お手柔らかに(沖千)

沖田が新選組を離れ、療養生活を余儀なくされた時、千鶴は看護を申し出た。

沖田と千鶴の想いを知る近藤は『宜しく頼む』と応え、土方も了承した。

療養中は人が訪れる事は少なく、沖田と千鶴は密かに互いの想いを満たしあっていた。

だが、その生活において、沖田は一つだけ千鶴に不満めいた思いが有った。

 

「ねえ、何時になったら、僕の事を名前で呼んでくれるの?」

そう沖田が問いかけられた千鶴は、ご飯を盛っていた手を止めて目を丸くした。

確かに、千鶴は沖田の名を呼ぶ事に慣れるどころか、恥じらってばかりだった。

そして夜を共にしている時も、沖田が強く言わないと、千鶴は名を口にしない程だった。

 

「今の僕じゃあ、夜を共に過ごしても夫婦は難しいけど、恋人だと思うのは僕だけ?」

「そ、そんなこと!」

「そんなこと? 君は想いもしない相手に身を任せる程……」

と沖田が千鶴を揶揄する様に問い続けようとした。

しかし、千鶴が大声で沖田の問い掛けを遮った。

 

「違います!」

「ち、千鶴ちゃん?」

そう名前だけを問い返した沖田は、予想外の反応に対し素直な驚きをみせた。

それ故に、千鶴は沖田の両手に自身の手を添え、真っ直ぐな視線を向けて言い切った。

「確かに今の沖田さんは療養中です。でも、治らないと決め付けないでください!」

「だけど……」

「病は気からとも言います。沖田さんが治らないと思い込めば、治る病気も治りません!」

そう言い切られた沖田は、千鶴の思いと心遣いへ、心中では素直に感謝した。

しかし、千鶴に主導権がある状況を好まない沖田は、意味深な笑みを添えて問いかけた。

 

「……ふーん。じゃあ、僕とは恋仲どころか夫婦になっても良いだ、千鶴ちゃんは」

「え?」

「だって、さっき僕が言った病への思い込み以外に、否定する言葉はないんでしょ?」

と、沖田に切り返された千鶴は、先程の勢いが嘘のような態度で顔を赤くした。

 

「そ、そういう訳じゃあ……」

「じゃあ、どういう訳なの?」

「……総司さんの意地悪」

そう、いつもは口にしない名前を口にしながら、千鶴は沖田と交えていた視線を外した。

それ故に、沖田も夜の名残を思わせるかすれた声で、再び千鶴に問い続けた。

 

「そんな事はとっくに知ってるだろう、千鶴?」

と問われた千鶴は、耳まで赤くしながら、沖田の視線から隠れるように背を向けた。

その様な恥じらいをみせる千鶴に対し、沖田は場違いな程の大声で笑った。

「あはははは、本当に可愛いね、千鶴ちゃんは」

 

「沖田さん!」

沖田にからかわれているだけだと気付いた千鶴は、抗議するように大声で名を叫んだ。

しかし、千鶴よりも上手である沖田は更に艶のある声で近寄った背後から囁いた。

「駄目だよ、千鶴。また元に戻ってる」

 

再び耳まで赤く染め上げながら、両手で顔を隠す千鶴に対し、沖田は更に笑みを深めた。

「けど、安心して。そんな事が気にならないくらい、溺れさせてあげるから」

「……お手柔らかにお願いします」

そう応える千鶴に対し、沖田は何かを企むような独特の笑みで応えた。

 

 

 

 

 

最初に攻略した沖田さんがトップです。

シナリオ的には微妙と言えた沖田さんですが……とても書きやすい事が発覚しました。

いえ、沖田さんはキャラ的には好きですよ?

ですが、薄桜鬼の恋愛過程に慣れたのが終盤だった所為か、萌えよりも心配が大きくて。

安心した頃には、終章になっていたのです……(遠い目)

ただ、一番短い時間でノって書けたのですが……その理由がないのが驚きです(マテ!)