誕生日という日が、とても楽しい日だと実感する事が出来て、とても幸せだ。
なのに、何故マリンは祝わせてくれないのだろう?
誕生日会を計画していた時も、祝う当日も、マリンはいつも笑顔だったのに。
ただ、僕がマリンの誕生日を祝いたいと言った時以外は。
その理由を……僕は知る事が出来るだろうか。
マリンが悲しむ理由を。
でも、マリンが嫌がるなら、理由なんて必要ない。
ただ、祝わせてほしい。
マリンとの出会いと思い出の記念日だけは。
それならばマリンも喜んでくれると信じているから。
だから、祝わせて?
マリンの事も。
マリンが用意した料理とケーキが無くなり、会話も一段落した時に葵は提案をした。
「そろそろお開き、かのう」
「そうですね。用意したお料理もケーキも無くなりましたし」
そう言ったマリンは、席を立って料理が載っていた大皿を片付け始めた。
なので、主賓であるアクアは、いつもと変わらぬ態度で料理の感想を口にした。
「相変わらず美味ね、マリンの手料理は」
「そうだね。すごく美味しかったよ、マリン」
と、ブルーも微笑みながらアクアの言葉を肯定した。
だから、マリンもブルーとアクアに微笑を向けた。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「では、後片付けとしよう。ブルー殿、暫しアクア殿と共に待たれよ」
と、葵が言いながらマリンを手伝い始めたので、ブルーは慌てて手伝おうとした。
「え? 僕は後片付けも構わないけど……」
「主賓がそれではアクア殿も困るであろう。たまには兄妹の会話を楽しまれよ」
と、葵がブルーを説いたので、アクアは淡々とその言葉を肯定した。
「そうね。4人で暮らしているから、ブルーと二人っきりってなかなか出来ないし」
そう言ったアクアは、ダイニングからリビングへとブルーを連れて行こうとした。
そんなアクアの言動と葵の説得を受け入れたブルーは、素直に連行された。
なので、マリンは葵に数枚の大皿を手渡した。
「じゃあ、葵さん。後片付けのお手伝いもお願いします」
「心得た。では食器洗いからだな」
「はい。あ、ブルーさん」
と、マリンは葵にお願いをしながら、リビングへと連行されるブルーを止めた。
「何、マリン?」
「あ、ブルーさんだけじゃないんですけど、アクアさんにブルーさん、また……祝わせてくださいませんか、お誕生日を」
「マリン……」
と、ブルーはマリンが真っ直ぐ見詰めながら願う姿に対して素直に喜んだ。
しかし、アクアはいつもの口調で淡々とマリンの言葉を否定する様な提案を口にした。
「私とも予約するより、ブルーのみにしておく方が確実よ」
「え?」
「私の誕生日を祝いたいと思う人が、マリンだけじゃなくなるかもしれないから、ね」
そうアクアが答えた時、葵は素直にその答えの結末にある喜びを祝うように問い掛けた。
「ほう、アクア殿にも『春』がくるのか」
「ま、葵よりは先に来るかもね」
淡々と、だが確信的にアクアは葵に対してそう答えた。
すると、ブルーは真剣な表情でアクアへ確認する様に念を押した。
「アクア、報告は必ず、だよ」
というブルーに対し、マリンは再び真剣な表情で問い掛けた。
「えっと、あの、じゃあ、ブルーさん……祝わせてくれますか?」
「……条件は1つだけあるけど構わない?」
と問い返すブルーは、珍しくマリンのお願いに対して微笑みを返さなかった。
それ故に、マリンは固唾を呑んでブルーに続きの言葉を促した。
「……何ですか?」
「これから僕達に出来る祝い事は2人で祝おう」
そう言われたマリンは喜びのあまり、ブルーの名を口にする事しか出来なかった。
「……ブルーさん……」
「マリン、返事は?」
「はい!」
そう答えるマリンは、ブルーの言葉の真意に気付かなかった。
いや正確には、ブルーとマリンが互いの言葉に含まれる一般的な意味に気付かなかった。
しかし、アクアと葵はその意味に気付いていた。
だが、アクアは後の楽しみの為にその事を指摘しようとはしなかった。
「……小姑ライフ、楽しめそうね」
とアクアが呟いた為、葵はブルーとマリンの雰囲気を壊さぬような小さな声で同意した。
「そうだのう。『春』よりも先になるかも知れぬが……程々にな、アクア殿」
「それは二人しだいね、うふふふ」
そういうアクアの思考にある『小姑ライフ』を葵は想像できなかった。
だが、ブルーとマリンに、小さくも大きな障害が既に出来ている事を確信した。