」

風間の真意を、今の千鶴は理解する事が出来なかった。

しかし、風間の好意を甘んじて受けた以上、彼の里へお礼をしに行くべきだと思った。

そのような千鶴の答えは、天霧に自然な笑みを浮かべさせた。

「ええ。貴女が訪れれば、風間も喜ぶ事でしょう」

 

 

 

 

 

誠の旗を抱いて泣いた千鶴嬢がこうも風間さんに振り回されるか?という疑問はスルーで。

そして、風間さんは書いても楽しいという確認も出来ました。

同人誌を読み漁るのも良いですが、時々は書き倒したいお人です。

次に書くとしたら……残念な風間様か、年齢制限付でしょうか?

ただ、予定がかなり詰まっているので、薄桜鬼関連は落ち着くまで難しそうですが。